01話『未知との遭遇』
思い付きで書きました。
公開はするが後悔はしない!
不定期更新なので、ブックマークしてたまに読んでください。
────ハァハァ……
雑木林といった雰囲気の森の中、俺の激しい吐息と、動悸だけが響いている。
踏み固められた獣道、ただひたすらにそこを走る。
命からがら、額には汗が滲んでいた。
信じてくれないかも知れないが、タコのような生き物に追われている!
頭はゼリー状で透き通っており、走る度にふよふよ揺れるのが気持ち悪い。
足場の悪い地面を器用に10本足で走って追ってくる。
……足が10本ならイカなのかもしれない。
って、そんなことはどうだっていい、捕まれば俺は確実に殺されるだろう!
「待ってぇ」
しかも話しかけてくる。……怖いわ!
だが、全力疾走の甲斐あってか、少し差が広がってきた。
「待ってってば、アタイもう限界……走るの苦手なの」
よしこのまま撒ける!
そう思ったとき、俺の中から込み上げるものがあった。
あの化け物の特殊能力だろうか!?
俺は足がもつれて倒れ込み、草むらに嘔吐した。
ヴォアエアエアアロロロ
気持ち悪い、きもちわるい!
逃げなきゃいけないのに! 頭もフラフラとし、地面すらどっちかわからない。
「もぅ! 待ってって言ってるでしょ!」
後ろに回られた!
「あ、終わった」
俺の頭には走馬灯が流れ始めた───。
俺の名前は百舌鳥抜人
バットマン好きの父が付けた痛い名前だ。
字面はいい、人よりも抜きん出るという意味に取れるから。
だけど俺は学生時代から、ずっと何にも抜きん出ないまま、平々凡々と過ごしてきた。
就職しても、仕事は並、業績も並。
しかし、誰からも妬まれることもなく、普通に慕われて。
取り敢えず係長という中間管理職についた。
ある意味そこが俺の天職だった。
部下とのコミニュケーションを取り、得意な分野の仕事を割り振る。
お陰で部下は仕事が捗るし、得意分野でミスも少なく楽ができる。
俺は開いた時間で、他の部下とのコミュニケーションを図ることで、また良い循環を作っていける。
そうして日々を楽しく過ごしていた筈なのだが……
部下との飲ミュニケーションの帰り道。
ふらふらして目の焦点が合わない状態になっていた俺。
「やばい、飲みすぎたな」
つい足がもたついて、つまづいてしまった。
「きゃっ!」
女性の声がする。
つまづいた拍子に誰かを押し倒す形になってしまったようだ。
手には「ぷよん」と柔らかい感触。
やばい、セクハラで逮捕される!
「す、すみません!、触ってない、なにも触ってないですから!」
慌てて起きあがり、とにかく頭を下げる。
「いいわよ、事故だもの」
「本当にすみません」
どうやら相手の女性も俺が故意に揉んだとは思っていないようでホッとしたので、下げた頭を上げると。
目の前にタコがいた。いやイカか?
どっちでもいい。俺はそれから逃げてきたのだ。
__はい、走馬灯終わり!
「おえぇええろえおろえおろお」
ふらつく程飲んで全力疾走すればこうなるのは当然だ。
「あなた、大丈夫?」
タコはその触手を伸ばして、背中を擦ってくれる。
……案外いい奴なのかもしれない。
しばらくそうしていると、もう吐くものが無くなったのか、楽になってくる。
その間ずっと背中を撫でてくれたタコに、敵意というものは無さそうだ。
落ち着いたところで、改めてタコかイカを見た。
少し赤みがかったゼリー状の透明な身体には、目や耳らしきものはない。
向こうが透けて見えるが、どこかから声は出ている。
「大丈夫? アタイはファkshfァイカkdよ。貴方は?」
どうやらご丁寧に自己紹介をしてくれているようだが。
「すみません、聞き取れませんでした」
「ファkshfァイカkdよ」
ファとイカしか聞き取れねえ!!
「イカちゃんでいいのかな?」
「やだ! いきなり女の子を下の名前で呼ぶなんて!」
そういいながら細い触手で背中を叩かれた。
満更じゃない感じ出してくんなよ。
「俺の名前は百舌鳥抜人だ」
「バット、いい名前じゃない」
「お前もいきなり下の名前で呼んでんじゃねぇか」
取り敢えずこのイカちゃんは俺を食うつもりは無いようだが。
こんな珍奇な生き物には出会ったこと無い。
俺はどうしちまったんだ?