お仕事をください
ノクサス様と昼食をいただいたあとは、何故かノクサス様の部下の方に付き添われてお邸に帰った。
「一人で歩いて帰ります!」と言っても、「なにかあっては大変だ!」と譲らない。
一体私になにがあるというのだろうか。
そこまで心配する理由がわからない。
危ない路地裏は通らないし、ひと気の多い道しか通らないのに。
ノクサス様のお邸に帰ると、「お帰りなさいませ」とアーベルさんが迎えてくれる。
思いがけずに午後から休みになったから、お仕事をもらおうとアーベルさんに聞いてみた。
掃除でも何でもします、と伝えたが、アーベルさんはきっぱりと言う。
「ダリア様にメイドの仕事などさせられません」
「ノクサス様のお世話係ですから、仕事がないなら、私はここにいられません」
「それは、困ります! ダリア様にはいて欲しいのです」
「ではお仕事をさせてください」
アーベルさんは困ってしまったけれど、仕事をしないならここにはいられない。
ノクサス様は『結婚したいのは……』と言ったけれど、私には答えられない。
私はノクサス様に相応しくない。
陛下の姪の方と上手くいかなくても、他にもいい縁談はくるはずだ。
私が邪魔するわけにもいかないし、邪魔をする気もない。
「あの……少し聞いてもいいですか?」
「なんでしょうか?」
「本当にノクサス様とお知り合いだったではないのですね?」
「何度も言いますが違います。アーベルさんたちはどうして私がノクサス様の恋人だと思ったのですか?」
「それなのですよ。フェルが言うには、突然『早く戦争を終わらせて帰らなければ……』と言い出したそうで……戦後の交渉にもノクサス様は当然関わっていますから、すぐに帰ることができませんでしたが、帰って来るなり、こっそりと出かけることが何度かあったのですよ」
「どこに行かれていたのでしょうか?」
「我々は、てっきりダリア様と逢引きしていたものだと……記憶喪失前ですから、逢引き現場を押さえる必要もないので気にすることもなかったのですが……まさか、こんなことになるとは予想もしていませんでしたし」
それは絶対に私じゃない!
「私以外の方と逢引きしていたという事ですよね? その方をお探しになったほうがよろしいのではないですか?」
「しかし、覚えているのはダリア様だけですし……ダリアという名前なのは間違いないのです」
「違うダリアかもしれませんよ?」
「そうは思えませんが……ノクサス様は、一日中ダリア様を探していますし」
ジィーとこちらを見られても、心当たりはありませんよ。
それに、一日中探されても困るのですけれど。
「とにかくお仕事をください! お仕事がないなら、お邸を出ます!」
「そ、それは困ります!」
アーベルさんは、焦りやっと仕事をくれた。
それでも、掃除はさせてくれず、邸に飾る花を採ってきて欲しいと言われた。
それは仕事なのか、と思うけれど、アーベルさんにとっては、私にさせる仕事にはこれが精一杯らしい。
邸の庭の庭園に行くと、薔薇を中心とした見事なほど美しいものだった。
ガラスの温室もあり、かなり本格的な庭園だ。
やはり、私はこの邸に相応しくない。
ノクサス様もきっと記憶を思い出すと、人違いだと言い出すような気がする。
それに、私は誰とも結婚をする気はないのだ……。




