23、レーミードードーソー、レミドドソ
故ヘイジさんの解体は終了。魔石以外で使えそうなものは、少しの鉱物と牙と皮くらい。あとはもう、グチャグチャのドロドロで──使えるのかどうかもわからない。
口から飛ばしてた銭も、掘り出した土を魔力で固めただけのものらしい。「胃?」の中はその土でぎっしり。ちらほら使えそうな鉱物が混じってる程度。
その他の内臓器官も、この世界の人になら何か役立つのかも知れないけど、わたしはいらない。
結果、周囲はカマヤツさん以上の大惨事。
「ひどいねー」
『ほとんどが脂肪と体液と土でしたからね』
ヘイジさん(仮)の魔石のおかげで、わたしの活動環境は整った。
マニピュレーターは二本取れたままだけど、大きな支障はない。
「どうしよっか?」
『人類の集落を目指しましょう』
「殲滅するの?」
『しません!』
「よかった。チハたんが血に飢えた殺人マシーンになったのかと思った」
『どこからそんな思考を捻り出してきたんですか!』
「いや、魔素解放の口実になるし、ほら、シリアルキラーって最初は昆虫の足をもぐとこから始まるって言うし」
『どちらかと言うと、この惨状はあなたのせいじゃありませんか』
「そかな?」
確かに、ヘイジさん(仮)の皮膚を鎌で貫く「プチッ」って感触がなんか気持ちよくて、ところ構わず刺しては切り、刺しては切りしたけど……。
『そうです!』
「じゃなぜに人の町へ?」
最初の予定では、『補給基地を探しましょ』って事だったんだけど、ここに来ての変更?
『この地に前哨基地や補給基地が存在しない確率が高いと思われます。よって、それに変わる設備の確認と、その確保のためです』
「あーそれは無理だと思う。こんな戦車を整備する技術はないわよ」
『理由は?』
「だって、異世界転生といえば中世ヨーロッパ文明が定番でしょ」
『根拠は?』
「そーゆーもんだから」
『…………』
まぁ、わたしもこの世界の人には会ってみたいから、行く事には反対しないけど、チハたん落ち込まないといいけどね。
「じゃ人族の生存領域へGO!」
『了解です』
「あ! ストップ!」
危ない。
また、闇雲に真っすぐ進むところだった。
人間ってどの辺で暮らしているんだろう?あんな巨大なカマヤツさん(仮)やヘイジさん(仮)がいるような場所には、きっといないわよね。
えんやこらさんズ(仮)に聞いておけばよかった。今更言ってもあとの風祭右京だよね。
魔素はたっぷりあるし、とりあえずこの森を抜けましょ。ってことで――
「前進! ドローン序は10時~0時、ドローン破は0時~2時へ索敵GO!」
進み続けて三日。いまだに森の中だ。
木を踏み倒しながらだけど、結構な距離を進んでいると思う。魔物は時々見かけるけれど、わたしの進路上には出てこない。
もう一生この森から出られないんじゃないかと思った頃――
「あれ? チハたん、見て。少し木がまばらになってきてない?」
ドローン序のモニターに変化が現れた。
『そのようです。前方、およそ500メートル先に、微弱な人工物の反応を確認しました』
「人工物! やった! 文明の利器よ!」
森を抜けると、目の前には想像していた「中世ヨーロッパ風の村」とはかけ離れた光景が広がっていた。
丸太を粗雑に組み上げただけの砦のような壁。その中にはボロボロのテントや崩れかけた小屋。
そして、壁の外には、見るからに疲弊しきった様子の人々が、細い鍬で荒れた土地を耕している。
彼らの服装は薄汚れており、武器らしいものは手に持っていない。生活に困窮していることが一目でわかった。
『確かに人工物の反応です。しかしこれは補給基地というより、難民キャンプのようです』
「うわぁ……定番の豪華な城下町とか、活気ある冒険者の集まる街じゃないのね。これじゃあ、美味しい謎肉の串焼き屋さんなんて期待できそうにないわ」
気分はシオシオのパーよね。
まあ、今の身体じゃ食べログ4.6の串焼き屋さんがあったとしても、味わえないけどね。
『ドローン序から報告。集落の住民は、こちらに気づいた模様です。ちょっとした騒ぎになっていますね』
「そりゃそうだ。いきなり森の中からこんな戦車が出てきたらね。ていうか、あの砦の壁、私が一回体当たりしたら終わりそうよ?」
さて、どうしよう。このままあそこへ出て行ったら、パニック確実よね。
「チハたん、あれ使ってみるけど大丈夫?」
『“大丈夫”の意味がわかりかねますが』
「違和感すごかったり、妖しい化け物扱いされてボコボコにされたりしない?」
『どちらも問題ないかと。ただし、時間制限と直接接触できない点はご注意を』
安心できるんだかできないんだか分からない答えだけど、もう行くしかないか。
「オッケー! やっちゃって! キューポラハッチ開放。投影開始!」




