説得力はありません
無言の空気が流れる中、私はお世話係のことをお伝えした。
「あの……すみませんでした。お世話係はしようと思ったのですけれど、もしかしたら人違いかもしれませんね。どうしましょうか?」
「絶対に人違いじゃない! ダリアで間違いない!」
ノクサス様に、そう言われても説得力はない。
「どのみち、お話をしてしまったので、ダリア様にはお世話係をお願いしましょう。ダリア様が思いだすかもしれませんし……」
力なくフェルさんが言うけれど、きっと思いださないと思っているだろうなぁと思う。
私だって、記憶にないのだから思いだす気配すらない。
「お、覚えてなくてもいいじゃないか。俺だって覚えてないのだから」
ノクサス様が覚えてないのと、私の記憶にないのは少し違うと思うけれど、これ以上追い討ちをかけることはできなかった。
「では、今日からこの邸に住んでください。お部屋はアーベルが準備しています」
「私は、荷物も持って来てないのですけど……」
「明日にでも、ご一緒に取りに行きましょう」
今日の着替えは、どうするのですか。
悩むと、アーベルさんが問題ありません、と言い出した。
「お部屋の準備はすでに出来ております。仕立て屋もすぐに呼びましょう」
「すみません。私はあまりお金がなくてですね……」
仕立て屋なんて高い服を買えない。
貴族なのに、少し恥ずかしいと思う。
「ダリア、気にしないでくれ。君に贈りたい。こちらが無理を言ったのだから……」
「お仕事になりますから、いただけません」
そう言うと、ノクサス様は悲しげな瞳を見せた。
その表情にいたたまれなくなる。
「ノクサス様、折角ですから、今から回復魔法をかけましょうか? 私の能力は低いのですが……」
「本当か? ダリアのならすぐにお願いしよう」
そう言って、いきなり席を立たれた。
思わず驚いてしまう。
そのまま、ノクサス様は私の隣に座った。
「ダリア、これでいいか?」
「はい。お顔に回復魔法をかけますね」
「頼む」
ノクサス様は、少しかがみ前髪を上げた。
この呪いがなければ、きっと素敵な顔なんだろうなぁ、と思うぐらい顔は整っている。
手を額にかざし、魔法をだすと、柔らかい光がノクサス様の額を灯した。
でも、額のただれは引かない。
きっと長期間の回復魔法が必要なんだと思う。
「……ノクサス様、終わりました。すみません。すぐに治せなくて。回復魔法が長期間必要と思うのですけれど……」
「騎士団の治療院でも、そう言われた。一度では治せないと……呪いをなんとかしないと、治せないのでは、と言っていたらしい」
「呪いはどうするのですか?」
「呪いをかけ、討伐した魔物の核を秘密裏に探させているらしいが……残っているかどうか……」
「見つかるといいですね……」
「ダリアがいれば見つかる気がする」
「そうですかね……」
私は、関係ないですよ。
ラッキーアイテムではありません。
ノクサス様に、見つめられている。
……そもそも、どうして私のことを知っていたのか不思議だ。
本当に初対面なのですけれど……。
悩んでいると、フェルさんが、やっと空気を呼んだように、声をかけてくれた。
「ノクサス様。ダリア様をお部屋にご案内されてはどうですか? アーベルがご案内いたしますから」
「そうだな。ダリア、部屋に行こう。今日から、一緒に住んでくれ」
ノクサス様と、アーベルさんの案内で用意された部屋に行くと、広く立派な部屋だった。
バルコニーまである。
「ノクサス様……ありがとうございます」
そうお礼を言うと、ノクサス様は嬉しそうな表情を見せた。