幕間:帝国の創世神話
『神聖大八洲魔導帝国 聖典第一章・創世の光と鉄の使徒』より抜粋
はるか太古の昔。
この世界は昏き瘴気に包まれ、大地の大半は異形の魔物が這い回る魔境であった。
脆弱な人の子らに安息の地はなく、瘴気の薄い険しき高山のいただきに身を寄せ合い、ただ静かに滅びの時を待つばかりであった。
だが、祈りは天に通じた。
ある日、天空がまばゆく輝き、星の海から大いなる『女神』が舞い降りた。
女神は絶望の淵にあった人の子らを深く憐れみ、生きてこの星を統べるための「三つの恩寵」を与え給うた。
第一の恩寵は『魔力』。
自らの内に星の息吹を取り込み、瘴気に抗い、理を操る力である。
第二の恩寵は『亜人』。
瘴気に耐えうる強靭な肉体と獣の特性を持ち、人の子らと共に魔境を切り拓くための、頼もしき同胞として産み出された。
第三の恩寵は『魔導神機』。
人の言葉を解し、大地の形を変え、魔物を退ける力を持つ、鋼鉄の使徒である。
女神の恩寵により、瘴気は払われ、森と水に恵まれた世界が姿を現した。
人と亜人は手を取り合い、神機の導きに従って大地を耕した。やがて世界は緑に満ち、豊かな安住の地となった。人々は地に満ち、女神の愛を讃え、永遠の平和が約束されたかに見えた。
しかし、豊かさはやがて人々の心に驕りを生んだ。
自らの力で世界を支配したと錯覚した人々は、女神への感謝を忘れ、魔力を私欲のために使い始めた。
兄弟であるはずの亜人を奴隷として蔑み、人同士でも血を流し合う凄惨な争いが始まったのである。
その愚行に、女神は深く嘆き悲しみ――ついに、大いなる怒りを現した。
空が割れ、無数の炎が星となって降り注いだ。
大地は砕け散って水に沈み、太陽の光は黒き雲に遮られ、果てしない暗黒の日々が世界を覆い尽くした。
『天罰』である。
驕り高ぶった愚かな者たちは業火に焼かれ、世界は再び死の静寂に包まれた。
だが、女神の愛は完全に失われたわけではなかった。
争いを避け、女神への信仰を忘れなかった僅かな者たちがいた。彼らが逃げ込んだのは、女神が残した『魔導神機の神殿』であった。
神殿の堅牢な壁は天罰の炎を退け、中に身を寄せた人々を護り抜いた。
大崩壊の後、人々は荒れ果てた地上で、動かなくなった神機を神体として崇め、幾世代にもわたり護り続けた。
そして途方もない時が流れた後。
神殿を束ねる神官長の中に、眠りについた神機の「声」を聴く者が現れた。
彼こそが、我らが神聖大八洲魔導帝国の初代皇帝である。
皇帝は神の啓示を受け、神機に宿る『魂』を新たな鋼鉄の器へと写し替え、ふたたび息吹を与えるという奇跡を成し遂げた。
これが帝国の魔導機械技術の始まりであり、我らが文明の偉大なる礎である。
今もなお、天空の彼方には女神が座す超文明の遺跡が在り、我々の行いを見守り給うている。
女神は深き眠りについておられるが、我らが神機を通じて微かな繋がりは保たれている。
いつの日か、女神が再び目覚めるその時まで。
我らは正しき信仰を胸に、鉄と魔力の力をもって、この星を統治し続けなければならない。
(以上、帝国神学校の歴史教本より抜粋)




