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第6話 : 訓練場で“魂の共鳴"する物


これは、カナタが王直属兵として配属されてかの"王国の訓練場"でとんでもない異能騒動を巻き起こした日からの出来事である。



「……おい、お前。剣、逆だ。柄じゃなくて刃を持ってどうする」


「え? あっ……ほんとだ。こっちだった。あっぶな!」


「……あぶないじゃない。誰に向けて振り回してたか分かって言ってるのか」


訓練場に響くのは、今日もまた“例の女”の声であった。


処刑台から救われ、王直属兵として仮に預かられているカナタは、現在、訓練中のはずなのだが――


「ふふ……なるほどね、この鉄塊。まるで我が異能《漆黒の焔剣シュヴァルツ・フレイム》に通ずる重量……!」


「……木剣だ。普通の」


「いや違う! この手の感覚、かすかに震えてる……共鳴してる、何かが!」


「してない」


木剣を振るいながら、ひとり興奮気味のカナタと、それを眉間を押さえながら見守る兵士たち。訓練場の一角は、もはや“日常的異常地帯”となりつつあった。


その様子を、遠くからじっと見ている男の影がひとつ――


黒き軍衣を纏い、鋭い視線で彼女の動向を追っていたのは、エアルザーン王国第十四代君主、ライヴ・ノワル・アルヴァレストである。


「……また始まったか」


王として、訓練場の視察は日常のひとつにすぎない。しかし、その目の端に映るカナタの言動には、思わずため息を漏らしたくなる。


彼女は強い。誰もが認めるほどに。


だが、言動がすべてを台無しにしていた。


「――っしゃあ! いくよ、我が魂の焔よ!」


カナタが叫ぶ。


そして、振るったその木剣から――なぜか、本当に火花が飛んだ。


「うわああ!? 火、火ついてる!?」

「なんでだよ!? 木剣だぞ!?」


あわてて水をかける兵士たち。


だが、彼女は胸を張った。


「ふふ……いま、共鳴したんだよ。あんたたちの魂が」


「してないわ!!!」


全員の総ツッコミが一致した瞬間だった。


ライヴは、その場から一歩だけ近づき、訓練場の柵越しに彼女を見据えた。


「貴様、それは訓練ではない。ただの妄言だ。そろそろ真面目にやれ」


「へ? ……あ、王様いたんだ」


「いたとも」


カナタは悪びれる様子もなく、剣をくるりと回して構えた。


「じゃあ、王様もやる? 共鳴訓練! 魂と魂がドーンって!」


「ドーン、とはなんだ」


「どーん、です」


「……説明になっていない」


ライヴはしばらく黙ったまま彼女の構えを見ていた。


フォームは――滅茶苦茶だ。だが足元の踏み込みは鋭く、間合いの詰め方には素人離れした気配がある。


「……剣の扱いは本能的に身についているようだな」


「でしょ! でもね、私の真骨頂はここからなんだ。いくよ――魂よ、解放せよ!」


また叫んだ。


また爆発した。


――訓練場、再び、爆裂。


「ぎゃああ!?」

「まって、爆心地どこ!?」

「……やっぱりコイツ、処刑でよかったのでは……」


煙の中、黒焦げになって立っているのは、やはり彼女。


しかし、本人は至って満足げである。


「……ふふふ。やっぱり、私には“焔”が宿ってるみたい」


「……ちがう。お前が危険物なだけだ」


ライヴは目を伏せた。


そして、内心で静かに呟く。


(……この女は…何者なんだ…)


兵士たちは今日も訓練どころではなく、火消しと瓦礫の処理に追われることになる。




そして、ふたたび訓練場にて、“共鳴”は繰り返された翌日の日の事だ。


午前の訓練が終わり、日もまだ高いころ。


王国訓練場の隅に、いつものように問題の女――カナタの姿があった。


その手には、またしても木剣。


「……ふふ、やっぱり今日もいい波動を感じるよ。昨日の爆裂で目覚めたこの《黒の第三律》。きっと、ここに秘められし真の力が――」


「もうやめてくれ」


昨日から引き続き訓練にあたっていた新兵が、うんざりした顔でつぶやく。


「頼む、普通に剣を振るってくれ。あんたの“共鳴”のたびに何かが壊れるんだ。現に昨日、倉庫の壁吹っ飛んだぞ」


「え、それはそれで戦果じゃない?」


「敵に向かってやってくれ……」


そのやりとりを少し離れた場所から見つめている男がいた。


ライヴ・ノワル・アルヴァレスト。

黒鷲の王にして、現在“王直属兵”を預かる張本人。


黙して語らず、ただ視線で語る男――が、目を細めたまま訓練の様子を見ているのは、もはや日課となっていた。


(……なぜ“また”木剣なのだ)


(……なぜ“また”何かを叫んでいるのだ)


(……なぜ……あんなに堂々と“逆手持ち”なのだ)


彼女の行動は、もはや常軌を逸していた。


だが、同時に確かに“何か”がある。


爆発魔法ではない。火炎術士でもない。だが、あの女が何かに“共鳴”したときだけ、不思議と周囲の空気が揺れるのだ。


「よし……今日は負けない……!」


カナタはぐっと木剣を握りしめた。


「昨日は魂が暴走して火花になったけど、今日はちゃんと制御するから……魂の共鳴、第八段階へ――いくよッ!!」


叫んだ。


兵士たちが距離を取る。


「まただ!」

「退避っ、退避ーー!!」


カナタの踏み込みは俊敏だった。だがその瞬間――


  ――ドンッ!!!


再び地響きのような衝撃。


木剣の先が地面に叩きつけられ、謎の爆風が訓練場を吹き抜けた。土煙が舞い、足場が崩れる。慌てて避ける訓練兵たち。


「い、今のは!」

「ただの踏み込みじゃない、地面ごと削れてる……」

「訓練場がまた……修繕班呼んでこい!!」


やがて土煙の中から、満足げな笑みを浮かべたカナタが立ち上がった。


「ふふ……ね、やっぱり共鳴してるよ、この魂」


「どこが!?」


一斉に総ツッコミが飛んだそのとき。


「……貴様」


ライヴが、静かに柵を越えて近づいてきた。


「昨日もそうだった。今日もまた同じことをやったな」


「うん。やっぱりね、王様の国の訓練場、波動が合うんだと思う。ある意味、因果だよ。わかる?」


「いや、わからん」


だが、ライヴの目には、ふと一瞬の“躊躇い”が浮かんだ。


彼女の動き。踏み込み。剣の運び。奇抜ではあるが、理にかなった部分もあった。


そして何より、彼女は――


「お前は、無意識に魔力を纏っているな」


「え、気づいた?」


「自覚はあるのか」


「うーん、なんかピリッとするから、あ、出てるな~って」


「……出るものではない。通常は“練る”ものだ」


「そっか。じゃあ私は、才能ってことで?」


「……傲慢だな」


「褒めてる?」


「皮肉だ」


また静かにため息を吐く王。


だが、兵士たちの中には――今の爆裂(?)を見て、本気で“共鳴”とは何なのかを考え始める者まで出始めていた。


カナタの奇行は、今日も周囲に混乱と衝撃を与えている。


(……だが)


ライヴは最後に一度、視線を彼女に向けた。


(このまま鍛えれば、“本物”になるかもしれん)


そんなことを――口には、出さなかったが。


「よし、次は《共鳴・双撃編》やるよ!」


「まだやるのか!!!」


今日も訓練場は、何かしらが爆発音とともに、吹き飛ばされた。


こうして、王直属(おそらく“仮”)兵カナタの名は、訓練場の伝説となっていくのであった。





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