3.友人
昼休み。無料の食堂でヴァロはトレーを片手に空いている席を探していた。
「こっち空いてるぞ」
少し大柄でむすっとした顔の同級生が声をかけてくれたのでいそいそと隣に行く。
「ありがとう。お邪魔します」
「おう」
お互い黙って食べ始める。ヴァロは沈黙が辛いと思いながらも話題を見つけられず黙って食べていた。食べ終わってもまだお互い無言で、そろそろ教室に戻ろうと思ったその時だった。
「お前はなんでこの学園に来たんだ?」
唐突な問いに言葉が詰まる。理由? ヴァロには人に言えるだけの理由がなかった。普段であれば見栄を張って一流の魔法使いになるためとか言えたのだろうが、この少年の前ではそんな気持ちも失せてしまって正直に答えることにした。
「教会の神父様に勧められたんだ」
「そうか」
相手はそれっきり黙ってしまった。何か怒らせてしまったのかと思い慌てたが、そうでないことはすぐにわかった。
「俺も似たような感じだ。家庭教師に勧められてな。家を継ぐわけでもないんだから気にすることはないと思ったんだがな」
「そうなんだ。似たもの同士だね」
「友人にならないか?」
その言葉に驚くと同時に喜びが湧き上がる。
「もちろん!」
「俺の名前はトゥーリだ。同じクラスだ。よろしくな!」
「こちらこそよろしく!」
握手を交わす。ヴァロに心強い友ができた瞬間だった。
二人で肩を並べて教室に戻ると午前中の嫌な雰囲気から一転、彼らには純粋な好奇心の目が向けられた。
「なんか居心地悪いね」
「まあ、悪意の視線よりはいいんじゃないか? 興味を持ってくれた方が話しやすいだろ」
彼はぶっきらぼうに言った。少年は肩をすくめて自分の席についた。
午後の授業は『魔法実技』だった。その授業の最中、彼は度々魔法を見せるよう言われた。教師が彼の魔法をいたく気に入ってしまったようだ。彼が魔法を使う度に女子は悲鳴をあげ、男子はおもしろくない雰囲気が出てきた。
本人に自覚はないが少年は真っ黒な髪に真っ黒な目で、この世界ではなかなかいない見た目をしていたし、目が大きく鼻が高い、整った顔立ちをしていた。しかも魔法も抜群なのだから女子が気になるのは当然だった。
「ねえねえ、君すごいんだね! 良かったらあたしたちに魔法教えてよ」
ヴァロを好奇心満々の女子が取り囲む。
「僕、教えるのは苦手なんだ」
「じゃあさ、一緒にお茶しない?」
「ごめん、マナーとかわかんないや」
女子とそんな会話を延々と繰り返すハメになったヴァロは、授業が終わる頃にはぐったりしていた。
「大丈夫か?」
「うん、ちょっと疲れただけ……」
机に伏せているヴァロにトゥーリが心配そうに声をかけた。
「僕、女の子苦手だってわかったよ」
「意外だな。てっきりちやほやされて嬉しいのかと思った」
「僕をなんだと思ってるんだい? 全然嬉しくなんかないよ」
「すまない」
友人らしい会話に少し心が浮き立ちながらも、精神的に疲れているのかなかなか元気が出ない。
「なんでだろうね。女の子にあんなにアピールされても嫌という気持ちの方が強いんだよね」
少年は不思議だった。記憶を失う前に女子と嫌な出来事でもあったのだろうか?
「まああんなに群がってきたらな。お疲れ様」
「ありがと」
少年はできる限り女子とは関わらないと決めたのだった。しかしながら、世の中はなかなか思いどおりにはいかないものだ。