表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/40

21.疑惑から確信へ

 そのまま夕方まで時間をつぶした二人は、商談を終えたキャサリンの両親と合流した。キャサリンの母は案の定、カインの手による装飾品をしっかりと身に着けており、夕食の間中、母娘はずっとその話でもちきりだった。


「やっぱり、母さんならこれを気に入ると思ったのよ」


「ええ、一目で気に入ったわ。あなたの見る目は今でも確かなのね、安心したわ。どんどん買い付けてこっちに送ってちょうだい。私が責任もって、高く売りさばいてあげるから」


「母さんにそう言ってもらえるなんて、心強いわ。ものを売る腕前にかけては、母さんの右に出るものはいないから」


 そうやってはしゃぎあう女性陣をよそに、キャサリンの父とデイヴィッドは静かに酒を酌み交わしていた。女性二人の勢いに押されているのか、どことなく声が小さい。


「……ところで、うちの娘は迷惑をかけていないだろうか。あいつには、少々……いや、かなりおてんばなところがあるから」


「いえ、彼女のおかげで毎日が楽しいです。俺だけじゃなくて、周りの人たちも彼女に元気をもらっているんですよ」


「そう言ってもらえると、私も嬉しい。デイヴィッド君、どうか娘をよろしく頼む」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 そんなことを言いながら互いに頭を下げあう男性陣。そんな二人を、いつの間にか母娘は微笑みながら眺めていた。


「結構気が合ったみたいね、あの二人」


「うん。デイヴィッドはあの通りとてもいい人だから、きっと父さんとも仲良くできるって思ってたの。予想通りになったわね」


「本当に、いい人に巡り合ったわねえ、キャサリン」


「でしょう? 彼は最高の旦那様なのよ」


 そう言って幸せそのものの顔で笑う娘を、母は満足げに眺めていた。男性二人はそんな彼女たちの様子には気づいていないらしく、まだ頭を下げあっていた。






 次の日、キャサリンは指定された時刻にまた裁判所を訪れていた。両親は別の時間を指定されていたこともあって、今日はデイヴィッドと二人きりだ。


 そうして裁判所の中を歩いていた二人は、屈強な兵士二人に挟まれながら廊下を歩いている男性と行きあった。キャサリンがその男性に気がつき、足を止める。


 その男性も足を止め、キャサリンに向かって深々と頭を下げた。彼を連行していた兵士たちは、一瞬迷うようなそぶりを見せたが、同じように立ち止まった。


 キャサリンは兵士たちに会釈すると、男性に話しかけた。


「……お久しぶりです」


「キャサリン様、先日はご迷惑をおかけしました」


 連行されていたその男性はベンダー男爵の執事で、彼女をだまして路地裏に誘い込んだ人物だった。


「私はこれから、ベンダー様の行いについて証言しに参ります」


 その言葉に、キャサリンは無言で目を見開いた。確か彼は、男爵に忠実に従っていたのではなかったか。だからこそ、辺境の街でキャサリンをおびきだす役目を任されたのではなかったか。


 そんな彼女の疑問を見抜いたのか、彼は穏やかに笑うと言葉を続けた。


「ここに収容されてからずっと、私は沈黙を貫いておりました。ベンダー様は横暴な方でしたし、恩義などはみじんも感じておりませんでした。……それでも、一度は私がお仕えした方です。あの方に不利になるようなことを口にしていいのか、ずっと迷っておりました」


 彼はキャサリンに向かって同情するような目を向け、苦笑しながらまた目を伏せた。彼女もつられて苦笑する。男爵に苦しめられてきた者同士の、奇妙な連帯感がそこにはあった。


「ですが、そんな私を説得してくださった方がいたのです。元主について少しでも義理を感じているのなら、しっかりと罪を償わせて更生させる手助けをすべきだ、そう言って」


 彼の目線が、傍らに立つ兵士に向けられる。どうやらその兵士が、彼を説得した張本人のようだった。


「そうだったんですか。あの時のあなたは、きっと男爵の指示に従っただけなのだろうと思っていました。それもあって、あなたが重い罪に問われはしないかと、気になっていたんですが……」


 キャサリンが心配そうにそう答えると、執事の傍らに立つ兵士が静かに口を挟んだ。


「……大丈夫だ。彼はベンダー男爵に仕える身で、主に逆らうことはできなかった。その事情を踏まえれば、さほど重い罪に問われることはないだろう」


 その言葉にキャサリンがほっと胸をなでおろすと、兵士は彼女とデイヴィッドに会釈すると、執事を促してまた立ち去っていった。


「良かったですね」


 デイヴィッドの温かな声を聞きながら、キャサリンは笑顔でうなずき返した。






「さて、アリサは来ているのかな」


 裁判所での聞き取りも終わり、晴れて二人は自由の身となった。これでもう、いつでも辺境の街に戻ることができる。


 しかしまだ、アリサの問題が残っていた。ノーラが彼女の父を毒殺しようとしている、そんな彼女の疑惑が真実なのか否か、はっきりさせずに帰ってしまえば確実に後悔する。二人の意見はそう一致していた。


 二人が裁判所の前で待っていると、しばらくして何かの包みを抱えたアリサが息を切らせて走ってきた。その顔は期待に輝いている。


「とりあえず、いくつか見つけたので持ってきました」


「そうですか。……アリサさん、この辺りで人目につかない場所をご存知でしょうか」


 デイヴィッドが真剣な顔で答えると、アリサは自信たっぷりにうなずき、二人を案内した。




 そうやって三人がやってきたのは、古都のはずれにある小さな公園だった。この辺りは人通りも少なく、閑散としている。


 デイヴィッドはアリサから包みを受け取り、その中身を一つずつ吟味し始めた。慎重に手にとっては、そっと匂いをかいでいる。


「アリサ、あれは薬なの? どれもこれも、デイヴィッドが言ったように香りが強いものばかりだけど」


「はい。最近の父は食も細っていて、口にするものは粥や果物といった、香りの強くないものばかりでしたから。おかげで、見つけるのも持ち出すのも楽でした」


 小声でそんなことを話しながら見守る彼女たちの前で、デイヴィッドがぴたりと動きを止めた。彼は、キャサリンですら今まで見たことがないほど険しい顔をしていた。


 彼は手にした小瓶をアリサに見せると、かすれた低い声で尋ねた。


「……アリサさん、この薬は薄めて飲んでいましたか? それともそのまま?」


「それはノーラが持ってきた薬で、確か……彼女は父に、そのまま飲ませていました」


 それを聞いたデイヴィッドが、深々とため息をつく。そして苦々しさのにじみ出た声で、静かに宣言した。


「あなたの予想は当たっていました」


「デイヴィッド、だったらそれは、その中身はもしかして」


「この中身は、毒です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ