朝露に濡れた花。
「ねぇ海人。いつまでこんな生活続けるの?」
「ん?」
場所は私の家。時刻は22:00。
私は珍しく本気で彼と将来のことを話し合おうとしていた。
しかし、彼は私のキッチンで勝手に作ったカップラーメンを啜りながら、キョトンと子供っぽい目でこちらを見返してくる。
「どゆこと?」
「だから、いつまでこんなコソコソと付き合うの?
デート場所は私の家しかないし。もう飽きたよ。」
「俺は結衣と一緒にいられるなら何でも良いけど。
コソコソが嫌なら堂々とする?」
「はぁ、、」
こういう、あっけらかんとした性格が彼の良いところであり悪いところなのだろう。
だけど、本当に今回はそれで済ませられる問題ではない。
まずまず、堂々とできるわけがないのだ。
彼には ”家族” がいるのだから。
私が手を出していい存在ではないのだから。
「デートだって行けばいいじゃん。
海とか映画とか、遊園地もいいな。」
「もう、だから何でそんなに楽観的に考えられるの。誰かにバレたらどうすんの?」
「別に良いじゃん、バレたらそれで。」
「良いわけ無いでしょ、、」
「俺は好きだよ、結衣のこと。結衣は俺のこと好きでしょ?
良いじゃん、それだけで。幸せじゃん。」
突然の彼からの告白に不覚にもドキッとしてしまったが、今はそんな場合ではない。
胸の高鳴りを払拭するように横に首を振り、彼と再び向き合う。
「そんな簡単な話じゃないんだって、、」
・
あれから数ヶ月が経ち、彼と迎える三度目の春が来た。
あの後私は色々考えて考えて考えた。
一度彼の家まで行って、彼が小学生ぐらいの女子と30代ぐらい女性とペットの犬と遊んでいるのを遠くから見ていたこともある。
彼は凄く楽しそうで、やっぱり彼の居場所はそこなんだと痛いぐらいに実感させられた。
そして、私は自分の未来と彼の未来のために一つの結論を出した。
・
ひらりと舞う桜の下で友達と一緒に写真を撮る彼は儚くて、彼を見れるのもこれが最後かと思うと早くも涙腺が緩みそうになる。
「西山くん、ちょっといいかな。」
集団の中から彼を連れ出して、人目につかない木陰まで連れて行く。
「どうしたの?結衣」
「ちょっと。こういうところでは ”星山先生” って呼んでっていつも言ってるじゃん。」
「はいはい、すいませーん。」
制服を着た彼を、まだ18の彼を見ながら思う。
大人の私が、まだ高校生の所詮まだ子どもの、彼に手を出して良いはずがなかった。
「もう卒業かー早いね」
桜を見ながらボソリと呟く彼。
初めて会った高1の時よりは幾分か大人になったが、それでも高3なんてまだまだ子どもだった。
「卒業おめでと」
私も桜を見ながらボソリと呟く。
「何今さら。んふふ、大学楽しみだなぁ。でも結衣に毎日会えないのは寂しい。
卒業してもいっぱい会おうね。」
「そのこと、なんだけどさ、、」
「私達のそーゆー関係、もう終わりにしよ?」
「え?」
分かってたのに、何度もシュミレーションしたはずなのに、
いざ絶望の表情を浮かべた彼を目の前にすると、声が震えた。足が震えた。
体が、震えた。
でも目線だけは逸らさずに、言葉を続ける。
「何、言ってんの、?最後に変な冗談やめてよ、、」
「ごめんね、西山くん。冗談じゃない。」
「海人って呼んでよ!!ねぇ、結衣、、!」
悲痛な声で訴えかける彼の声に胸がチクチクと痛んだ。
でも、これが彼のためになるから。今は我慢してもらうしか無かった。
「最後の授業しよっか。西山くんだけの特別授業。」
「最後って何?やだよ、これからもいっぱい色んなこと教えてよ。」
「この世にはね ”絶対に叶わない恋” っていうのがあるんだ。」
「やめてよ!結衣!!これからも一緒に結衣の部屋で二人寄り添って話そうよ、、
それで俺が大人になったら結婚して、幸せになろうよ、っ、、」
「うん、、私がもしあと10年遅く生まれてたら、キミが10年早く生まれてたら、、
そんな未来もあったかもね。」
「ねぇやめて、、っ」
「知ってる?運命の神様ってね、残酷なんだよ。私達の思い通りにはいかないの。」
「っ、、、」
彼が息を呑む音が聞こえる。
「大学にはイイオンナが沢山いるから、そういう子と幸せになりな?」
「なんでっ、、なんで結衣じゃダメなの?」
「キミが、まだ子どもだから。」
「そんなことないっ、、!もう俺成人したし!立派な大人だよ!」
「西山くん、、大人はそんなに泣かないよ?」
涙でグチャグチャになった彼の顔を見ながら告げる。
涙に濡れた彼は、朝露に濡れた花のように見えた。
うん。キミにはまだ未来がいっぱいある。
だから、幸せになってね。
「ばいばい。」
そう告げて立ち去ろうとした私を彼の声が引き止めた。
「俺っ、、俺がちゃんと大人になったら、また結衣のこと迎えに行くから。
それまで待ってて。」
「、、分かった。じゃあその時まで、またね。
____大好き。」
想いが零れ落ちた。
end.
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