12、ごめんください、どなたですか
カマヤツさん(仮)、倒してみると想像以上にデカくて解体が大変だね。蜘蛛の巣掃除はウニョウニョの腕があちこちから伸びて、わりと早く片づいたけど、カマヤツさん(仮)が未だにドデンと横たわってる。
「取り敢えず先に収納しちゃわない?」
【先に解体しないと収納出来そうにないですね】
「ん? 小さいけどでっかく物を入れられるって自慢してなかったっけ?」
【自慢はしていません。事実を述べただけです】
「じゃ、ナゼに? 魔空空間に引き摺り込めば3倍のパワーが得られるのだ!とか出来るやつでしょ」
【違います。出来ません。どこの宇宙犯罪組織ですか! カーゴスペースには空間拡張魔法の術式が刻まれてますが、搬入口を通らないのです】
手を触れるだけとか、念じるだけでは収納出来ないのか。魔法は万能って訳じゃないのね。
【上位の魔術師か魔導師が随伴していれば可能です。脚はそのまま入るので問題無いですが、厄介なのが胴体部分ですね】
うわぁ。魔石だけ取り出して残りをポイするにしても……。あれを切り開くのかぁ……。考えただけで身震いするわね。
「じゃ先ず、センサーでサーチ掛けて、魔石の位置を特定してちょうだい」
うまくピンポイントで取り出せればいいけど、全体を切り裂く事になったら……「内蔵と体液の宝石箱やぁ!」ってなりそうよね。
どちらにしても、体内の器官が利用できるか調べないとだし……。
サーチ結果を待つしかないか。
あ、そういえば、もう一頭の魔獣もそろそろ発見できる頃かな。そっちの対処も考えなくちゃ。忙しい。
のんびりモフモフの異世界ライフは遠いなぁ……。
【高濃度の魔素の流れがこちらに向かって来ます】
魔獣か何かが近づいて来てる?
えーっと、あ、これか。なんだか固まった感じで近づいて来てるなぁ。木を避けながら進んでるみたいに見えるから、魔物の群体かなぁ。
んと、カマヤツさん(仮)に付いてたドローンはどうしたっけ。
「チハたん、こっちにいたドローンを魔素の固まりの方に送って。あまり時間が無さそうだからダッシュでお願いね」
【了解。既に向かわせております】
さすがチハたん。モニターの景色に変わり映えがないから、見てるだけじゃ、どこ飛んでるかわかんないね。
関節のところでプッチンした脚は全て収納完了。あとは胴体がまるまる残ってる。見ていてもどうなるものでも無いし、解体するか。
わたしはドローンのモニターに集中しようっと。チハたんには解体を押し……お願いしよう。
「チハたん解体作業よろしく」
【了解】
返事短か!
「そろそろドローンが現場に到着しそうですね。現場のドローンさん、今どう言った状況ですか」
「はいはい、こちらドローンです。ただいま現場に来ておりますが……」
【……ひとり遊び楽しそうですね】
「さ、殺伐とした現状に一服の清涼をと思っただけじゃない」
【魔物の解体になんの抵抗も無いので、無駄なフォローは必要無いです(ただ、それをやりたかっただけだとは思いますが……)】
チハたんの心の声が聞こえた気がする。やっぱりちょっと怒ってるやん。
ドローンに集中しないと本気で怒られそう。くわばら、くわばら。
おっと、脳裏に浮かんだ新喜劇の人を消して集中。
ん? 何も無い。何も居ない。
でも確かに、魔素の濃い部分って言うか、魔素の固まりがこちらに向かって移動してる。
なんだろ。自然現象? にしては、動きに意思を感じる。
魔素を視覚化出来ないから、もどかしいんだけど。魔素センサーのモニターに映る漂ってる感じが、虫とかの群体じゃなく煙っぽい。煙々羅とかってこんなのかも。そう、妖怪腕時計に出てきた、えんらえんらさんみたいなやつ。
よしキミの名前は『えんやこらさん(仮)』で!
顔も空中に浮かんで無いし、生き物って決まったわけじゃ無いけど、うん、名前大事。
このままじっと見てても進展はなさそう。思いきってドローンをその固まりに突っ込ませてみる。一瞬、ドローンを囲む素振りを見せたが、すぐに散らばって少し離れたところで、また集まった。
攻撃はして来ないのかな。大きいビニール袋みたいなのがあれば集められそう。無いからダメだけど。
「チハたん。もう8分程でこっちに着きそうよ。解体途中だけど触手を仕舞って『故 カマヤツさん』から一旦離れる?」
【触手ではありません。マニピュレーターです】
そして、チハたんはドローンからの監視データを一瞬で取得・解析した。
「こちらに向かって来るのが偶然なのか、目的があるのなら、わたし達か、故カマヤツさんか、どっちを目指してるのか判るし」
【了解です。解体作業中断します。現在、魔法的処置が出来ないので、物理的処理で死骸を隠します】
チハたんは触手を使い、周囲に散らばっている木の枝や葉で、故カマヤツさんを手早く覆い隠した。
……うん。すっごい不自然……。
【マニピュレーターによる死骸の隠蔽作業完了しました。移動致しましょう】
「う、うん。すごいわね。わたし達も隠れましょ」
なんだか、わたしのチハたんを見る目が優しくなった気がした。
【高濃度の魔素の固まり、来ます】
「あ、それ『えんやこらさん(仮)』って名前だからね」
【…………】
魔空空間。
文中に出てきた謎の空間ですが、特撮ヒーロー物や戦隊物で同じような謎空間が登場します。
引き込んだ方が言うほど強くなるわけじゃなく、引き込む意味あるの? って思っていました。
アレ、実はすっごい大事な事なんですよね。
大人の事情ってやつです。
街の中や、ビルの駐車場などで戦いが始まり、クライマックスで大爆発!
それをVFXで壮大かつ華麗に見せる事が出来なかったので、必要なのが大量の爆薬。
そんな大規模な爆破を、街なかや撮影所内では出来ないので、やむなく採石場などで撮影する事に。
で、背景の整合性をとるため、謎空間へご招待って事みたいですよ。
芸人の皆さま、ロケ場所が採石場だった場合、お気をつけくださいね♪
▼登場人(?)物紹介▼
【故 カマヤツさん】
お亡くなりになったカマヤツさん(仮)のでっかい死骸。
チハたんは死骸。千波は死体と言うが、そこに何の拘りも意味もない。
素材としての利用価値があるかは、調査研究の結果待ち。
【えんやこらさん(仮)】
高濃度な魔素の固まり。
正体不明。生命体かどうかさえ判らない。
今後の情報に期待。