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魔法トリコロール  作者: 夢のもつれ
第1章 ショコラ・マジック
6/7

6.決着

 トゥーリが得意げに言った時、ヴァロは嫌な予感に襲われた。その理由はすぐにわかった。


「危ない!!」


 ヴァロはかろうじて見える視界でイルドを見つけると勢いよく押し倒した。

 

「ぐはっ!」

「きゃあぁぁぁ!」


 ありえない衝撃を浴びてヴァロが血を吐く。その背中はイルドからは見えなかったが深くえぐれて血がダラダラと流れていた。

 何が起こったのか。それは至極簡単なことだった。オーガキングは二人の魔法で倒れておらず、二人の魔法によって砂が舞い上がり、視界が奪われてしまった状態で半狂乱になって手を振りおろしたのだ。そこにたまたまイルドがいて、それに気づいたヴァロが身を挺したたのだった。


「ヴァロ!? イルド!?」


 再度砂ぼこりが舞って視界が悪い中、トゥーリが姿を現した。


「ヴァロ!?」


 ヴァロの怪我を見てトゥーリは顔を真っ青にして駆け寄ってきた。


「大丈夫か!?」

「ごめん。ミスった」

「ヴァロのせいじゃないわ! 私がうまく避けなかったから……」

「いや、誰のせいでもないよ。三人の力不足だ」


 ヴァロは大量に血を失って顔を真っ白にしながらも力強く言った。その言葉に泣きそうになっていたイルドも、力不足を痛感し俯いていたトゥーリもハッとした表情になる。


「こんなもんで死ぬかよ。終わりになるかよ」


 ヴァロはそう呟きながらゆっくりと立ち上がった。


「お、おい、大丈夫なのかよ!?」


 トゥーリの言葉にヴァロはうっすらと笑みを浮かべた。


「視力は戻ったよ。あとはどうやら神様が力を貸してくれてるみたいだね。痛みを感じなくなってきたよ」

「ヴァロ、それは……」


 それは、もう感覚が麻痺してるだけではないのか。イルドが言いかけた言葉をヴァロは首を振って止めた。


「わかってるよ。でも、いいんだ。ここで力を発揮できるってことなんだから」

「……気をつけろよ」


 トゥーリは止めることをしなかった。それだけヴァロの覚悟を感じたからだ。だが、一緒に行けるとも思っていなかった。もう魔力は空っぽ。そして、自分が全魔力を込めた魔法で倒すことができなかったのだ。一緒に行けば足手まといになって、また庇われることは目に見えていた。イルドも、同じことを考え、目に涙をためながらも気丈に振る舞う。


「絶対に生きて帰ってきてね」

「ああ、もちろんだ」


 ヴァロは微笑むと一人オーガキングに向かっていった。

 当たり散らすように暴れているオーガキングの目の前まで行くと、ヴァロは静かに言った。


「散々なことをやってくれたじゃないか」

 

 その言葉が聞こえたわけではないだろうが、オーガキングは動きを止めてヴァロを見た。そして、ちょうどいい獲物を見つけたとばかりにニヤッと笑って手を振り下ろした。


「もう効かないよ」


 ヴァロはその手を簡単に避けると、光の玉を生み出し、その腕に当てた。


「ギャアァァァァ!!!」


 ジューッという音をしながら爛れていくオーガキングの腕。光魔法には浄化の作用がある。それが瘴気でできた魔物を浄化しているのだ。

 オーガキングは怒り狂って今度は足で踏みつけようとしてくる。ヴァロはそのまま身に光を纏って向かい撃つ。


「ギシャァァァァァ!!!!!!」


 先ほどとは比べ物にならない痛みにオーガキングは悶絶した。彼が纏っている光は先ほどの光の玉とは比べ物にならないほど明るく、そして神聖な光を放っていた。


「この力は……なんだ?」


 ヴァロは困惑した。こんな力を自分は知らない。それこそ、ここまで強力な魔法は使えなかったはずなのに今は自然と使えていることが不思議だった。


「まあ、いいか。大助かりなことに違いはないもんね」


 彼は再び笑みを浮かべた。今度は勝利を確信したような自信に満ち溢れた笑顔だった。それを見てオーガキングも脅威に思ったのだろうか。急に怯えた様子を見せてヴァロに背中を向けた。


「ここまでやっといて逃がせるわけないよね?」


 ヴァロは絶対零度の口調で呟くと、片手に光をためた。


「どうか、ここに聖なる導きを」


 意識せずに出てきた言葉はヴァロの心にすっと入り込んでそれに呼応するかのように片手の光が増した。


「終わりだよ」


 その言葉と同時にヴァロは光の玉をオーガキングの頭上に向かって放った。


 その光は幻想的だった。オーガキングの頭上でひときわ強い光を放つと、光が飛び散ってあたりが一面まっしろになったのだ。ヴァロは思わず目を瞑った。そして、その光が消えて目を開けた時、もうオーガキングはどこにもいなかった。神聖な光によって跡形もなく消滅したのだ。


「終わったかな」


 もう疲れた。ヴァロの頭を占めていたのはそれだけだった。


「「ヴァロ!」」


 ああ、トゥーリとイルドの声が聞こえる。二人とも無事だったのか。よかった。

 そう言葉にしたかったが、それは無理な相談だった。

 そのままヴァロは意識を失った。

 二人はヴァロを抱えて、避難救護所になっている保健室までよろよろと歩いて行く。 


「道を開けて! ヴァロを、傷ついた英雄を運ぶの!」


 イルドの言葉に自然と拍手が湧き起こる。うれし涙にくれている者も少なくない。




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