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花音、悪役令嬢にされる。

タチの悪い疾患に罹った。

喉が焼けるように痛くて、呼吸が苦しい。

朦朧とする意識の中、去年鬼籍に入ったおばあちゃんが夢に出てきた。


「ありゃーのー。早苗も花音(かのん)ちゃんも。こがーに苦しげで。花音ちゃんは、『悪役令嬢』さんが好きじゃったけえ。ばあちゃんが、プログラミングしてやるけえ、待っとって」


「え? あの、お母さん?!」


さっきまで隣のベッドでうなされていたお母さんまでいる。

これ、なんて夢?

でも、喉が痛くないから、いいや。


 

おばあちゃんが言うなり、私たちのいる空間はVR搭載のパソコンルームに変化した。

でっかいパソコンのでっかいゲームチェアに、なぜか正座するおばあちゃん。

スマホどころか、ガラケーもおぼつかなかったシワだらけな指は、鮮やかなブラインドタッチをかましはじめた。


「えー?! お母さん、パソコン使ーとる?!」


ふふふ。お母さん、方言に戻ってるよー?

おばあちゃんが亡くなってから、なにげに封印してきたもんなあ。


「天国の後期高齢者ん中じゃ、ゲームプログラミングが流行りじゃけえ。皆んな、孫に遊んでほしいんよ」


え、なにその、孫に変身ベルトとか魔法ステッキを作っちゃる、みたいなノリは。ていうか、そっちに行くころ、孫はおばあちゃんたちと同世代よ?! たぶん。


「花音ちゃんは悪役令嬢のフローメロディ・ワイドフィールド公爵令嬢。早苗はその母親のアーリーシーディン夫人じゃけえ。クライマックスから遊ばせちゃるわ」


おばあちゃんはそう言って、サムズアップした。




「我婚約者フローメロディ。貴女はどうして、リーフに冷たいんだい?」


次に気がついた時、なんだかゴージャスな円卓についていた。

食器キラキラ。お菓子もキラキラ。いちごのショートケーキに、チョコレート。シュークリームに、ポテチにポッキー。なぜかもみじ饅頭に、みたらしだんご……だと?

食器は貴族だけど、メニューはおばあちゃんちの宴会の子どもテーブルみたいだな。おばあちゃんがプログラミングした世界だから?

そんなレトロお菓子が盛られたテーブルの向こうで、金髪のおかっぱ男が首を傾げていた。


「え???」


なんだろう、この状況。おかっぱの左には丸メガネの茶髪が、右隣には、ツインテールのメイドさんが座っている。で、メイドさんの隣には、筋肉がモリッとした黒髪が腕を組んでいる。


なんなの? 円卓を挟んで4対1のこの構図、なんなの?

つるしあげ? いじめ???


無意識に持っていたセンスで口元を隠す私。

ん? このめちゃ赤い羽扇子、お母さんの実家で見たことがある???

そーいやー、押入れの奥に封印されてたのを見つけて、コタツの上でひらひら踊っていたら、お母さんとおばあちゃんに見つかった6歳の思い出が。

お母さんは魂が抜けた顔で「黒歴史の封印が」とつぶやき、おばあちゃんは「早苗の子じゃ!」とお腹をかかえて爆笑した。


なんで黒歴史を捨てないかなーって大きくなってから思い出して聞いたら、お父さんとの出会いの記念だって。

お母さんは高校の卒業旅行で東京に行き、パンツ見えそうなミニスカでこの扇子をふりまわして踊ったらしい。流行ってたんだって。バブル時代、狂ってるわー。

で、その帰りに警察官のお父さんに補導されたんだそうだ。


田舎育ちで垢抜けないお母さんたちに、当時の最先端「ワンレン、ボディコン、羽扇子」は無理がありすぎたらしい。中学生に間違えられたってwww


んで、「今日はホテルに帰って早く寝て、明日のディズニーランドに備えなさい」って諭されたんだって。

身元確認のために警察から電話をもらったおばあちゃんは、翌日、もみじ饅頭を片手に新幹線に飛びのり、当時お父さんが勤務していた青山南署に頭を下げに行ったって。


お母さんたちはめちゃ怒られて、隠れて買った似合わないボディコンスーツを取り上げられて、ちょっとホッとした顔で「ジュリアナ(お母さんたちが踊ってきた場所)よりディズニーのが楽しかった」とか「アルマーニのスーツ着たナンパより、駐在さんのがかっこよかった」とか言ってたらしい。


で、お礼の手紙からの、文通スタート。からの、お母さんの短大の卒業式に広島まで来てプロポーズって。お父さん、やるねー。


ぷぷぷ。


「何が可笑しいんだい? フローメロディ。その傲慢な態度に、繊細なリーフがどれほど心を痛めたか、わかるかい?」


冷たい眼差しで紅茶を置いて、立ち上がるパツキン。


「ぶ」


思わず息が止まった。

か、かぼちゃパンツ!! このオカッパ、かぼちゃパンツはいてるよ! さらに白タイツだよ!!!

おばあちゃんの王子認識って、かぼちゃパンツに白タイツなの? 氷川き◯しみたいな、キラキラじゃないの???


「リーフ?」


私は、かぼちゃパンツ隣のツインテールを見た。


ぶっちゃけ、侍女とメイドって、違いがよくわかんないんだけど、とりあえず、お手伝いさんでOKよね?

んでもなー、他のお手伝いさんたちは髪の毛をひっつめていて、お揃いのくるぶし丈ワンピースに白いエプロンで、壁際に控えてるんだよね。

メイド服にカチューシャにツインテで、王子の隣に着席って、すごい違和感かも。

えーと、「おかえりなさいませ、ご主人様」ってバイト???


「うわあ。メイドだ」


思わずつぶやくと、かぼちゃパンツの眉が上がった。


「メイドだと? 貴女は、このリーフを卑しいメイドと呼ぶか? 私と共に育った乳母の娘を」


「卑しい存在と見下しているから、水をかけ、教科書をやぶり、上靴に画鋲を入れて怪我をさせたのですね?」と、メガネ。


「最悪だな。姉さん」

って、黒髪は弟かよ?! 弟か妹は欲しかったけど、これだったらイラナイや。


王子様が、イライラした足取りでテーブルを回って、私の横に立った。

私は、ポカンと右を見上げた。

画鋲って。上靴って。貴族って上靴はくの???

なんとなく視線を下げたら、白タイツ、上靴はいてるし!

しかも、「3-A エドワード」って刺繍入ってるし!!! やめて! おばあちゃん! ここは「マジックで記名すると、洗った時にまだらになるから、名前を刺繍した」おばあちゃんの学生観を出さないで! 

金髪にオカッパにかぼちゃパンツ白タイツに白い上靴!

コントなの?!


爆笑を堪えた渾身の微笑に、オカッパが静かにキレた。


「何が可笑しい?! 貴女は私とこのリーフの不貞を疑っているようだが、これは亡き筆頭侍女の娘。ただの幼馴染だ」


「さ、左様にございます。私は男爵家の4女の娘にございます」


リーフも立ち上がってこちらにきた。

わお、ミニスカだ。ひとりだけミニスカメイドだ。特別感、あからさまだな。

微妙に舌足らずな高い声。女子に嫌われる系の甘いオーラ。

やっぱ、「おかえりなさいませ、ご主人様」な人? そこのバイト先でも嫌われてそうだな。偏見だけど。

つうか、おかっぱの肩に手ー当てたよ。距離近いな。

うーん。なんか、既視感あるな。これ。



つかさ、おばあちゃん。フローメロディさんは実際、この子をいじめたん? 冤罪なん? わかんないから、様子見しかないんだけど???


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― 新着の感想 ―
[一言] おばあちゃんがすごい世界観繰り出してきたwww
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