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7/7

6: 10万ドル⭐︎PON⭐︎と貸してあげよう

(ΦωΦ)どうして勉強しなきゃいけない時にする執筆はやたらスイスイ進むのか


「おーい、きたぞー」


 とりあえず声をかけてみるもやはり反応無し。いつも通りメニュー画面からメッセージを送りつけると暫くの後にドアのロックが解かれた。


 ここは元アキバエリアでもかなり寂れ切った古の電気街地区。中立エリアだが人通りは少なく、こんな場所に拠点を構える奴など本当にごく僅かだ。

 そんなエリアの、元は何かの非常に小さな工場と思われる建物を丸ごと贅沢に占拠している者がいる。


 錆びついた金属製のドアを開けば独特な空気の焼ける匂いやら埃っぽい空気が足元を吹き抜け、妙な熱気が頬を撫でる。

 沢山のガラクタが天井まで届くほどのプラスチックの引き出しに収納されており、それがまるで迷路のようになっている。

 そのエリアを抜ければここの主がこの世界にしては上等な椅子に腰掛けており、椅子ごとクルリとこちらに向く。


「今日は早かったね、ゴリゾネス君」


「待ち合わせの時間通りだと思うが?」


 後ろで揺れる悪魔の様な尻尾、光の無い灰色の瞳にパンクファッション系な服、その上にサイズが些か大き過ぎる薄汚れた白衣を纏う如何にも一筋縄ではいかないコイツこそ、この研究所の主にして俺にアイテムの実験を頼んだプレイヤー、通称『マッドドク』である。

 雰囲気はどこか気怠げで浮世離れしているが、顔立ちは非常に整っていて仕草も含めてかなり中性的だ。声も低いアルトボイスで、男とも女とも取れる声をしている。

 リアルの性別どころかアバターの性別すら聞いてもはぐらかすのでよくわからんヤツだ。


 サイズが大きすぎて萌え袖状態の白衣で顔を覆いクスクスと笑うドク。因みにドクというのはただの雰囲気で言っているだけで医者キャラではない。ただ見た目的にメスとかが似合いそうな人相をしているというだけの話だ。


「どうだった、ボクの作ったアイテム。役に立ったかい?」


「ああ、流石はドクのアイテムだ。全部が全部かなり役にたった。一部は少々クセがあるから人を選ぶかもしれないが、幾つかはもう量産してもいいんじゃないかって感じだったぞ」


「それは重畳。しかし量産とは簡単に言ってくれるね。結構難しいのは君もよく知ってるだろうに」


 ナベルではプレイヤーがオリジナルのアイテムを作ることができる。1つは全プレイヤーが持つ【Weavolution】の能力だが、それとは別個で『錬金術』やら『魔工』と言った別技能が存在しており、こちらはステータスポイントを割り振ってアビリティを取得しないと使えない特殊能力となっている。


 これらの能力で解禁される技能はIvカードの融合や、元となる素材の融合や分解、そして付与や量産などを可能としてくれる非常に重要な物だ。

 簡単に言えば、アイテムを1つ作るのにその都度【Weavolution】をしていてはあまりに面倒だしコストもかかる。そう言った諸問題、特に消費系アイテム(武器)や生産系アイテムの創造に特化しているのが『錬金術』や『魔工』の分野だ。

 

 一般的なファンタジー系のゲームで言えば、クラフターとかそのようなポジションに近い。

 

 ナベルはプレイヤーの絶対数が多くないので、生産系を担うプレイヤーが少ない。普通のオンラインゲームと相対的に比較しても少ない。

 なんなら逆に絶対に必要とされるし失敗がないということで新規プレイヤーの半分が最近は生産系に回ってる状態と聞いている。

 ならば不均衡も解消されるかも、と思うかもしれないが、こちらも割と癖の強い仕様になっているらしく腕が立つのはほんの一握り。

 その中の代表的なクラフターの1人が目の前にいるマッドドクである。


 知名度で言えばもしかするとセーラーバットさんに並ぶかもしれない。マッドドクはアイテムの量産ができるようになっても自分の元に押しかけられるのが嫌なので、他のプレイヤーに格安でレシピを売りつけるのだ。だからその恩恵に預かっているプレイヤーはかなり多い。

 ただし表にはほぼ出ないので名前だけが一人歩きしてる感が強く、その実態を知っているのはごく僅かだ。


「俺はドクの頭脳と技術には全幅の信頼を寄せてるからなぁ。なんだかんだ言いつつ今まで量産化が難しいアイテムも量産化に漕ぎ着けてきたし」


「ヒヒヒッ、なんだい、口説いてるのかい?君の誘いならやぶさかでもないがね」

 

「だったらたまには『ガラクタ屋』に顔を出したらどうだ?一応なりとも『錆付き』の1人なんだからよ」


「ボクがあまり人付き合いを好む者でないと知っているだろうに。お誘いは嬉しいが遠慮しておくよ。ガラ婆さんにはよろしく言っておいてくれたまえ」


 袖をブラブラと左右に振り拒否を示すドク。この引きこもり体質と人嫌いは筋金入りだ。そう考えるとこうしてドクと個人的に会うことを許されてるのは割と幸運な事である。

 俺が上位陣に名を連ねられてるのもドクの協力がかなり大きいのは間違いない。でなければ凡人の俺では逆立ちしても他の上位陣と肩を並べることなど出来はしない。


「そうだね、量産化ができるようになったらまたその時は連絡を入れよう。少し時間はかかるかもしれないが、まあ無理という事もあるまい」


「サンキュー、ドク。愛してる」


「はいはいボクもアイラビューだよ」


 ドクの言ってる事はどれも本気では無いし、こっちのいう事もサラリと流してくれるので話していて面白いし楽な相手だ。

 

「そんで、一応アイテム実験も兼ねて倒した魔物のドロップとIvカード、有用そうな物も先払いとしておくぞ。俺以外のプレイヤーからも預かっていた物もある。ドクによろしくだとよ。また研究に役立ててくれ」


「ヒヒヒッ、ありがとさん。助かるよ」


 ドクが個人的にやり取りをするプレイヤーは片手で数えられる。その中でも俺が1番知名度が高いせいで何故かドクの外部受付窓口になっているが、その分メリットもあるのでトントンと言ったところか。

 だからこうして他のプレイヤーからアイテムなどを預かり俺が渡す。ドクはいつも通りに俺が渡した目録を確認するとサインをして返した。


 あとはドクに任せるだけだ。俺は次の待ち合わせ場所へ行こうと研究所を後にしようとすると、非常に珍しいことに後ろから声がかかった。


「時にゴリゾネス君、今日はどこか上の空だったが何かあったのかい?」


 あまりに不意打ちだったので思わずピタリと立ち止まってしまう。これでは何かあると言っているような物だ。

 できるだけ心を落ち着かせながら振り向けば、いつも通り死んだような目でこちらを見据えドクはニヤリと笑った。


「図星かな。失礼、悪癖だとは理解しつつもつい抑えきれなかったんだ。お得意様がお悩みとあらば相談に乗るのも異存は無いのだが、ふむ、見るにちょっと毛色の違う問題らしいね」


 ドクは人嫌いだが、かと言って人を見てない訳ではない。むしろわかりすぎてしまうのだろう。ドクの観察能力と分析能力はちょっと異常な部類だ。だから人と接することが嫌になったのかもしれない。

 ドクは妙に鋭いところがあるが、まさか見抜かれるとは思ってなかった。


「あー…………そうだな、うん、ちょっと面倒な問題というかだな」

 

 ドクに相談しても、きっとドクは他のプレイヤーにバラしたりしない、というかその機会がほぼ無い。荒唐無稽な話とて興味深そうに俺の話を聞いてくれるだろう。

 ただ、今のところは依然としてグレイヴは休眠状態。実証できない限り痛いホラ話になりかねない。


 ドクとはいい関係を築けているつもりだがどこに地雷が埋まってるかまだ測りきれてない存在でもある。もし相談するならもっと建設的な証拠などを揃えてきてから本腰を据えての方がいいだろう。

 ドクは一度興味を持った事は質問攻めにしてくるし、答えてあげられないとモヤモヤして不機嫌になってしまうからな。


「…………今はちょっと自分で考えさせてくれ。ということで今回は納得して欲しい」


「そうかい。別に無理に聞き出そうというつもりは無いよ。君にはそれなりに借りがあると思ってるんだ。ボクが力になれる範囲で手をかそう。そうだな、『10万ドルほど無期限無利子で借りたい』程度ならOKだと思ってくれ。10万ドル⭐︎PON⭐︎と貸してあげよう」


 またも突拍子もないホラを吹くヤツだ。

 だがこれがドクなりの思いやりなのかもしれない。とりあえずグレイヴの休眠モードが解除できるようになったら相談してみるのも一つの手だ。素性はよく知らないが言動を見ていてもドクはリアルINTもリアルEDUも高そうだし、それなりに建設的な答えが返ってくるかもしれない。


「御冗談を。まぁ、もしかしたら、お言葉に甘えて次にこっちにくる時に相談するかもしれないな。その時はよろしく」


「そうかい。だったらボクは待っていよう」


 そうして俺は軽く手を振って研究所を後にした。







「ふむ、別にキミだったら10万ドルくらいなら本当に貸してもいいんだけど…………さて、大体は自己解決しちゃうキミがあんなに悩むような事とはなんなんだろうなぁ。気になるなぁ。暇潰しのつもりだったが、存外ゲームも楽しいものだねぇ……」


 だから、ドクが俺が出ていくのを見届けると同時に子供のように椅子ごとぐるぐる回りだしたのも、そのとんでもない独り言も知るよしも無いのだった。

(ΦωΦ)中の人の性別は不明が多めです。(なんなら本名どころか正式なプレイヤーネームも出てこない件について)

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりこれも面白いなぁ 全部続ければALLFOと同じくらい伸びると思うんだけど [気になる点] ファルマフォート=ゴル・グレイヴの■←3つは獄吏長とかその系統だったりしないかな? [一言…
[一言] 「凡人の俺」 ミニ丸語さんの主人公が何処かノートと似ている気がするな ゴリゾネスはその場を利用することが得意系か だからドクがアイテムの実験を頼んでいる面もありそうだ(会っているのは別の理由…
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