後編
マンションの自室の鍵が開かず、管理人からも隣人からも「その部屋は空き部屋だ」と言われた。
訳が分からなくなり、街を歩いていると
「そこの兄さん」
と声をかけられる。
振り向くと、易者がこちらをじっと見ていた。
「なんでしょう?」
「あんた、困っておりますな」
「はあ、確かに」
「自分の居場所が急になくなったのでしょう」
「そ、そうなんです」
「あなた、今夜エレベーターのボタンを押し間違えたでしょう」
「はい、2回間違えました」
「なる程、1階7階1階の順に間違えましたな。それで、あなた、171つまり、自分の“いない”世界に紛れ込んでしまったんです」
「そ、そんな」
「もう一回、エレベーターに乗り、1階7階1階を往復してみなさい。元の世界に帰れるだろう」
藁にもすがる気持ちでマンションの戻って易者の言葉通りにする。
505号室の鍵がピッタリ合って、扉が開いた。
ようし、帰って来れた。
月曜の午後9時だ。今夜はビールを呑みながらラジオ関西の「深夜のみぶ」を聴こう。
部屋に入るとその願いは叶っていた。
つまり、ビールを呑みながらラジオを聴いている、もうひとりのぼくが既にソファに寝転んでいたのだ。