プロローグ:この出会い、爆発から始まる
腹が、減った。
ただそれだけの理由で、少女は戦場に現れた。
黒く煤けたマント。鉄鍋を抱え、戦場を彷徨う謎の少女。
気づけば彼女は、一つの陣営に紛れ込んでいた――敵陣に。
「……この米、炊けるな」
「誰だお前!? 火をつけるな、ここは戦地だぞ!?」
兵士の制止も無視して、少女は悠々と薪に火を入れ、鍋に米と水を放り込んだ。
甘い炊きたての香りが立ち込め、周囲の兵士は一瞬、平和な錯覚に包まれる。
「ふふ……我が“魔力炉”にて精錬せし魂米……」
「……何言ってんだこいつ」
炊飯の腕だけは神がかっていた。だが、事件は突然に。
――ボンッ!!
鍋が爆発した。
敵陣の砦の一部が吹き飛び、少女は米粒まみれで黒こげ。
兵士「……テロだな」
少女「ただ、お腹すいてただけなのに……」
即・捕縛。即・処刑決定。
処刑台に縛られ、少女は曇天を見上げて呟いた。
「……おかわり、欲しかったな……」
その瞬間だった。
「――待て」
処刑場に現れたのは、黒き軍衣を纏う一人の男。
エアルザーン王国第十四代君主、“黒き鷲国王”ライヴ・ノワル・アルヴァレスト。
誰よりも前線に立ち、剣を振るう最強の王。
彼が少女に問いかけた。
「名を名乗れ」
「我は暗黒なる月影の契約者! 名など無き──」
「本名で答えろ」
「……カナタです」
ライヴは、剣を抜いた。
処刑台に緊張が走る――が、斬られたのは、縄。
「……処刑は中止だ」
王は短く命じた。
「直属の兵として、私が預かる」
処刑場は、ざわめきに包まれた。
王直属の“個人兵”など、前代未聞。
だが、誰もライヴ王の言葉に逆らえなかった。
「……ごはん、つきます?」
王の威厳がどんどん削れていく、そんな“日常”が始まっていく。