第4話 アルバトロス1号
1か月後。
レインズによるマシンの概要案がまとまったので、今日は、その説明と確認のために食堂に鳥石井家の6人と助っ人の4人が集まっていた。
そこにレインズが入って来て、手に持ったリモコンでテーブルの横にある壁に向かってスイッチを押した。
その途端、木目調の壁紙を貼った壁が白い巨大スクリーンに変わった。
「それぞれのマシンの概要設計が終わったのでその紹介と説明です。まず、機能を確定させることを目的にデザインしたので、まだ非常にラフな状態ですから、細部のデザインは変わる可能性があります。そこのところはご了承ください」
「問題ないよー!ありがとー!待ってたよー!」
「それと、設計の一部はここにいる4人の友人にも手伝ってもらいました」
「いいねー。ありがとー!」
鳥石井家の全員は、目をキラキラさせながら大拍手をレインズとその4人の仲間に送った。
「1号から順番に説明していきますが、今回はメインの機体だけです。まずは、そこを確定させないと細かい機材の仕様も確定できないですからね。他の機材は、メインのマシンが固まってから設計に入ります」
「りょうかーい」
「まずはアルバトロス1号、機体コードDR1について説明します。あ、DRは国内救助隊の英語訳である『Domestic Rescue』の頭文字です。もう、了解はしてると思いますが念のため」
スクリーンには何も表示されていない状態でレインズは説明を始めた。
「なるべく早く救助現場に到着するために、とにかく高速が必要ですが、着陸時と救助活動時は低速で飛行することも考えられ、その時の機体の安定も必要ですから、円柱状のロケット型にして主翼は最大75度の後退角になる可変翼にしてみました」
「ほほー」
「エンジンも高速を得るために、高出力な大型のものを機体後部に4基搭載しています。胴体に大きなスペースがあるので、燃料搭載量の問題ありません。はい、こんな感じです」
と、リモコンのボタンを押してスクリーンに1号のイメージを投影した。
「うおおおおー!」と、全員から感激の声が上がった。
「横から見ると、こんな感じで、コクピットの真後ろにリフトエンジン、後部のエンジンの下2つが下向きに偏向するノズルになっていて、下の図の感じで垂直に離着陸します」
「おおおー!」
「ホントは、垂直離着陸専用のエンジンって、飛行中はただのデッドウエイト、つまり、無駄な重量物になるので使いたくなかったんですが、高速化のために機体前部に突起物は付けたくなかったんで、今回は思い切りました。気分的にはスッキリしないですけどね」
「そうかー、しょうがないねー」
「次に飛行中の形態ですが、高速飛行時は主翼を最大にたたんでこんな感じです」
「おおー!」
「低速飛行時に主翼を最大に前に出すと、こんな感じになります」
「おおー!」
「スピードに関しては、4基のメインエンジンだけでもマッハ3以上は出せる予定ですが、超緊急の時にさらに高速が出せるよう、上下のエンジンの間に4基のロケットモーターを装備して加速できるようにしました。使用は20分が限界ですが、その状態で1300キロほどは移動できるはずです」
「おお、すごいー!」
「以前に、マッハ3.5は可能と言いましたが、これを使えばもっと高速が出せますね」
「スバラシイー!」
「次に搭乗の方法ですが、まず、パイロットが指令室にある秘密の扉に入ってから動く歩道で移動して、キャノピー一体のコクピットに収まり、それを水平に駐機している機体のところまで移動させて上からセットしようと考えてます。そこから滑走して発進します」
「えー!?垂直に立った機体に立ったまま移動して乗り込んだ後、機体がプールの下に移動してプールから発進するんじゃないのー?」
と、誠が不満そうに言った。
「それも考えたけど、機体を移動させるより人間が移動した方が出動時間が短縮できるし、施設を作る時間も短縮できるからね。だいたい、プールからの出撃って必要?」
「金持ちのステータスといえばプールじゃないか。俺らが金持ちなのはみんな知ってるんだから、誰か訪ねてきたときにプールもなかったら変に思われるだろ?」
「いや、そこじゃなくて・・・まあ、嫌いじゃないからいいけど。実は、そのことより垂直に離陸することの方が問題で」
「何で?」
「垂直に離陸するってことは揚力もすべてエンジンが発生させているってことなんで、翼で揚力を発生させて離陸する通常形態の飛行機に比べるとものすごく強力なエンジンと大量の燃料が必要になるんだよ。そのために機体が大きく重くなるのは避けたいんだけど」
「なんと!それはいかんね」
烈が言った。
「はい。そこで、滝が流れてる裏山をくりぬいて、滝の中から水平に離陸するってシーケンスを考えました」
「おお!斬新でいいね、それ!それでいこう!」
誠が嬉しそうに言った。
「・・・斬新って、ウルトラセブンやバットマンでもやってる」
新がボソリと言った。
「なんか言ったか?」
「ううん。いいんじゃないかなあ(棒読み)」
「でも、飛行中の機体に滝の水が当たったら危険じゃない?」
と、丞が心配そうに聞いた。
「滝は出動するときは一時的に止めればいいんだよ。それは難しいことじゃないよ」
「あ、そうか。それなら危険はないね~」
「じゃあ、プールからの出撃はなし~?残念だなあ」
と、誠がやはり不満そうに言った。
「どうしてもプールから出撃したいのなら、宇宙ロケットの3号は垂直離陸なので、3号の発進施設にするよ」
「ああ、そうかー。そうすれば円形の展望台施設も作らなくて済むしね。大体、個人所有の島の中にドーナツ型の展望台があるって思いっきり不自然だよねえ」
「よっしゃあ、それでいくぞー!」
と、鳥石井兄弟は全員は気合を入れた。
「ところで、前脚の途中から斜め上に飛び出ている棒はなに?」
「ああ、これね。山の中に長い滑走路は作れないんで、1号はカタパルト発進しようと考えてるんだけど、そのための部品だよ。空母のカタパルトに長い溝があるのはみんな知ってると思うけど、その上にはシャトルと呼ばれるこんな部品が乗っかってるんだよね」
「ほほー」
「それで、この前脚の前についてる棒をこのシャトルに引っ掛けて前に高速で引っ張って発進させるわけ。赤いのがシャトルね」
「なるほどー!」
「あと、ジェットエンジンの噴射ってかなり後方まで届くので、それは、やはり空母と同じようにリフレクターって遮蔽版で防ごうと考えてます。サンダーバード2号が、発射台から発進するときに後部で開くあれも同じですね。アメリカの空母だとこんな感じです」
「なるほどー!」
「あと、腹部に大型のクレーンを収納して重量物を吊り上げられるようにします。こういうのは、基本的には2号の仕事ですが、2機と協力して作業することが必要になる場合も考えられますからね」
「そうだねー」
「他には、投下式のソナーが搭載されていて、海中調査もできるようになっています」
「おおおー!」
「リフトエンジンの後方に、機体が入って行けない狭い場所の探索用にカメラ付きのドローンを搭載します。このドローンは、飲食物など10キロ程度の物資は搭載できるように考えました。これは、2号にも搭載します」
「いいねー!」
「その他、照明弾や救急キットなども収納してますし、他にも、救助活動で必要になりそうなものをいくつか搭載する予定ですが、この辺はまだ細かいところまでは決めていないので、設計が完全に終わってから説明します。1号の基本機能はこんな感じです」
「わかったー。ありがとー」