02 男
「どうしました?」
話し掛けた。興味で。ひとりになりたい人の気持ちが、分からない。
力になることの充実が、好きだから。力になれる自信は、なぜかある。
「どうも」
大学生の男子は、答えてくれた。でも、他の人と少し違う反応だ。どうも、という言葉。それにも、種類がある。
挨拶の『どうも』ではない。そうは、聞こえなかった。どうもしませんの『どうも』だった。
私の心が、こんなに揺れたのは、初めてだった。男子の黒いシャツが、暗黒に見えた。
今まで、おせっかいをしてきた人を、地球人としよう。そうするならば、この男子は宇宙人だ。
私は変わらない。いつもの私でゆく。ガンガン踏み込んで、ガンガン突き進んでゆく。
それで、成功してきた。それで、ずっと来た。だから、何も考えない。
だから、今回もそれでいく。それが、自然体だから。
空の色が変わってきた。風が、やや乱暴になってきた。
男子のシャツの色と、空の色がお互いに、近寄っている感じだ。
まわりに他の大学生は、いなかった。いつの間にか、いなくなっていた。
「ごめん」
その男子は、そう言って顔を背けた。負の世界に、飲み込まれそう。そんな感覚があった。
私が、歩みたくない人生。隠れて逃げて気を遣う人生。それには、当てはまらない。ただ、男子の妙な暗さに、引き込まれていた。