05話『水玉チェック』
「君たちは宇宙船を探しているのかい?」
「ああ、そうなんだ、明るい内に高くなっている所まで行かなきゃ行けないんで、急いでるんだ」
「そっかー大変だねぇ」
そう言いながらついてくるところを見ると、成り行きで行動を共にしてくれるって事なんだろう。
「そういえば、イカちゃんも、くにおも俺の星とは違う星から来た感じだけど」
「アタイなんて見た目もだいぶ違うわよ」
「イカっぽくて素敵ですよ」
「髪をかき上げて流し目すな。また星にされるぞ。俺の故郷は地球って言う星なんだが、知ってるか?」
二人とも首をかしげるところを見ると、知らないんだろうな。
「イカちゃんは、イカロスって星に居たらしい」
もちろん俺は知らないが、くにおはポンっと手を叩いた。思い当たる節があるらしい。
「昔、イカロスって人が、蝋燭で作った羽で自ら流刑者になったって、おとぎ話が……」
「流刑者の話はお腹一杯です」
そのまま進んでいると。
「この先に進んではいけない!」
急に制止させられる。
回りには誰も居ないのに、声だけがする。
「なんでしょうかこれは」
「いやぁぁあ声がするぅ!」
「光線銃を出すなって」
「話したいなら、姿を見せてよ」
くにおが見えない相手に声をかけると、奥の草むらがガサガサ揺れた。しかし、相手の姿はない。
「貴方に私の姿は見えません」
「だったら出てこなくても良いや」
またガサガサと草が掻き分けられて行く。
たぶん隠れたのだろう。
見えないんだから隠れる必要ないじゃん。
「よし。問題なし、進もう」
俺は進み始めた。
「まってまって! 進まないで!」
見えない声は、どうしても先に進ませたくないのだろう。話でも聞いてやるか。
「なんで進んじゃだめなんだ?」
「この先は悪い人が居るの、仲間にならないかって言われたけど、断ったら殺されそうになったわ」
「おう、そりゃぁ進みたくないなぁ」
「でしょでしょ? だからここでみんなに忠告してたの」
「ご忠告感謝します」
ふぅ、とため息をつく声が聞こえた。
一応、本当に忠告してくれてるんだな。
「それは、どんな奴なんだ?」
「狼みたいな、二足歩行の獣で、自分の部下になれとすごい勢いで迫ってきて……」
「お前見えないのに、迫って来たのか?」
「狼だけに、匂いで分かるぞって、私こんなの初めてで、命からがら逃げ出したんです、うっうう」
すすり泣いている、よっぽど怖かったんだろう。この透明ちゃんはいい人のようだが、この先にいる奴は怖い奴のようだ。関わらない方が身のためかもしれないな。
「レディを泣かせる奴なんて、許せないよねっ!」
「あーんぱーんち!」
俺はくにおの顔にパンチを放ったが、瞬間移動で避けられた。
「髪をファサァっとかき上げて、顔を近づけて同意を求めるのはやめてくれないか、つい殴りたくなる、星にしたくなる」
「以後気を付けるよ、気持ちより先に殴ってたけどね」
しかし、許せないよね?と同意を求められて「そんなことない」とも答えにくいのが男のサガだ。
「この子、いつ迄もここで忠告し続けなきゃいけないって可愛そうよ、なんとか解決できないかしら?」
イカもそっち側?
「みなさん、ありがとう、ぐすん」
いや、俺まだなにも言ってないんですけど!
……めんどくさいって言いにくい。
「バットってば、なにも言わないつもり?」
ばれたか
「解決の方法を考えてたのさ!」
「さすがアタイの見込んだ男ねっ!」
「ありがとうございますありがとうございます」
「で、その内容とは?」
「考えていただけさっ!」
白けないでください。
思い付かないんですほんと。
だから光線銃はしまってください。
「とにかく、情報だ情報! そうだ、くにおってば空から相手の動きを見てこれないか?」
「お安いご用さっ」
そういうとくにおは、ふわりと宙に浮いたまま、道沿いに飛んでいった。
「あわわわ、飛べるんですか!」
「お前も消えとるがな」
「私のいたところでは当たり前でしたので」
「みんなが透明でどう生活するんだよ」
「身に付けたものは視認できるので」
「……ってことは、今は全裸ということか?」
「ヒィっ目が怖い!こっち向いてないけど」
「あ、こっちじゃなかったのか、ちぇっどうせ見えないんだよな」
そんな世間話(?)をしていると、くにおがスーっと帰ってきた。
「そういえばテレポートで行っても良かったな」
「あ、ですね」
「お前あんまり自分の力の使い方に慣れてないね」
「日常生活では使わないでしょ、遅刻したときくらいしか」
「十分便利だよ」
くにおによると、この先に大きめの洞窟があること、そしてその前で焚き火の跡があることから、そこに狼男は潜伏しているだろうと言う。
「ほかは、ずっとこんな感じの森だったね」
「洞窟はどの辺だ?」
「そこの小高くなった岩山だよ」
「あぶね、俺あれに上って辺りを見回すつもりだったよ」
「透明子ちゃんさまさまだね」
「なんだその呼び方は。ねぇ、君はなんて名前なんだい?」
俺は優しく声のする方へ問いかける。
「私はチェックって呼ばれてます」
「チェック?」
「チェック柄ばかり着ていたので」
「そういう認識なんだ」
「夏休み明けとかに洋服の雰囲気を変えると、しばらく混乱されます」
「だろうね」
「水玉模様のチェックって呼ばれます」
「実体験っぽいな」
俺たちは一通り自己紹介を済ますと、洞窟に巣くう狼男対策を練ることにした。
「そういえばさ、あの山登らなくても、くにおが飛んで宇宙船あるのか、見てくれたらよくないか?」
「そういえばそうだね」
「お前、能力使いこなせてないなー」
「日常生活で使わないでしょこれ、持ってた風船離しちゃった時くらいしか」
「何歳だよ、そして意外とその経験ねぇよ」
こんなので大丈夫か?
今からでも遅くないぞ、放置しようぜ?