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3/7

2:ニホンゴ

(ΦωΦ)現実逃避しながら書く小説は楽しいなぁ(白目)



「何処から話して欲しい?」


 俺の言葉にガラ婆は予想通り驚きのあまり沈黙する。我が友人は許容範囲を越えるとフリーズするのでこの反応は予想できた。

 だから話が続けやすいように次のパスを出す。


「…………よくわからないから、そっちに任せる」


「おk、まぁ俺もドタバタしてて完全に飲み込めてる訳じゃないから話しながら整理するわ」


 事の始まりは、約50分ほど前にナベルにログインした辺りだ。今日は教授がかなり授業を早めに終わらせたのでいつもよりも一本早い電車に乗ることができ、ログインの時間もいつもより早くなった。


 水曜日といえばガラ婆との週一の待ち合わせの約束があるわけだが、早くログインできた事でかなり余裕があった。

 という訳で今現在出没中のイベント限定ボス個体を狩りに行った訳だ。


「そんな気軽にボス狩りにソロで行くヤツほんの一握りじゃろうけどな」


「まあドクから試作品の実験も頼まれてたからそのついでだ。今日会う予定だったし丁度良いかと思ってな」


「成る程な」


 因みにナベルはしょっちゅう過疎ゲーとかマイナーゲーとコラボしており、イベント限定のボス個体がよく出現する。ただナベルは比較的マイナーゲーながらもかなりの高クオリティのボス個体を用意してくれる所が嬉しい。

 むしろ本家よりクオリティが高いという謎の技術力を持っているが悲しいかなそれを実感できる機会が少ないというのが唯一の欠点だろうか。

 しょうがない。コラボ相手もマイナーなのでナベルと両方履修してるプレイヤーは少ないのだ。


 そんな世知辛い事情は置いておいて、イベントボスを2回ほど回した後、レベルアップした時に唐突に話しかけられたんだ。


「あのボス2回も倒せるのか。やばいな上位陣」


「セーラバットさんならアイテムに頼らず同じ時間で3周しますが?」


「あの人はちょっとレベルが違いすぎて」


「まあドクのアイテム検証も兼ねて強力なアイテムを使えたのは大きかったな」


 セーラーバッドさん……ナベルは色物枠ゲームではあるがその分プレイヤー一人一人のプレイヤースキルは割と高い。その中で上位陣は殊更魑魅魍魎ばかりで、あだ名をつけて呼ばれるが多い。俺に付けられたゴリゾネスというあだ名もその証である。

 しかしあだ名で『さん付け』で呼ばれるプレイヤーは滅多にいない。その例外の1人が『セーラーバット』だ。


 メイン武器は血の様に深紅に輝くバット。装備データは白黒の際どいセーラー服。

 特徴的な見た目だがそれ以上にこの人は純粋に強い。俺はアバターの見た目に反して色々小細工でどうにか切り抜けるタイプだが、セーラーバットさんは純粋なプレイヤースキルが人間離れしているしメイン武器もエグいほどに強い。


 他のプレイヤーとも殆ど接点が無く孤高の天才ならではのカリスマ性もあり彼女(?)には割とファンが多い。

 何回かタイマンをしてもらったが勝てたのは偶然まじりの一回きり。今も勝てるビジョンが全く浮かばない。


 閑話休題。


 ともかくボス狩りを二回してそろそろ離脱しようというところで声が聞こえたわけだ。


『おい、契約者。貴様は肉体は女だが魂は男なのよな?なぜそんな妙なことをしておるのだ?』


 女とも男とも言えるような、少々ハウリングした感じの声。話しかけ方も不躾で話している内容もリアルに関わってくる割とタブーに近い話。

 そりゃナベルではそれなりに知られているのは自覚しているし、そのせいかまるで初対面からやたらフレンドリーに話しかけてくる人はいる。

 それにしたって随分と無礼じゃないかと思いながらも振り向けば誰もいない。


 ん?なんだ?気の所為か?それとも悪戯か?


 一応透明化できる魔法自体はあるが俺の索敵能力を無効化できる魔法が出回ってるとは聞いてない。てな訳でとりあえず煙幕巻いてみても反応無し。


『…………契約者、先ほどから何をしてるのだ?』


 OK、どうやら俺に話しかけてるのは間違いない。しかし声のする方に目を向けても浮いてるのは直径30cmほどの黒い火の玉。俺の使い魔であるグレイヴだけだ。


 グレイヴは割と弱そうな見た目だが、これは通常モードでしかない。その本体は“異世界”とやらにあるらしく、契約者である俺を窓口にこちらに干渉できる。

 主な攻撃方法は異界からの物理攻撃。空中に黒い火の玉を増殖させ、その火の玉から目玉が幾つもついた真っ黒な炎を纏った赤紫色の太い触手が飛び出してくる。

 また契約者の肉体の強化をすることもできるし、肉盾としても使えるし足場にもなる。


 命令がない限り自主的に行動してくれないし(使い魔の1番のメリットが死んでるとも言える)使用する際のコストはかなり重いがそれを補ってあまりある攻撃力と飛び抜けた汎用性を持つ強力な使い魔で、凡人の俺が上位陣に名を連ねられるのも正直グレイヴのお陰と言っても過言ではない。


 そしてこのグレイヴこそ先程も襲いかかってきたPKプレイヤー『ケモガッパ』との因縁が生まれるきっかけとなった使い魔でもある。


 一般的な使い魔の様に動物モデルでは無いので鳴き声や顔での意思疎通も不可能。他の使い魔よりはその辺がだいぶ味気無いが、まあソロで動くのは好きなので然程気にすることもない。


 …………だからこそ、『グレイヴが声を発する』という事態など到底想定できるわけもなかった。


「でもその声の主が、グレイヴだったんじゃろ?」


「そういう事になる」


 違和感を覚えたのはやたら不躾な話しかけ方なのに、俺の通り名であるゴリゾネスでも、ましてや本当のプレイヤーネームでもなく“契約者”と呼びかけてきた点だ。

 思い出す限り、俺のことをそんな呼び方してくる重度厨二病患者には思い当たらなかった。


 煙幕が晴れてもそこに浮いてるのはグレイヴだけだ。それでも俺は一瞬よぎった馬鹿げた考えを無視してキョロキョロした。そしたら唐突に後頭部を誰かが叩きやがる。


 幾ら温厚なゴリラでもいい加減キレるぞゴラァ!!と勢いよく振りむきゃ、そこには触手を伸ばしたグレイヴが浮いていた。


『契約者、先ほどから無視するでない。聞こえておるのだろう?それとも言葉が通じておらんのか?いや、ニホンゴならばこれで正しいはずであるな』


 触手に浮いた目が全部こちらを見つめていた時、背筋がゾワッとした。もともと使い魔ランキングでも屈指のグロさを誇るグレイヴだったが、それが意思をもってこちらと対等している状況は予想以上に気味が悪かった。


「やめろよ、こっちまで寒気がしてきた」


「うん、わざとだよ」


「このッ!」


 それはともかく、そこでようやく俺は認めざるを得なくなった。先ほどから不躾に話しかけてきたヤツが自分の使い魔であることを。凡そプレイヤー達のイタズラとかバグとかそういう範疇で片付けられないことが起きていると認識せざるを得なかった。


「GMコールは?」


「したさ。でも“いつも通り”反応無しだ」


 ナベルの運営は積極的にコラボはするくせに何故かプレイヤーの管理はかなり雑で、何か問題が起きてもプレイヤー任せなことが殆ど。それでもバグらしいバグが一件も見つかってないからこそ特に不満が噴出することもなく運営できているのだろう。

 一応すぐにバグ報告をGMコールでしてみたが、運営側からのレスポンスは『調査させていただきます』の定型文だけだ。


『…………えっと、さっきから話しかけてきてんのグレイヴだったりする?』


『他に何かいるのか?』


『いやでもグレイヴは』


 話せない。その筈だ。

 凡そ外から見ても発声器官は無し。GMのイタズラにしてもタチが悪いというか手が混みすぎてるしここまでやるメリットも思い当たらない。

 俺はますます混乱する一方だった。


『わかった。オッケー。じゃあ今しがた俺と会話しているのがグレイヴだとして、どうして今まで話さなかった?』


『それはこちらの世界へより干渉できるようになったからであるな。契約者の……そちらの言葉で言う所の『黄泉人』としての力が上がって、それによりこちらの力も上昇したわけなのだ。

 あと単純に契約者の使う『ニホンゴ』という言語の習得と発声器官の確立に手間取っていたのだ。全く、違う次元の生命体とのコンタクトを取るのがこんなにも難しいとは思わなかったのだ。あやつはよく喜んでこんな面倒な真似をするものだな』


 しかしやればできるものだな、と一人で納得しているグレイヴ。なんだか予想よりも面倒な状況に落ちいた気がして俺は思わず天を仰いだ。

 

(ΦωΦ)話せる使い魔と聞いて美少女かと思った?残念、化け物(SAN値ゴリゴリ案件)でした!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「話せる使い魔と聞いて美少女かと思った?」 もし美少女ならもっと他のプレイヤーから恨まれているだろうし、アポカリプスだからなぁ
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