07『小さき出会い、』
結局朝になってもロボは現れなかった。
どこかに引っ掛かってるのかもしれないな。
朝食にナイバカが探してくれた果物と、イカちゃんが捕ってくれたウサギ肉を食した。
そのあとは焚き火を囲んで座り、各々話をしていた。
「皆はなんでここにいるんだ?」
今後の事もある、知っていて損はないだろう。今のところ、イカちゃんとくにおの話は聞いたが、チェックとナイバカの話は聞く暇がなかったのだ。
「俺は隣村との抗争で、敵の村に突っ込んだんだわ。50人くらいのアルパカに囲まれて、槍を突きつけられて、絶体絶命ってとこまでしかおぼえてねぇな」
「そらぁ、絶対に絶命してるだろうな」
死んだら異世界転生のノリかな。
「チェックちゃんは?」
「私は学校からの帰り道、歩いていると急に暗闇になって……」
「暗闇って、夜みたいになったってこと?」
「もっと真っ暗です、手を目の前に持ってきても見えないくらいの!」
「いや、元から見えてないよね」
「例えですよ、例え」
「チェックちゃん以外が言うと分かりやすい例えなんだけどなぁ……」
とにかく急に異世界の門が開いた的な感じか。
「結局共通点は見つからなかったな」
切っ掛けが分かれば、もとの世界に戻れる道筋もわかると思ったが、これだけバラバラだとそういうわけにもいかない。
「あ、闇の中で声が聞こえました」
ん?それって
「お前に与えられるのは、共通言語とチャンスだって声がしました」
「俺も聞いたなたぶん」
「僕も聞こえたよ」
みんな聞いてるんだ。
「アタイも聞いたわよ」
「じゃぁ俺も聞いた聞いた」
「バットってば、昨日は聞いてないって言ってたじゃない」
「仲間はずれは寂しいじゃないか」
「聞いてないからって仲間はずれにはしないよ」
くにおが髪をかきあげながら言う。
「癖は気になるが、そういって貰えると助かる」
「結局アタイ達に共通点は無いし、解決策も見えないのね」
「まぁそうなんだよなぁ」
「とりあえずこの世界の住人を見つけるのが先決じゃないのかな?」
「くにお、良い意見だ」
「昨日飛んだとき、集落みたいなのがあったし」
「先に言えって!」
「とにかく行ってみましょうよ」
「まぁ、じっとしてても仕方ないしな」
俺たちはくにおの指示に従いながら、森の奥へと進んでいった。
集落を目の前にして、急な頭痛に襲われる。
「なによこれ!」
「頭がいたいですっ!」
全員感じているようだ。
その頭痛は30秒ほど続いて、急に良くなったのだが、代わりに不気味な声が聞こえた。
(お前達は何者じゃ)
頭の中に響く。
「なにこれどこから聞こえてるの?」
(いまワシは、お前達の頭の中に直接語りかけておる)
今度はテレパシーかよ!
(む、ワシの能力に気づくものがいたか)
「そりゃぁ頭に話しかけてきたらわかるだろ、ってか心も読めるのかよ」
(造作もないことじゃ)
「だったら俺たちに敵意がないことくらいわかるだろ?」
(確かに……試すような真似をしてすまなんだ)
「わかってくれて良かったよ、姿を見せてくれないか」
(ワシはさっきから目の前におるぞい)
「透明人間被りかよ!」
(いやいや、もっと下じゃ)
なにかと思い下を見下ろすと。
「わぁ可愛いハムスター」
(ワシじゃ)
「可愛くないしゃべりかたぁ!」
(仕方ないじゃろう、わしもかなりの長生きでのう、寿命ものこっておらんジジイなんじゃ)
「まぁ、ハムスターにもジジイババァはいるだろうしな、盲点だったぜ。おいくつなんですか?」
(4歳になる。敬うが良い)
「年下かよ! あ、でもハムスターだったら確かに長生きだな」
(すまんが肩に乗せてくれ、歩くのがおっくぅでのう)
「いいぞ、ほれ」
俺はヒョイとハムスターをつまむと、くにおの肩に乗せた。
「バット君、これじゃぁ髪をかき上げにくいじゃないか」
「思わぬ副産物。ずっと乗っけといてくれ」
「さて、俺たちは集落らしきものを見つけたから行くつもりなんだが、ハム爺も一緒にどうだい?」
(あまりワシは生き物の多いところは苦手じゃ、心の声が聞こえ過ぎる)
「テレパシーも大変だなぁ」
「最初はただのネズミかと思ったけど、近くで見ると可愛いね」
くにおが肩に乗ったハム爺を撫でている。
「ずるいです、撫でて良いなら私も撫でたいです」
「アタイもおよばれしちゃおうかしら」
なでなでなでなでなでなでなで
「ハムスターも大変だな」
(仕事だと思うておるよ)
「はっ! なんで誰も俺を撫でねぇんだ? こんなにフワフワしてるっつうのに!」
突如現れたモフモフライバルに対抗意識満々のナイバカがわめき散らしている。
みんな無視している。
「ところでナイバカよ。チェックの服をどこにやったんだ?」
「そうですよ、私の服!」
「忘れてハムスター撫でてたくせに」
「バットさんは黙っててください」
「あー、服なら食べたぜ」
「変態!趣味が特殊すぎます」
「趣味じゃねぇよ、腹減ってたんだ」
「腹減ってても食べ物以外は飲み込んじゃだめだぞ」
「バット、知ってるか?山羊って紙食うんだぜ?」
「だとしてもお前には関係ねぇな」
「じゃぁ変態さんのお陰で私の服は戻ってこないんですか?」
「透明じゃなかったらチェックが一番変態だけどな」
「バットさんは黙っててください!」
勢いに押されたナイバカはたじろぎ、素直に頭を下げた。
「すまん、不味かった」
「味の話はどうでも良いです!ってか味わわないでくださいよ変態!」
(心の声が聞こえなくてもうるさい)
「だな」
なかなか目的地につかない一行であった。