助けはいりません
一年前のことがバレるのは怖い。
そう思うと、顔が上げられずに両手で覆ってしまっていた。
「ダリア? どうした? 何をそんなに隠すことがあるんだ?」
「私だって知られたくないことがあります……」
ノクサス様は、私の様子に焦るように話かけてくる。
心配しているのがわかる。
「ダリアのことが知りたいと思うのはダメか? それとも隠さなくてはならないほど困っているなら、必ず君を救う」
「助けなんていりません……」
「しかし……ダリアを一生守りたいのだ」
私に向かって跪くノクサス様は、優しかった。
私を本当に助けてくれるのかもしれない。
でももう遅い。過去は決して戻らないのだ。
「ノクサス様は、ランドン公爵令嬢様と結婚するのがよろしいかと……私は、もう下がります」
差し出してきた手を取ることは出来なかった。
助けを求めるつもりはない。
そのまま、顔を隠したまま振り返らずに、ノクサス様の部屋を出た。
もうここにはいられないだろう。
フェルさんが、見つけたという事は経歴を隠していた魔法を解除したのかもしれない。
そうなれば、彼らに見つかってしまうかもしれない。
私を探すかどうかもわからないけれど……このままにはしておけない。
あの経歴を隠したのは、私の白魔法の師匠だ。
師匠の本当の年はわからないけれど、高名な魔法使いだ。
昔は叡智の魔法使いと言われていたこともあるらしいが、それは私が生まれるずっと前だ。
でも、あの魔法の能力を見ると、本当だと思うほど、なんでも難なくこなす方だった。
私を弟子にしてくれたのも、うろついている時に雨に降られて、たまたま私の屋敷で休ませたことがあったからだ。
弟子をとったのは、ほんの暇つぶしの戯れだったのだろう。
そのうえ師匠は守銭奴だ。
以前頼んだ時もかなりのお金を支払った。
お父様は私を守るためだと、お金はないのに惜しみなく出していた。
そして、私たち三人は騎士団に忍び込み、記録庫であの魔法をかけたのだ。
もう私にお金はないけれど、借金は変わらないのだから、もう一度マレット伯爵に頼まなくては……また返済が遅れそうだと。
それに、師匠ならノクサス様の呪いも解けるかもしれない。
確信はないが、どうせ行くなら頼んでみよう。
また、お金を追加で取られそうだが、ノクサス様は私によくして下さった。
私の白魔法の能力がこんな状態だから、このままなら頼むべきかも……とどうせ思っていたことだ。
そして、明日の朝にノクサス様のお世話をしてから、この邸を出る決意を固める。
朝お世話をしてからなら、そのあとは以前のように、騎士団の白魔法使いが手当てをするだろう。
今から出て行けば連絡が遅くなり、朝すぐに来るのは無理かもしれない。
そうなれば、ノクサス様が困るかもしれないし、こんなによくしてくれたのだから、最後ぐらいはきちんとしたいと思う。
そして、不安のまま私はノクサス様からいただいたナイトドレスに着替えて眠りについた。




