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自然派ママとケーキバイキングに行った話(1)

 栗本夏実は、平凡な主婦だった。夫は小学校教諭、一人息子は小学五年生で、片田舎の一軒家に住んでいた。家の周りは、畑や梨園も多いが、車を使えば、そこそこ不便ではない。近所にコンビニやスーパー、病院や学校もある。夏実はコンビニでパートの仕事や家庭教師の仕事などをしながら、忙しい主婦の生活を送っていた。


「いらっしゃいませ」


 コンビニでのパート中、店内に近所に住む海野可奈がやってきた。平日の昼間で客足が途絶える時間だったので、夏実は印象に残った。


 それに可奈は、近所でも有名な曰く付きの主婦だった。いわゆる自然派ママと言われている主婦で、反ワクチンの集会などにも顔を出しているらしい。自宅も食糧難に備えて畑も作っていた。ソーラーパネルなども設置し、自給自足の活動もしているようで、ご近所ではすっかり浮いていた。子供は高校生、夫も会社経営者という噂で、近所に住んでいる夏実も彼女の家族には会った事がなかった。


 可奈は、自然派ママらしく麻の生地のワンピースを着ていた。メイクもほとんどしていないようで、頬にはそばかすや黒子が多いのが目立っていた。大きな麦わら帽子をかぶっているが、優雅さや上品さは全く見えず、むしろ田舎らしさが滲み出ていた。おそらく食生活も気をつけているのだろう。肌はシミやシワもあまり見えず、綺麗な方だった。年齢は35歳ぐらいに見えるが、子供は高校生だし実年齢はもっと高いと思われる。マスクもしておらず、堂々と背筋を伸ばしていた。


 そんな加奈は店内をぐるっと歩き回ると、チルドスイーツのコーナーの前にいた。レジのそばにいる夏実には全く気づかず、しばらくスイーツを見つめていた。


 夏実の働くコンビニチェーンは、スイーツに力を入れており、和風、洋風、アジア風のスイーツの新製品が毎週発売される。今の時期はクリームとフルーツたっぷりのゼリーや、抹茶プリン、台湾カステラなどが人気だった。ただ、見た目も可愛らしく、美味しいスイーツだが、裏の表示を見ると、添加物の名前がずらっと並んでいる。とても、自然派ママが好みそうなスイーツでは無いはずだが。


 加奈はそんな添加物まみれもスイーツを見ると、深いため息をついていた。おそらく、自然派ママらしく、添加物に文句でもあるのだろう。ネットで添加物が多い調味料を使う料理研究家が、自然派や陰謀論者たちに叩かれていたのを見た事ある。正直、無視していれば良いのにと夏実は思ったりする。自然派も行き過ぎると宗教的だ。宗教も自分と違う意見の人を叩いたり迫害しているイメージが強い。加奈については、別に親しいわけでは無いが、チルドスイーツを見つめる横顔は、良い印象が持てなかった。


 その後、スイーツコーナーを離れた加奈は、パンコーナーに向かった。パンも添加物まみれのものが多いはずだが、確か王様のパンシリーズは、シンプルな食材で、SNSで自然派ママ達が騒いでいるのを見たことがあった。普段はコンビニを全面的にバカにしている癖に、たまたま自分に合う商品を受け入れる姿勢も、夏実はよくわからない。そういえば半月ほど前、駅前を歩いていると「コンビニなんかで食べるものないわ」と嫌味を言われた事も思い出し、夏実は顔を顰めていた。


 予想通り、加奈は王様のパンシリーズを買うためにレジの方に向かってきた。その中でも特に良い素材の三枚切りの食パンをレジに差し出していた。夏実はマニュアル通りにレジ対応した。


「ありがとうございました」

「まあ、この王様のパンシリーズだけは認めるわね」


 はあ? 何様ですか? 


 嫌味をぶっこむ自然派ママに、夏実の表情は引き攣ったが、彼女はサラッと涼しい表情を浮かべていた。


 っていうかコンビニくんな。意識高いオーガニックの草でも食べてろ!


 自分の息子だったら、これぐらいの事を言って叱っているだろう。ただ、相手はあまり親しく無い地雷要素たっぷりの自然派ママだ。


 夏実はグッと我慢して、マニュアル通りの笑顔を作った。


「何、あの人?」

「さあ」


 同じコンビニのパート店員も加奈の後ろ姿を見ながら、首を傾げていたが、夏実は無視して仕事を続けた。

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