08話「穴の集落」
わいのわいの言いながら、くにおが見たらしい集落の方に歩いてきた。
まだ日は高く、思ったより遠くなかった。
「おい、くにお。これが集落か?」
その場所だけは木が斬り倒されて、広くなっているのだが、俺が予想していた景色とは違っていた。
家がポツポツと建っているだろうというイメージだったが、人が飛び込めるくらいの穴がいくつか空いているだけだった。
百歩譲って集落だとしても「人間」のものではなさそうだ。
「なんだよ、食いもんはねえのかよ」
アルパカ的には毎日ウサギというのは辛いのだろうか……ていうか、草食だろ?その辺生えてるじゃん。
「深すぎて、奥が見えないな」
「ここをねぐらにするのは難しそうね」
イカちゃんも覗き込むが、異星人も感想としては同じなようだ。
「ていうか、イカちゃん目あるの?」
「目はないけど、周囲の電磁波の反響でわかるよの」
「まじか。じゃあチェック出てきたときも見えてたんだ」
「はじめ隠れてたからわかんなかったけど、出てきたときは見えたわよ」
もしチェックが、見えないのを良いことに堂々と姿を現してたら、光線銃のえじきだったのか……危なかった。うちの大切なお色気要員だぞ!見えないけど全裸だってだけで夢が膨らむだろ?
「中は枝分かれしてるわね、かなり深いみたい」
「そうか、なにかこの世界のものが見つかると思ったが……くにおはこの縦穴に入れないか?」
「入れるけど、なかが真っ暗だと入っても見えないよ」
「まぁそりゃぁそうか」
「おいお前達そこで何している」
背後から聞き覚えのない声が聞こえる。
「この世界のエンカウントはベタだなぁ」
「だよねぇ」
くにおも同意見のようだ。
「草むらから出てきたお前も大概だがな」
「何を言っている、お前達は誰だと聞いたのだぞ」
木で作った槍を突きつけて、高圧的に聞いてくる。その体は蟻のようで、1m50cmくらいの体躯で、黒光りした堅そうな外皮に、足が6本ついている。
その一本には木を削り出したような槍を持っていた。
「俺たちは迷子だ」
「そうか、どこから来たのだ?」
「みんなバラバラでな、ちなみに俺は地球だ」
「チキュウ? 聞いたことない地域だな」
「そうなんだ、参ってるんだよ」
「つまりお前達は、我が女王と同じく『流浪人』なのだな」
突っ込みたいが、冗談が効きそうな相手ではなさそうだ
「俺たちの状態を知っている者が居るなら会ってみたい」
「いいだろう、ついてこい」
「ここに住んでいる訳ではないのか?」
俺はいくつか空いている穴を指差して聞いた。
「ここは手狭になってな、いまは別のところに巣を構えている」
ついてこいということは、敵対が確定の相手ではないのだろうが、蟻の女王と対面となると不安が残る。
一つは上から目線で接されること。
中間管理職の天敵は、上司なのだ。
もう一つは、数が多そうだということ。
なんせ、蟻だ。
この集落の規模と、その大きさからすると、かなりの数だし、ここはもう使っていないってことは、大所帯になったので引っ越したと見るのが自然だろう。
力になってくれるのなら心強いが、敵になると手も足も出ない可能性がある。
しかし、情報は大切だ。
これからの方針にも関わる大きな分岐点になるかもしれない。
(ハム爺、聞こえるか?)
(なんじゃ)
(チェックに伝えて欲しいことがある、「しゃべらず、静かについてきてくれ」と)
(わかったぞい)
(それと、ハム爺のテレパシーで蟻の心を読めるか?)
(チューニングすれば聞けるぞい、しないとノイズみたいに聞き取れないのじゃ)
(チューニング……ああ、頭が痛くなったあれか?)
(そうじゃ、いまやっておくか?)
(いや、まだいいよ、あとでお願いするかもしれない、チェックの件だけ頼む)
(合点承知じゃ)
「さぁ、吉と出るか、凶と出るか……」
言われるがまま、蟻の集落へと赴く。