17、尻か頭か、頭か尻か、尻か頭か、見当がつかぬ
「チハたん! ヘイジさん(仮)が逃げるわよ! 頭を潰しても動けるじゃない!」
もう! チハたんがミミズは分裂しないとか言うから、油断しちゃったわ。
『叩いたのは、頭では無かったのでは?』
「いいえ。あれは絶対頭よ! 目もあったし、口もモニュモニュ動いてたわ。きっと美味しいものを食べる夢でも見ていたに違いないもの」
『……なるほど、そうですか』
『なるほど』とか言いながら、全く納得して無さそうなチハたんは置いといて、地中へ逃げたヘイジさん(仮)を追わなくちゃ。
地中レーダーには遠ざかってゆく姿が映ってはいるが反応は鈍い。
『地中レーダーは索敵範囲が狭いので間もなく範囲外に消えそうですね』
「じゃ、ヘイジさん(仮)に逃げられちゃうって事!」
『ドローンを回収し地中レーダーに換装し、再度送り出しましょう』
「そんな余裕ある? 急がないと見つからなくならない?」
『おしり……頭部も吹き飛んでいますし、相当のダメージは受けているでしょう。それに地中に潜ったのは、逃走のためというより、回復の時間を稼ぐのが目的だと思います』
ドローン破くんを回収し地中レーダーに換装し送り出す事にした。
ドローン序ちゃんはそのままヘイジさん(仮)が逃走した方に向かわせる。ある程度こちらとの距離が開けば、体力回復のため地上に出て、捕食活動を行うかもしれないし。
ドローン破くんがヘイジさん(仮)に張り付けたとしても、地上に出てこないと攻撃出来ないわよね。
ドリルとかがニョキって生えて地中を進めたり出来ないのかしら。気が利かないわね。
『この車体が通る穴を掘るには相当大きなドリルが必要です。そんな巨大なものを生やすなど物理的に不可能です。万一ドリルがあったとしても、岩盤に当たった途端車体が回転してしまうでしょう』
「あー、頭にプロペラ付けたら首が捻じ切れちゃう、ってのと同じかぁ。ドリルはロマンなのに残念」
あ、絵面を思わず想像しちゃった。
(四人の少年少女の首無し死体。その側にはニヤリと笑う青いロボット……)
えっと……そうだ! ヘイジさん(仮)の再発見を待つ間に、お仕事しましょう。
「チハたん! ヘイジさん(仮) のおし……頭を回収するわよ!」
戦車はヘイジさん(仮) のお尻……じゃなく頭がもげ落ちたあたりに移動した。
周辺にはヘイジさん(仮)の肉片が飛び散り、なかなかの惨状を見せていた。
「あたま、あたま、あたまー、あたまーを探そーう」
グニョンって感じで落ちたので、塊であると思うんだけどね」
『あの木の枝に白い塊が突き刺さっています』
ん? 「あったー!ヘイジさん(仮)のお尻発見!」
『今、お尻と?』
「き、聞き間違いだと思う。頭って言ったわよ」
『…………』
「疑うのなら証拠出しなさいよ!何時何分何十秒に言ったのよ!」
『データのログが残っておりますが』
「………………よし! 回収するわよ! ほら!ちゃっちゃと動く! 遅いことは牛でもするわよ!」
回収は結構大変だったけど、マニピュレーターたちが頑張ってくれたおかげで、地面に降ろす事が出来た。
ん? なんかキバっぽいものが見えるんですけど。それにその上には透明な玉状のものが二個……。
えっ?……頭やん……。こっ!これ頭やん!
ふははは! 正義は勝つ!
「チハたーん。これ頭みたいよ。ねぇ頭。ヘッド。フェイス。」
『はい。頭部と思われますね。そのように、おっしゃっていましたが』
「じゃ、ヘイジさん(仮)は、なぜ動いているのかしらぁ?」
『推測ですが、分裂によって無性生殖する種類だったという可能性があります。また、連鎖体として元から二匹が繋がっていた可能性もあります』
「ほうほう。予想が外れて悔しいねぇ」
『コマンダーの判断材料として情報の提供をしただけで、悔しいというような事はございません。ドローン破がヘイジさん(仮)を発見したようです。追尾しますか?』
わたしは心の広い大人だからこれ以上追求はしないであげよう。
レーダーでサーチした情報しか無いから、分かりにくいわね。
問題は地下から引っ張り出す方法よね。お腹も空くだろうから、そのうち上がって来るとは思うけど、ずーっとそれを待ってるだけっていうのもね……。
考えてても良い案出ないし、頭を収容して、ドローンズのところへ向かう事にした。
ヘイジさん(仮)の頭を収納していると、ヘイジさん(仮)の動きが変わった。こちらに近づいて来る感じ?
この場所に用事があるのか、戦車に用事があるのかってとこね。
勘だけど戦車に用事がありそう。用事っていうかきっと復讐よね。地下にいるから見つかって無いと思ってるのだろう。
コッソリ近づいて、地中からガボッって感じで美味しく頂く気なのかな。
餌で釣ろうかと思ってたので、それは好都合。ズボって出て来てガボって齧りに来るところをヒラっと避けて、ズドンって倒す作戦でいきましょう。名付けて『ズボラドン作戦』。
「チハたん! ズボラドン作戦準備用意!」
『それだけでは意味わかりません』
「えー!」
▼全く登場していない人物紹介▼
添田唖蝉坊
明治〜大正期にかけて活躍した演歌師
政治や社会の批判を路上で歌っていた。
演歌=演説を歌にしたもの。
シンガーソングライターであり、ストリートミュージシャン。
レコード嫌いだったため、録音は残っていない。




