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英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。  作者: 屋月 トム伽


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過去を探らないでください 1


庭園には、庭師が2人いた。

30歳代の庭師と20歳代そこそこの庭師の2人だ。

庭師二人は庭園の剪定をしていたのか、剪定して落ちた枝や葉っぱを箒で掃いたり、籠に拾い集めている。

私が来ると、二人はすぐに気付き、お互いに会釈した。

二人は顔を見合わせて困惑している。


「あの……ダリア様ですよね? こちらになにか?」


30歳代の庭師が箒で掃いていた手を止めて聞いてきた。

私が誰か分からずに困惑しているものかと思ったがそうではなく、ノクサス様のお客様がこの庭園に何の用があるのかと困惑していたのだ。


「邸に飾るお花をいただきに来たのですけれど……お忙しいみたいですね。私もお手伝いをしましょうか?」

「そんな……っ、滅相もない! それに、もう終わりますから」


2人は恐縮してしまって、なんだか悪い気がしてきた。


「花なら、お好きなものをおっしゃってください。すぐにご用意いたします」

「自分で切ってもいいですか? お邪魔はしませんから」

「もちろんです。すぐにハサミを準備します」

「場所を教えていただければ、ハサミぐらい自分で取りに行きますよ? 私は、お客様ではないので気を使わないでください」

「しかし、アーベルさんになんと言われるか……」

「大丈夫です。アーベルさんに花を頼まれましたから」


なかば無理矢理もらった仕事だけど嘘ではない。

庭師2人は困惑しながらも、顔を見合わせて「アーベルさんが言われたなら……」となんとか了承してくれ、ハサミを置いている庭園の小屋に案内してくれた。

小屋は温室の側に目立たないようにたたずんでいるようにあった。

この小屋に、庭道具を片付けているようで、集めた枝を入れている籠もこちらに保管しておくようだった。


「こちらです」と庭師が小屋の扉を開けてくれた。


……思わず、足がすくんでしまう。

小屋の前で立ち尽くしてしまっていた。

なんてことないただの木造の小屋だとわかっているけれど、私はこんな小屋が苦手なのだ。

でも、今は明るいし、ここには私を傷つける人たちはいない。

背中が疼いているわけでもないのに、疼くと錯覚してしまいそうだった。

……思い出したくない。私には忘れたい過去があるのだ。

そう思うと、びゅうっと風が吹き髪なびいた。


「ダリア様? どうかされました?」

「なんでもありません。すぐにハサミを取りますね。ドアは開けたままでお願いします」


苦手だと知られないように、笑顔を作った。

それでも、ドアが閉まるのは怖くて開けたままで、とお願いをした。

2人は「わかりました」と、運んできた枝の積みあがった籠でドアが閉まらないように置いてくれた。


そのまま、庭師の人と小屋に入るが、中は木の窓も開いており少しは光がある。

これなら大丈夫だと思い、足を進めた。

風でガタガタと揺れているが、風が怖いのではない。


「ハサミはこちらです。薔薇が必要でしたら、手袋も出しましょうか?」

「いいのですか?」

「もちろんです」


庭師が取ってくれ受取ろうと手を出すと、風が強く籠が倒れたのか、ドアが勢い良く閉まる。

バタンッーーと、ドアがドア枠にぶつかる音に恐怖を感じた。

ドアが閉まったのだ。風に押されてか、窓の立て掛けの棒も落ちてしまい窓まで閉まる。

小屋の中が暗くなった。

風で閉まることはよくあることなのか、庭師2人は動揺しない。

普通ならそうだろう。小屋のドアが閉まったぐらいで、恐怖に震える人はいない。


「今日は風が強いな。早めに剪定しておいて良かった」


そんな会話が飛んでいるけれど、もうそれ以上は耳に入らなかった。


私には耐えられないほど恐ろしく、青ざめてしまっていたのだ。


「ダリア様……? どうかされました?」


小屋が暗く、私の顔が青ざめているのははっきりわからないのだろうけれど、私の様子がおかしいのはわかるのだろう。


「……っあ……な、なんでもありません……」


そうかすれるような声でいうのが精一杯だった。

ハサミを受け取る前で何も持ってない手で口元を抑えた。

泣きそうになる。

息も止まりそうだった。


「ダリア様? どこか悪いのですか!?」

「嫌っ……! ち、近づかないで!! 早くドアを……!」


心配してくれる庭師の手を振り払い、後ずさりする。

とてもじゃないが、近づけない。

立っていられなくなりそうだった。


庭師が「早くドアを!」と、2人のうちどちらが言ったのかもわからなかった。

荒ただしくドアが開けられると、さっきまであった光がまた入り込んでくる。


そこには、怯えた私の顔も見えただろう。

そんなことをおかまいなしに、私は小屋から飛び出した。









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