断罪っていうか、浮気容認しろだよね? これ。
姫を守る騎士みたいな王子(おかっぱ、カボチャぱんつ、白タイツ、小学生みたいな上靴の四重苦)と、その肩にちょんと触れてるミニスカメイド。
王子は、当たり前みたいに彼女の肩を抱いた。
うん、距離近い。カレカノの距離感だ。
これで付き合ってないとか、絶対にない感じだ。ふたりの皮膚の表層菌て、調べたら一致するんじゃね?
「恐れながら、フローメロディ様は、殿下との茶会の度にリーフを邪険にされ、無言で席を外されました。淑女として、いかがなものかと」
リーフの背後にいたメガネが、その縁をクイと持ち上げた。
テーブルの下(テーブルクロスが中途半端に短いの、おばあちゃんちクォリティなんだよね。懐かしい)をそーっと観察すると……上履きに3-Aダニエル・ラトグリフって刺繍してあった。
ぶ。微妙だけど似てるわ。
魔法使うの? 友達はロンとハーマイオニーじゃないん?
「侍女試験を受けていないリーフが、殿下の身の回りの世話をするのはおかしいって、難癖をつけてたけど。亡くなった筆頭侍女の娘なんだから、おかしいことないじゃないか。姉さん」
なるほど、脳筋枠か。義弟? 実の弟???
上履きは2-A リッチ・ワイドフィールド。
日本語に変換すると、大野豊……?
昔の野球選手だよね? おばあちゃんちの近所の喫茶店とか本屋とかお好み焼き屋さんとか、そこらにサインあったよね??? その扱いで良いの? たまたま苗字が同じだからって、雑すぎない???
おばあちゃん、けっこうちゃんと悪役令嬢ワールドを把握してるけど、細部がアレだなあ。
「そのような矮小な器では、王妃は務まらないよ? もっと鷹揚であれ。貴女は高貴ワイドフィールドの令嬢にして、私の婚約者なのだから」
あれ? 婚約破棄する!!!って話じゃないの???
つうかさ、私、この人のこと3-Aエドワードとしか知らないから、好きも嫉妬もないし。
こんなコントみたいな彼氏、イラナイし。婚約破棄、上等なんだけどなあ。
そういや、リーフも上靴だな。
多分、私もドレスの下は上靴なんだろうなあ。刺繍入りの。確認はしないけど。上靴履いてるってことは、学生ってことかな。
さっき豊リッチが、「侍女採用試験を受けてない」って言ってたよね。ってことは、問題はソコなんだと思う。
他のメイドさんたちは後れ毛ナシの完璧なひっつめ髪で、すっごく姿勢が良くて、この茶番の間、表情を崩すことがない。
リーフって子は、こっちを見てはオドオド、王子を見ては震えながら笑顔って感じで、なんか表情が忙しい。
そもそもさ、王子サマとお嬢様のお茶会に、メイドさんの席、必要???
これ、現代の日本に例えたら、総理大臣の息子+その婚約者のお嬢様のテーブルに、総理官邸の使用人の娘が紛れ込むって感じだよね?
ない。つうか、普通の神経なら着席できない。
しかも、婚約者はテーブル挟んで2メートルむこう。使用人の娘は真隣だし。
100歩譲ってだわ。
平民のリーフちゃんが王侯貴族のセクハラ&パワハラ&モラハラのコラボで逆らえなかったとしてもだわ。違う意味で、余計に有り得なくない?
「わたくしと殿下の婚約は、王命でございますれば、貴方様に恋愛感情を抱いたことは、一瞬もございません。嫉妬もありません。ただ、侍女ではない学生が、殿下のお隣に侍る現状に、強い違和感はございます」
おう。言葉が勝手に令嬢語になった!
すごいよ! おばあちゃん!!
「リーフは私の筆頭侍女の娘だ。亡き母親から、高度な教育を受けておる」
え。うそ。それで???
素人目にも、壁際に控えてるお姉様方に、所作が追いついてないよ? ガムくちゃ歩きのギャルと、お茶の先生くらい違うよ?
「王族の侍女は、世襲ではございません。その方の御母堂がそれほど優れた方なら、今頃は草葉の陰で泣いてることでしょう。殿下は、医師免許を持たぬ医者の息子に、医療行為を許すのですか? 庭師の息子に、外遊に来られた賓客の花束を一任させますの?」
「はあ。其方はいつもつまらぬ屁理屈を捏ねる。素直に嫉妬していると認めれば、可愛いものを」
「殿下こそ。侍女候補などと嘯かず、正式な愛妾となされば良いのです」
「なんと、惨い。このような可憐な花に、結婚も許さぬとは」
「彼女の婚姻を困難になさっているのは、むしろ殿下です」
「そんなことはしていない!!!」
「あなた方にそのつもりがなくても、恋愛関係に見えるのです。事実か否かはどうでよろしい。大切なのは、人様の目にどう映るか、ですわ? 私、社交界では「乳母の娘に寵を奪われたお飾令嬢」と噂されていますのよ? もう、うんざりですの」
「つまらぬ誤解だ。そのような些事にとらわれるでない」
「もはや些事ではなく、醜聞ですわ?」
私もよくわかんないけど、令嬢語自動変換がそー言うなら、そうなんだよ。多分。
……て、メイドさんたち、こっそりかつハッキリ私に頷いてない? オーディエンスと心がひとつになった気がするよ。気のせい?
「そもそも、婚約者同士のお茶会のテーブルに、亡き侍女の娘をつかせるなんて。その心は? もしや無理強いしてません?」
「そんなこと、ありません! 殿下はただ、いつも頑張っている私に、フローメロディ様とご相伴させていただく名誉を与えてくださっただけでございます」
うざ。リーフ、アウト。
「姉さんは、殿下にふさわしくないよ。リーフの奥ゆかしさを見習いなよ」
奥ゆかしくないし。むしろ図々しいでしょ。
幼馴染の婚約者に憧れて、わざわざデートに乗り込んでくる女、奥ゆかしい???
悪役令嬢って多分、北◯景子くらい美人だから、憧れるまではわかる。でも、その憧れの北◯景子の目の前で、夫のDAIG◯に寄り添うか? ナイ。問題外。ありえない! ファンならば、DAIG◯に殺意湧くか、夫婦を箱推しするかだよねー。
豊リッチよ。女を見る目ないよ。なさすぎるよ。
こっちの世界に転生したら、キャバ嬢に給料バキュームされるタイプの脳筋だよ。
おばあちゃんていうか、おばあちゃん周りって、大野さんのファンだらけなのに、こんなんでいいのかなあ。お父さんとの結婚が比較的スムーズだったの、苗字が大野だからじゃないっけ? あれ? アンチ巨人だからだっけ?
「私も、貴方様は心を入れ替えるべきと思います」
つうかダニエル。こんなとこで油売ってないで、名前を言ったらいけない魔法使いでも倒してきなよ。
「思っていた以上に、ひどい茶番ねえ」
その時、部屋のすみの衝立が、すーっと横に動いた。
「我が家としては、この婚約は白紙撤回していただきたいわね。もちろん、エドワード殿下の有責で」
おお! 衝立の裏から、銀髪の美魔女がでてきたぞ!
「母上!」
叫ぶ豊リッチ。
って、あれお母さん? 大野早苗48歳?!
熟成された二の腕とウエストは、どこに隠したの?????
ていうか、お母さんも「誰これ? 我が子? アイプチ必須の奥二重はどこ?」とか思っていそうだけど。
「ねえ、アナタ?」
と、衝立の奥に語りかけるお母さん。
「うむ。リッチ、席を立ちなさい。王子と婚約者の茶会参加には、両名の同意を必要とする。お前に出席する権利はない」
「父上!!! これは平民を虐げた姉上を断罪するためで……」
「立て! そして下がれ!!」
この声。お父さんだ。怒ってるお父さんだ。
でも、顔もお父さんのまんまだ……。
日本人だよ。普通に日本人のおじさんがいるよ。このキラキラワールドに。
なんで、異世界仕様のイケオジじゃないの? なんで、警察官の正装してんの?
おばあちゃんにとっては、自慢の婿かもしれないけどさ、53歳の駐在さんだよ。フツーのおじさんよ???
美魔女になったお母さんもツボだったらしく、目だけは絶対にあわせようとしないし。
めっちゃ腹筋プルプルしてるし。
「俺は、あんな男は反対だったんだ。江戸原だったか。花音、今すぐ別れなさい」
へ????
大野豊氏 もと広島カープの投手。今は解説をされてますね。
天国のお仲間は、伝説の鉄人・衣笠をいじらなければオッケーみたいです。