第7話 アルバトロス4号
「次は4号です」
「お!やっと俺の番か」
剛が嬉しそうに言った。
「4号は、狭い場所に入って行く必要もあるでしょうし、迅速な救助が前提で長時間水中にいる可能性も低いですから、小型の潜航艇にしました。また、水中での機動性を考慮して、水平の船舵を付けました。こんな感じです」
「おおおー!なんか魚っぽいー!」
「おや?そう? 特に意識はしてなかったんだけどね。
それで、船体の一番下に付いてる前後に長いバルジにエンジンが格納されていて、前端のインテークから水を取り込んで後方のノズルから噴射して推進します。水流を乱してインテークへの流入量が阻害されないように、水平の船舵には少し下反角がつけてあります。できる限りスピードは出したいのでかなり強力なエンジンを搭載しますが、さすがに水中で160ノットなんて不可能なので、50ノットを目指します」
「それでも十分早いじゃん!」
「そうねー。まあ、視界の利かない深さまで潜ると、ぶつからないようにするためにはこのスピードが限界だね」
「そうだよねー」
「それで、その上のバルジには、燃料や空気ボンベなどが格納されています。船体上部のバルジは、救助機材の格納スペースです」
「なるほどー」
「後部には、2号に搭載されている時のパイロット乗降用ハッチがあり、船底には水中での船外活動用乗降ハッチがあります。船底のハッチは、深海の場合、そのまま開けると水圧で船体内に水が噴き出してきますから、筒状に上方にせり上がって船外活動をする際の与圧室になります」
「ほうほう」
「救助用の装備は、色んな救助パターンが考えられるんで、全部に対応できるように考えたら結構なボリュームになっちゃいました。それで、船体上のバルジがかなり大きめになってます。マジックアームでの細かい作業も必要になりますんで、そこんところもかなり充実させたら、コクピット横にもバルジが必要になりました。作動させるとこんな感じです」
「おおー!」
「アームの先端が取り換え可能で、作業内容に応じて船内のタッチパネルから選択して切り替えます」
「ほうほう」
「その際に、邪魔な障害物を取り除くことも必要になりますから、小型の魚雷を装備します」
「ええー!それ、オッケーなの!?」
奔が驚いて聞いた。
「あくまで、土木工事用の発破だと言い張ります」
「なるほどな。ま、なんとかなるだろうよ」
と、烈が大して気にしていない体で言った。
「いいんだ~」
「4号は、500メートル程度は潜水できるようにする予定ですが、深い水の中だと真っ暗なので、全部、上部、左右の側面、尾部に投光器を装備します。照明弾も装備予定です」
「ほうほう」
「あと、沈没した船からの人員救助っていうことも考えられますから、それ用の装備も搭載しますが、細かい装備については出来上がってから説明しますよ」
「わかったー」
「装備品の一部は、こんな感じです」
そう言って、レインズは、装備品の一覧をスクリーンに投影した。
・アルバトロス4号の装備
①投光器
②切断用熱こて
③マジックアーム(先端が、ドリル、カッター、ショベル、ハンド等に換装可能)
④瓦礫除去用小型魚雷(3発)
⑤救助用空気コンテナ2mX4.5m(5個)
→上部の突起から後方に膨らまされて艇体後部に密着する。
直方体で、邸内に用意されている支柱を使って3×5の簡易空気ベッドが備わっている。
⑥切断レーザー付き艇体下部円形ハッチ
⑦探索用ポッド(ソナーとテレビカメラ内蔵)
⑧重量物浮上用バルーン
「ほほー。なるほどー!」
「これだけでも大した数だけど、海の中じゃ、もっと想定外の状況ってのもありそうだな。このへんは、もう少し時間をかけて慎重に考えないとな」
誠が真剣な顔で言った。
「その通りだね。時間のある限り海難事故の事例を調べて対処する予定だよ。これについても、皆さんも、お手伝いよろしくね」
「わかったー!」
「現場までの移動と発進方法ですが、アルバトロス4号は、アルバトロス2号に搭載して、海面近くまで降下後に後部ランプから滑り台式に発進させます。こんな感じです」
「おお~!」
「回収は、2号の格納庫の天井に設置したクレーンをコンテナ下部のハッチを通して降ろして、それで掴んで行います。先ほど見せた2号の機体下部の絵で、コンテナの中央にあった四角い部分がそのハッチです。正面から見るとこんな感じですね」
「なるほど~」
「クレーンで回収するのは、着水、特に波の高い外洋での着水は危険だからです。うねりの高さが100メートルを超えることもありますから」
「そうなんだー!こわっ!」
「まあ、そうなった場合、クレーンでの回収も難しくなりますから、4号には短時間なら空中に上がれる機能を付けます」
「おおー、さすがー!」
「ところで、パイロットの搭乗シーケンスはどうするの?」
剛が少し不安そうな顔で聞いた。
「現場に到着する直前までは2号のコクピットにいる予定なので、基本的には、2号と同じシーケンスで操縦席のやや後方に搭乗するように考えてるよ。操縦席は完全なグラスコクピットで副操縦士は必要ないので、操縦席はコクピットの中央に置こうと考えてるからね」
「おっけー、わかった」
「グラスコクピットって何?」
そこで、大島都が質問した。
「えーとね、操縦席の計器が色んな表示に切り替わる画面になっているコクピットのことだよ。これの導入によって、一つの画面にいくつもの情報を表示することが可能になり、機内スペースの節約と搭乗員数の削減になったのさ。現在のジェット旅客機や軍用機の多くが採用してるね。今回は、すべての救助用機材をタッチパネル式の液晶画面にしたうえで、ヘッドアップディスプレイも導入して、パイロットの負担を軽減する予定だよ」
「そうなんだー、わかった、ありがとう。ヘッドアップディスプレイはわかるわよ。自動車にも導入されてるからね。パイロットの視線方向にある透明なガラスに情報を投影する技術ね」
「そうそう、それによって、パイロットの視線の移動が減って負荷やミスが軽減されるってシロモノね。さすが都ちゃんだね」
「まあ、知識が中途半端だけどね」
そう言って、都は色っぽく微笑んだ。
その様子を見た鳥石井家の兄弟は、ホステスや芸者をからかうのには慣れていたが、今まで仕事に夢中で彼女がいなかったため素人の女性と付き合いがなく、ちょっとドキドキして顔を赤くした。
レインズは、それを見て(やれやれ、変なところで免疫のない人達だよなあ)と、思ったが、何気に視界に入った烈も同じ様子をしてたので、そっちに対しては、(鳥石井さんは女に手が早いからヤバいかも!)と、ちょっと心配になった。
「以上が4号の説明ですが、何か質問は?特に、パイロットのゴウどん」
「うーん、大体は説明してくれたから特にないかな。細かいことは実機が出来上がってから聞くよ。ある程度の期間、慣熟訓練が必要だろうしね」
「そうだね。細部はまだ出来上がってないし、一応はそれぞれの機体のマニュアルも作る予定だから、その後でもいいか」
「マニュアル大変そうだな。うちの社員使っていいからな」
烈が言った。
「はい、さすがに私が一人でマニュアルまで作ってたら完成まで時間がかかってしまうので、製造に関わった人に一部をお願いするつもりでした。その際はよろしくお願いします」
「ああ、わかった」