それぞれの決意
執務室に戻ると、フェルからマレット伯爵には、上手く説明したと報告を受けた。
マレット伯爵自身も村に被害がなければ深くは聞いてこなかったらしい。
こんな性格の男だから、ルヴェル伯爵はダリアのための金をマレット伯爵から借りていたのだろう。
「……フェル。記憶が戻った」
「ほ、本当ですか!?」
記憶が戻ったことを伝えると、驚くもホッとしていた。
従騎士であるフェルには、ずいぶんと面倒をかけた。
記憶喪失の間は、フェルのおかげでなんとか仕事もこなせていたのだ。
そして、男たちから聴取したことに合点がいったようだった。
「あぁ、本当に良かったです。一時はどうなることかと。……やはり、ダリア様のおかげですか?」
「そうだ。ダリアがいたから、思い出したんだ」
「やはり、ダリア様とは以前にお会いしていたのですね? でも、それならどうしてダリア様は初対面だと言われたのでしょうか?」
「……出会っていたが、ダリアは俺だと知らなかったのだ。あの時は、目も見えてなかった」
フェルには、あの時の事件を話した。
ダリアを守るためには必要だ。それに、フェルは信用している大事な従騎士だ。
口の軽い男でもない。
「フェル。俺はダリアを守るぞ。発端はあの男たちの嫌がらせだが、男たちを斬ったのは俺だ。そして、そのあとが治らないようにしたのは、彼女の師匠のセフィーロだ。ダリアには、なんの罪もない。彼女に償わなければならん」
「ノクサス様のせいではありませんよ。まぁ、あんな恐ろしい呪いをかけられて、男たちも苦しんだのでしょうけど……やはり自業自得なのです。ですが、ダリア様のその事件のことで罪に問うのは難しいかもしれません。なにせ、ダリア様の事件そのものが、秘密裏に行われており、ノクサス様も、ユージェル村にいたマリスという隊長も記録に残してないどころか、決して他言しなかったのですから……」
「では、罪に問うことができるのは、ダリアの屋敷での不法侵入か?」
「ダリア様を傷つけようとしていましたから、そのへんも加えましょう。不法侵入が見つかって、襲い掛かったことにするのが、自然かと……」
ダリアが襲われたことを知られないように、隠していたからそうなるのは仕方ない。
男たちの事も、戦場からの脱走騎士として処理したのだ。
急にいなくなって、誰かに探されても困るし、ユージェル村から追い出すには、そうするのが一番だった。
男たちは、不名誉な脱走騎士として名を残している。勘当されたのは、そのこともあったのかもしれない。貴族は不名誉なことを嫌うのだから……。
♢
目が覚めるとノクサス様はいなかった。
側にいたのは、ベッドの頭もとで丸くなっているミストだった。
「ダリア様。大丈夫ですか?」
「もう大丈夫よ。ずいぶん寝ていたのね。外が暗いわ……ミスト、ノクサス様は?」
起き上がると、暗い部屋の中でミストがすり寄って来た。
「ダリア様をベッドに寝かせたあとに、変態男は仕事に行きました」
「まだ、帰ってないのかしら?」
「そうだと思います」
ノクサス様に会いたいと思う。
私は、一度もあの時のお礼を言ってない。ノクサス様には感謝しかないのに……。
「……ミスト。男たちは、どうしたの?」
「あの変態男が騎士団に連れて行っているそうですので……もう、心配はいりませんよ」
ホッとした。もう、男たちに探されることはないのだと……。
没落貴族の私だけでは、隠れるしかなかった。
ノクサス様が来て下さったから、あの男たちを捕まえられたのだ。
「これで、あの変態男と結婚するんですか?」
「……したいわ。ノクサス様にちゃんと伝えるわ。ノクサス様と結婚したいのよ」
ノクサス様と結婚するには、あの男たちを捕まえなければ……と思っていた。
そうじゃないと、いずれノクサス様に迷惑をかけてしまうと思っていたからだ。
私だけでは捕まえられなかったけれど、ノクサス様は来て下さった。
あの時、どれほど安堵した事だろうか。
早くお会いしたいと思った。急いでベッドから降りて、まだ帰宅してないノクサス様を迎えようとした。
玄関に行こうとして部屋を出ると、廊下にはロバートさんがいた。
ロバートさんは、目が覚めて良かったです、とホッとしている。
まさか、廊下にまで護衛を付けているとは驚いた。
でも、今はロバートさんを気にするよりも、ノクサス様の帰りが待ち遠しい。
玄関ホールについてもノクサス様はまだ帰宅してなかった。
待ちきれずに、外門まで行こうとするとロバートさんに止められた。
「ダリア様。いけません。邸からは出る許可はありません」
「邸の門まで行くだけですよ」
「それでも、ノクサス様の許可がないと駄目です。また、一人で飛び出しては大変です」
ロバートさんは、私が一人と一匹で行ったことを気にしていた。
ちょっと申し訳ない。でも、あの時は私ではすぐにノクサス様に取り次いでもらえなかったかもしれないし、ロバートさんなら確実に、すぐにノクサス様の執務室に行けたのだ。
いくら、次からは通してくれると言っても、必ず私から、誰かがノクサス様に伝言するのだから、あの時は仕方なかったと思っている。
そして、絶対に通しません、という気迫で、玄関扉の前に立ちはだかるロバートさん。そんな彼に敵うわけがなかった。
仕方なく玄関ホールで待っていると、アーベルさんが階下から、やって来た。
アーベルさんが玄関に来るという事は、ノクサス様が帰ってくるのだ。
ノクサス様のお帰りを心待ちにしていたせいか、少なからず頬が熱くなっていた。




