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5: ガラクタ屋ファンクラブ第1号(自称)

(ΦωΦ)話すすまねぇ…………


 結局何をどうしようとも休眠モードが解除できなかったので、今日は一旦お開きにした。

 俺はこの後も待ち合わせがある。正直気になって仕方ないが、とりあえず使い魔がいなければ機能を発揮しないメイン武器が普通に生きてたので深刻では無いと信じておく。


 そんな訳でガラタク屋名物の『森クラーメン』でも食べてこうとしたのだが、ガラ婆がロックを解除した瞬間にバーンッ!!とけたたましい音を立てて扉が開いた。扉のガラスが割れなかったのはもはや奇跡だろう。


「ちょっとォ!なんで締め出すんすかッ!?看板娘をあんな不気味な置物と一緒に看板がわりにしないで欲しいっす!まあ看板娘なんですけどねッ!」


「うっせぇんじゃ!静かに開けんかいこのスットコ小娘!しかも何が看板娘じゃ!看板なのはお前のボデイだけじゃ!」


「な、なんて失礼な!?そもそも店長が締め出す方が悪いっすよッ!そもそもおたま投げないでくださいっす!わたしじゃ無かったらどうするんすかっ!?」


 キンキンと甲高い声を響かせ店に飛び込んできたのは赤と白のド派手なスポーツウェアに身を包んだ身長150cm前後の小柄な少女。胸には見る角度で赤や青に見える大きな宝石をつけたブローチをつけており、耳には三日月しては不思議な形状の銀色のネックレス、腕には簡素なデザインの金色のブレスレット。

 素朴で化粧っ気ゼロな顔立ちと打って変わってド派手な装飾過多な装飾データだ。


「おーおー、いつも元気だね1号ちゃん。今の新作の漫才?んじゃおひねりあげよう」


「あ、いやーどうもどうも。おひねりなんていただける芸でもございませんが、楽しんでいただけるなこれ幸い、な訳あるかーいッ!!しかもおひねりが『バルブ』!これで何をひねれって言うんすかッ!?」


 本当に、ド派手な見た目に見合わぬ愉快な子である。


「じゃあおひねりはいらん?」


「いえ、水属性系の武器に使えそうなので普通に貰っておくっす!あざます!」


 そして割とちゃっかりしてるというか、世渡りの上手い子だ。自己申告(勝手にしてきた)では高校生らしいが、随分と逞しい。まあこれがこの子のロールプレイの一環なのかもしれないが、ロールプレイと言えばガラ婆の切り替えも流石だ。割と際どいセクハラ台詞こそでたが頑固ババア感はかなりでている。


 この子のプレイヤーネームはもちろん『1号ちゃん』などという珍妙な物では無い。ただのあだ名だ。

 

 正式(?)なあだ名は『ガラクタ屋ファンクラブ第1号(自称)』である。ナベルには空腹値という概念があり、プレイヤーは食事を摂らなければない。

 これが案外曲者で、空腹状態になりデメリットが発生してから気づくことが多く初心者は特にギリギリになって焦ることが多い。

 更には普通のゲームと違って少し不親切なところがあるナベルでは、どこに行けば安全な食料を入手できるかというのが事前情報が無いとほぼわからない。

 

 1号ちゃんもその情報を持っていなかった側のプレイヤーで、ゲームを始めてもない頃空腹状態に中立エリアでオロオロしていたところ俺が声をかけてこのガラクタ屋へ連れてきてあげたのだ。

 

 1号ちゃんはその時食べたガラクタ屋名物『森クラーメン』をいたく気に入った様で、以後勝手にファンを名乗り始めてこの店に高頻度で顔を出し、本来は人付き合いがそこまで得意でもないガラ婆をどうにか丸め込みいつの間にかガラクタ屋の名物看板娘にまでなっていた。

 

 踏み込むまでは普通の人と同じくらいのハードルはあるが、一度飛び越えると後はガンガン距離を詰めてくるタイプで、なかなかコミュ力が高くノリもいい。癖の強いガラクタ屋の他の常連にもあっさり馴染んでいたのは記憶に新しい。


 因みにチャラチャラ頭パッパラパーな感じの1号ちゃんだが、バトルスタイルは超高速戦闘型でかなり強い。手数は多くないが純粋にプレイヤースキルが高いタイプだ。何度か手合わせしたが勝率は8割程度か。

 手数の多さで戦う俺とは相性が悪くてもそれでも2割はしっかり勝ちをもぎ取ってくるあたり持ってるポテンシャルはかなり高いだろう。


 ちなみに、『1号』というあだ名は彼女のもう一つの特徴を表したダブルミーニングなのだがその由縁は機会が有れば説明しようと思う。


「店長、『森クラーメン』つくってるんすか?じゃあわたしも一杯くださいっす!」

 

「看板娘名乗るならちっとは働けこのスットン小娘!」


「ぶー!仕入れはちゃんとやってるじゃないっすかー!」


 いちいち文句は言いつつも早速もう1人分の『森クラーメン』を作り始めてるあたりガラ婆も人がいいというか、苛烈な物言いも頑固婆さんのロールプレイの一環でしかないので根の良さが全く隠せてない。

 それをわかっているからこそ、どんなに雑な言葉が飛んできても1号ちゃんもガラクタ屋に居座っているのだろう。

 

 聞くに彼女はこういったノスタルジック、レトロ、ポストアポカリプス的な光景が好きらしく、22世紀には絶滅し今やアニメなどでしかその姿を殆ど見ることができないしみったれた小汚い、しかし地元の人に愛される小さな個人経営の居酒屋の様な場所が1番好きらしい。

 そんな彼女にとってガラクタ屋は最高に場所で、ガラ婆の罵倒も含めてこの店のことが好きなのだろう。特に大きな見返りがある訳でもないのに自主的に店で提供する食べ物の食材を集めに出かけて納品している。


 ナベルの世界で食料を手に入れる手段は大きく分けて2つ。

 1つはスーパーやコンビニの跡地で採取できる保存の効く食料品の回収だ。設定的には異世界の侵食とウイルス蔓延による文明崩壊後の世界なので、舞台となる21世紀前後に存在したインスタント食品や缶詰、調味料などは活用できるし、一定期間でリポップする。

 実際は文明崩壊からそれなりに月日が経っているので如何に保存の効く缶詰やインスタント食品も本来は保たないだろうが、まあそこは道具を駆使してある程度鮮度を回復すれば問題なく使えるようになるご都合主義だ。

 2つ目はウイルスで魔物化した動物や植物からの入手。ナベルの魔物は倒すとIvカードだけでなくアイテムもドロップする。そのアイテムの一部はきちんと調理すれば食料としてカウントできるのだ。


 1号ちゃんのいう仕入れとはこの2つ目の方法、魔物からのドロップ品の事を指している。

 基本的に同じ魔物を狩るばかりなのでレベル上げには向かないし得るものもそう多くはないだろう。だから1号ちゃんの行動はほぼボランティアみたいなもので、彼女の戦闘力を評価するものはそれを勿体無いと感じる事も多い。


 きっと彼女とてガンガン強いモンスターに挑めばより強力なプレイヤーになれるのは間違いない。それをわかった上で彼女はガラクタ屋の看板娘でいる方が楽しいらしい。

 

 実際、ガラクタ屋が割と繁盛しているというかレパートリー多めで食事を提供できるのも彼女の活躍があってこそだ。だから俺はその感謝の印として、ガラ婆の友人として、何かにつけて彼女に引かれない程度にお土産を渡している。

 それが俺のしてやれる限界のラインだ。


「ところでゴリゾー兄さん、なんでさっきロックしてたんスカ?」


 高めの椅子に腰掛け足をパタパタさせながら、1号ちゃんは料理ができるまでの時間潰しなのか質問をしてきた。

 何かを企んでる様子もなく、ただ単純に気になったから聞いてみたのだろう。


「んー、気になるか?実はだなぁ、俺の使い魔が急に喋りかけてきてさ、マジでどうしたもんかなってちょっと相談してたんだよ」


 冗談めかして話したが内容は事実そのもの。1号ちゃんは古参プレイヤーながら人懐っこく知り合いが多い。何か知っていれば隠し事が苦手なら彼女なら反応があるはずだが――――


「うーん、今回のギャグはキレがないっすねー!95点!」


「いやキレが無いのに95は高いのよ」

 

 反応を見るに完全に冗談だと思われている。という事はやはりこの異常現象は今の所俺にしか起きていないのだろうか?

 それとも起きたとして混乱を避けるために俺の様に黙秘している?

 もともとソロに優しいゲームだ。どちらかと言えば秘密主義的な連中が多い。そういう行動に出る方が自然かもしれないな。


 しかし俺だけって事はあるのか?そんなバカな。それとも何かのイベントの兆しか?何か条件を満たす様なイベントをクリアした覚えも無いし、一体何がどうなってるんだ?


「――――っと!どうしたんすかゴリゾー兄さん!なんか具合悪いんすか?それとも機嫌悪いっすか?気のせいならイイんすけど…………」


 おっと、考えすぎるあまり話しかけられていたことに気付かなかった。どうやら俺も自分で思っているより冷静になれてないのかもしれない。

 あまり自覚できていないのだが、俺が考え事をしている時の顔はどうも不機嫌に見えるらしい。ガラ婆はまあ付き合いも付き合いなので慣れているが、周囲の人には怖がられる事もある。厳ついアバターのせいで余計に威圧感が出ているのかもしれないが、リアルでも割と怖がられるのでアバターは関係ないのかもしれない。(これは父親も似たような癖を持っていて、母上や姉上曰く『目が据わっている』らしい)


「悪い、ちょっと考え事してただけだ。別に怒ってたりしてないぞ」


「そうっすか、ならよかったっす。ちょっとプライベートに関わる事聞いたのがマズかったかなーって心配になっちゃって」


 へへへッと弱々しく笑う1号ちゃん。どうやら思ったよりビビらせてしまったらしい。


「まあ俺とガラ婆がリアルでも知り合いってのは前も話したろ。そんでリアルに関わる話をしてたからちょいとロックしてたんだ」


「イイっすねーそういうの。うちは周りに同じゲームしてる人いないんでちょっと羨ましいっすよ」


 彼女のこのコミュ力は何もゲーム内だけのものじゃ無いだろう。たまにゲームになると性格が変わる人がいるが、彼女はその手の人種ではない。つまりそれ相応に沢山の友人がいるはずだが、この玄人ゲーに誘えるようなゲーマーはいなかったらしい。


 因みに俺たちのリアルの性別は隠しても無いが同時に明言もしてないので、1号ちゃんがたびたび俺たちの関係を邪推しているような気がしてならないのだが、俺にその気はないぞ。

 まあガラ婆が女だったら良かったのにと思った事は何度かあるが。


 そのあとは1号ちゃんと何気ない世間話をし、熱々の『森クラーメン』を食べた後は次の待ち合わせに備えて『ガラクタ屋』を後にした。


ガラクタ屋名物『森クラーメン』

アキバエリア近郊に出没するとあるクラゲ型魔物を使った一品。

コイツの死体ドロップに軽く火を通しザルに入れて茹で、鰻のタレをはじめとした特殊なタレとごま油に茹で上がったクラゲを絡め、焼き鳥の缶詰などを盛りつけた油そば擬き。

クラゲの触手部分がそのまま麺に、傘はチャーシュー代わりに。麺はコリっとした弾力が少しあり、冷麺に近しいかもしれない。


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