22、晴れた美空に腕が飛ぶ
ヘイジさん(仮)に向かって一気に駆け出す。ヘイジさん(仮)は一瞬戸惑ったように、動きを止めたが、すぐわたしに向かって動き出した。
前哨戦は、魔導銃と投げ銭対決。魔導銃の出力は「弱」に設定。どうせ、威嚇っていうか「嫌がらせ目的」だしね。
あ、「ステイ!」えんやこらさんズ(仮)が魔導銃と投げ銭の魔力に反応して、わたしの方をチラチラ見てる気がする。
「ステイよ。ステイ。えんやこらさんズ(仮)そのまま魔石のとこにいてね」
[シュピシュピピカピカ面白そう][ダメ。ここにいないと][あっち][こっち][あっち][こっち][あっちこっちスティッチ!][チック][タック][チップ][デール][トム][ジェリー]
なんかわかんない遊びが始まったみたいだし、まぁ大丈夫そうね。
ヘイジさん(仮)まで五メートル。鎌準備OK。
さすがにデッカい。このまま口に飛び込むって作戦がチラリとよぎったけど。ここは予定通りに、斬る!
ヘイジさん(仮)と接触直前にホバーで左に飛ぶ。
そのまま胴体にそってダッシュ。
えんやこらさんズ(仮)の集団はもうすぐ。
鎌を振りかぶって、斬る!
ヘイジさん(仮)の胴に一筋の緑の線。──浅い!
表皮を斬っただけ。
鎌の斬れ味は問題ない。問題はマニピュレーターが鎌を保持出来ない。刺さった抵抗で腕が後ろに持っていかれた。
慣れない身体、慣れない武器なのに、綺麗に斬ろうと変に格好つけたせいよね。
「一旦離れるわ。魔導銃、出力強でよろしく」
距離をとる。ヘイジさん(仮)も斬られることを警戒しているのか、身体を左右に波うたせている。
わたしは戦車の力を信じ、魔石目掛けて再度突入する。
十メートル。ヘイジさん(仮)が魔石を移動させる。それに合わせてえんやこらさんズ(仮)も移動。
五メートル。──逃がさない。
三メートル。危険を察知したのか、頭から地面に潜ろうとする。──逃がさない。
一メートル。わたしを近づけないよう激しく身体を振っている。そして、魔石も移動。──逃がさない。
マニピュレーターを車体に押し付け鎌をガッチリ固定する。そのまま魔石目掛け車体ごとぶつける。
ヘイジさん(仮)の胴体に鎌を食い込ませたまま、走り抜ける。
鎌が魔石に当たったのを感じた瞬間、右側の四本のうち二本のマニピュレーターが、鎌を掴んだまま吹き飛んだ。
[わー魔石だ][魔石でて来た][二個になってる][お腹切れてる][痛そー][魔素ー][死にそー][死んでそー]
えんやこらさんズ(仮)のお気楽な声で、無事倒せたのがわかった。
「ふはははは。わたしの辞書に不可能の文字は無い!」
『マニピュレーター取れちゃいましたが』
「拾ってくっ付ければOKなんでしょ」
『作業員がいないので難しいです』
「作業用マニピュレーターあるじゃない」
『二本では取り付け作業が無理です』
「左の四本無事でしょ」
『届きません』
「へ?」
『左のマニピュレーターは右の作業位置に届きません』
「お酢飲んでもダメ?」
『……はい』
ま、取れちゃったものは仕方ない。そのうち修理の方法思いつくかもしれないし。
魔石も二つに割れちゃったみたいだし、一個はえんやこらさんズ(仮)にあげよう。半分でもカマヤツさん(仮)の魔石くらいの大きさがあるしね。
「えんやこらさんズ(仮)その割れた魔石一個持っていっていいよ」
[いらなーい][必要なーい][千波が使って][そのうち魔素に戻るし][使ったら魔素出るし][バーンってのみたい][バーンいつやるの][バーンやって][バーン!][バーン!][バーン!][ハートをもっと]
全部もらえるのはありがたいけど、魔弾はさすがに無駄撃ちできないなぁ。
「あーごめん。バーンはちょっと今は無理かな。また今度見せるね」
[今度?][いつー][今度っていつ?][いつー?何時何分?]
「うーーーんと、大きい魔物が出た時かな」
[おー大きいやつか][どこかにいた?][みてない][探す?][探す][探そ][行こう][いくよー][くるよー][どやさ]
そう言いながら、えんやこらさんズ(仮)は嵐のように去って行った。
後に残されたのは、戦車と大きな故ヘイジさん。
「取り敢えず、片付けよっか」
マニピュレーターが二本足りないせいもあり、故ヘイジさんの片付けに丸二日掛かった。




