21、よみがえる、よみがえる、甦るカマヤツ
まさか、体内の魔石を自由に動かせるとは、わたしの灰色の脳細胞でも気づかなかったわ。
でも、こんなこともあろうかと用意していた代案《ごいごいすー》がある。
第二作戦《ごいごいすー》準備!
『その作戦には未確定な要素が多すぎます。もう一つの代案《さんたまりあ》は、どのような作戦なのでしょう』
もう一つの代案……確か《さんたまりあ》だったわね。あれは……。
『まさか、ただ作戦名を言いたいだけですか?』
「ち、違うわよ。……まず、ヘイジさん(仮)の噛みつき攻撃をギリギリ交わせる距離で、逃げ回るの。迫り来る顎門を高速機動で翻弄し、ヘイジさん(仮)の身体の周辺を縦横無尽に駆け回り、夢中で追ってきたヘイジさん(仮)が気づいた時には、自分の身体が固結びされてるって寸法よ。そして動けなくなったところを、魔石を動かす隙を与えず近距離から確実にズドンっと」
『…………もう逃がしましょう。今無理に倒す必要もないです』
「でも、ヘイジさん(仮)は、わたし達を逃す気はないみたいよ」
千切れた部分も繋がり、さらにお怒りモードみたい。ないはずの肩をぐるんぐるん回してるのが見える気がする。
「それに、せっかく来てもらったえんやこらさんズ(仮)に、お土産も渡さないと」
『アレへの土産は、コマンダーのメモリチップを二、三個抜いて渡せばそこから適当に魔素吸っていくでしょ』
「えーん。チハたんのいけずー」
って、まぁ確かに穴だらけの作戦だわ。自分から進んで食べられには行きたくないし、あの太い胴体が結ばれるようなことはなさそうだし。
[ねーまだー][バーンってのやってー][魔石ここー][この前のより魔石大きい]
「ちょっと待ってねー」
『呼んでますよ。メモリチップ投げてあげたらいかがです?』
「わかったって。別の作戦考えるから、その間うまく逃げておいてね」
『大丈夫ですか? 「良いのが浮かんだ! 究極の案《こーきゅーもなかー》」とかはなしですよ。中味のない最中なんて、唇に張り付くだけですからね』
あ。……ちょっと悔しい……。
うーん。一気に三発くらいまとめて撃っちゃえば、どれかには当たるかな。魔弾さえいっぱいあれば悩まなくて済むのに。
カマヤツさん(仮)は糸を吐いて来たけど、わりと簡単だったな。
「再生するのと頭が二個あるのがネックよね。カマヤツさん(仮)は楽だったわね」
『攻撃力だけなら、カマヤツさん(仮)の方が上でしょうね。風魔法と鎌での物理攻撃、そして、糸吐きもありましたし』
あ!
「ねぇ! カマヤツさん(仮)の糸と糸の素回収してたわよね。それ使えないかしら?」
『……無理ですね。糸そのものは、すでに粘着力は落ちていますし、マニピュレーターでは展開に時間が掛かり過ぎます。溶液は噴出させる装備がありません。噴出ポンプなら仕組みは簡単ですのでカーゴスペース内で製造は可能ですが、二日は掛かるかと』
二日かぁ……このままこの広場で、追いかけっこしながら待つのもね。
それで上手くいかなかったら、ショック大きいし……。
お? おお! 名案思いついちゃった!
そうよ。逃げながら戦うなんてわたしの趣味じゃないわ。
「チハたん! 魔導銃撃ちながら一旦距離を空けるわよ! 車体の機動は任せたわよ! それとカーゴからアレ出して! カマヤツさん(仮)の鎌!」
「総体、団体、個人優勝」の私の実力を見せてあげるわ。得物の形状、そして私の体型は変わっていても、敵を斬り倒す感覚は同じよ。
『まさか斬るつもりですか』
「これなら万一失敗してもリスクは少ないでしょ」
『まぁ』
魔石を動かしても、周辺を一文字に掻っ捌くから逃げられないわよ。
ふふふ。智輔を泣かしながら鍛えたこの腕。剣道三段、なぎなた初段の技の冴えを身体に叩き込んであげよう。ヘイジさん(仮)、十手がなくて残念だったわね。
「えんやこらさんズ(仮)、魔石の位置に張り付いててね」
[わかったー][ドーン待ってる]
そろそろ良い感じの距離ね。
「チハたん。その場で180°旋回。魔導銃は任せるから、撃ちまくって意識逸らせて。車体の機動とマニピュレーターはわたしが担当するわ」
ヘイジさん(仮)に相対すると、カマを車体の陰に隠すよう構え、一気に走り出した。
「行くわよ! 最終奥義、至高にして高級、究極の案《こーきゅーもなかー》!」
『おいっっ!』




