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国内救助隊  作者: 伊部 九郎
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第1話 救助隊始動

 子供の頃に一番ワクワクして見ていたテレビ番組は「サンダーバード」でした。

 そこから発想を得て、そのパロディ小説を書いてみました。


 ただ、今回はメカが重要になるためイラストも描きながら書こうとしたら、時間がかかって進みが超遅い状態に陥りました。そうこうしているうちに、別の小説を書き始めて、そっちはイラストなしにしたら、これが進む進む(笑)

 もう少し出来上がってから投稿しようと思ったんですが、そうすると気合が入らないので、出来がっている分を順次投稿して、自分を叱咤激励することにしました。


 もう一つの小説もアップしていますので、そちらもご覧いただければ光栄です。

挿絵(By みてみん)

 ここは、東京都あきる野市郊外にある、多角的事業の成功で巨万の富を築いたものの、ブラックな噂が絶えない鳥石井ホールディングスの会長、鳥石井とりいしい れつの屋敷。

 敷地の面積はおよそ3万坪で、建物の面積だけでも2千坪はある大邸宅である。


「おーい、息子たちー、食堂に集合ー」

 初秋の午後1時に、この家の主、鳥石井烈のドスの効いた声が館内放送で響き渡った。外は屋敷に籠っているのはもったいような快晴だった。

「なに、なに、パパー」

 それからすぐ、5人の30代前半と思われる、背広の上下にノーネクタイの大柄で筋肉質のいかつい男たちがぞろぞろと食堂に集まって来た。

「なにー?パパ。仕事の話は昨日で終わったよね」

 食堂に入るなり、5人の中で一番しっかりした顔立ちの長男が、とんでもなく縦長のテーブルの一番奥に座っている烈に聞いた。

「まあ、座れ」

 烈がその長男の方を見るでもなく短く言うと、5人はてんでばらばらにテーブルについた。その自然な身振りから、それが彼らのいつもの行動のようだった。


「昨日から集まってもらったのは、もちろん仕事の話もあるが、実は、お前たちに今後の身の振り方を相談したかったからだ」

「ええー!ハパー、まさか引退!?早いよー!」

 5人の息子たちは、驚いた顔で烈を見て言った。

「まあ、黙って聞け」

 烈は右のこぶしを口の前に持ってきて一つ咳払いをすると、重々しく続けた。

「今まで、銀座でどんちゃん騒ぎしたいとか、いい女とねんごろになりたいとか、高級車に乗りたいとかっていう、どうしても必要な理由で金持ちになりたかったから少しだけ悪いこともしてお金を稼いできたけど、本当は悪いことはしたくなかったんだよな」

「うん、俺たちもそうだよー、パパー」

 5人の息子たちは、大きくうなずきながら言った。

「しかもだな、あまりにも仕事が順調すぎて、気づいたら、毎晩、銀座で豪遊しても死ぬまでに使い切れないぐらいお金も貯まっちゃってたんだよな。お金は墓場までは持って行けないから、そんなに貯めといてもしょうがないんだけどな」

「そういえば、そうかもー」

「で、後身も育ってきて任せても大丈夫そうだから、ここらでひとつ、罪滅ぼしに社会に貢献する組織を立ち上げて、そっちに専念しようと思うんだ」

「慈善事業ってことね。へえ~」

「資金には困らないから、どうせやるなら国もできないようなでっかいことがいいだろ?それで、色々考えたんだが、普通なら対応が難しい大きな事故や災害に見舞われた世界中の人たちを救助するための専門の組織にしたよ。それで、お前たちにも手伝って欲しいんだけど、どうかな?」

「え!?国際救助隊!?」

「パパ~、いいねそれ~」

「ステキ!」

「スバラシイ!」

「やるやる~!」

 5人の息子たちは、目をキラキラと輝かせて嬉しそうな顔で答えた。



 そんなわけで、とある世界的な巨大企業が潤沢な資金を背景に救助活動を行う組織を立ち上げることになった。


 その企業の最高責任者である鳥石井烈は、上流階級に属する家庭に生まれたものの、小学校3年生の時に父親の会社が詐欺にあって倒産したため、それ以降は極貧な生活を送っていた。

 ただ、烈自身は、幼少のころから「神童」と呼ばれるほどの人並外れた身体能力と知力を示しており、奨学生として通った高校卒業まで、学力試験でも、スポーツの分野でも1位以外の順位を取ったことがなかった。

 しかし、極貧生活に転落したあとは何一つ買ってもらえなかったため、それ以前の贅沢な生活が忘れられずに強烈な物欲に支配されており、小学校を卒業する前から事業を起こして大金持ちになることしか眼中になかった。その考えに至った理由の一つには、小学校入学前から、父親に経営者としての心構えや振る舞いをことあるごとに説かれていたことがあった。

 そのため、高校卒業時に、研究の分野でも、スポーツの分野でもその道の超一流大学から授業料免除で多数の誘いがあったにも関わらず、将来有望な新興企業で経営学を学ぶことを選択して就職した。


 就職した会社では、企画面でも管理面でもめきめきと頭角を現し、20歳を過ぎてすぐに課長に昇進すると、元々が上流階級の出であるせいで染みついていた上品な振る舞いと、人情味あふれる性格が相まって多数の顧客を獲得し、26歳で独立してからは、驚くべき早さで会社を成長させていった。

 そして、30代前半には今のホールディングスの基礎形態を確立し、5つもの業界で上位のシェアを獲得するに至っていたが、その後も手を広げることを緩めず、今では、世界中にその企業名を知らない者がいないほどの巨大企業グループに成長を遂げていた。


 ただし、自分の父親の会社が詐欺にあって倒産した教訓からか、会社を成長させる過程で法に触れるギリギリのかなり荒っぽい手法を使ったこともあり、悪い噂は後を絶たなかった。



「みんなが賛成してくれたので話を進める」

 烈は、また一つ咳払いをすると続けた。

「まずは、組織をどのような形態にするかだが、ワシが考えた基本構想をまずしゃべるから、意見があったら遠慮なく言ってくれ」

「わかったよ、パパー」

「まず、救助隊の根拠地を『基地』と称することにする」

「いいねー」

「それで、基地の場所だが、救助活動はあくまでボランティアで恩着せがましくはしたくないので、誰からも所在地がわからない場所にしたいと思う」

「賛成だよ、パパー」

「石川県輪島市の北西280kmほどのところに、うちの企業の石油採掘プラント施設の島があるだろ?あそこなら、絶海の孤島になってて出動するところを見られることもないと思うんだ」

「それ、いいねー、パパー」

「島の名前は『鳥石井アイランド』にして、中央部が山になってる結構な広さの島だから、その山の中や地下を救助隊の施設にしようと思う」

「すばらしいよ!パパー」

「うちのグループには建設会社もあるから、人材には困らないしな」

「そうだねー、パパー」

「それから、事故や災害は、いつ、どこで発生するかわからないから、お前たちには、仕事を辞めてこの活動に専念してもらいたいと思ってるんだが、いいか?」

「もちろんだよー。こんな大事なことをするのに、仕事なんかやってられないよー」

 長男の誠は真顔で言った。

「部下がみんな優秀だから、任せても大丈夫だしー」

 次男の丞が続いた。

「そうだねー」

 他の三人も引き締まった顔で同意した。

「よし。お前たちの覚悟はわかった。頼んだぞ」

「オッケー」



 烈の5人の息子はそれぞれがホールディングス傘下のグループ会社の社長をしていたが、この会合の直後、全員が顧問に退き、この救助組織に全力を傾注することになった。もっとも、それぞれが自分の会社の株式の大半は所持したままだったが。

 この大ニュースにしばらくは、鳥石井ホールディングスの株価下落にとどまらず、経済界の色んな方面に大きな影響が出たが、鳥石井ホールディングスの業績にいささかの陰りもなかったことから比較的短期間に元の状態に戻った。

 ただ、6人が全員そろって突然引退した理由については陰で色々と噂が出て、一番有力だったのは、もっと効率よく大金を稼ぐために本格的に犯罪組織を立ち上げて地下に籠ったというものだった。



 5人の息子は全員母親が違うから顔が全然似ていない。

 一歳ずつ違う全員年子で、誕生日も8月1日から8月5日まで1日ずつ違っていたが、年が近いから仲が良く、お互いを愛称で呼び合っていた。


 本妻の静江の子の誠が長男だが、静江は誠が10歳の時に病気で死亡していた。

 その直後に、若い頃からイケメンであっちも強くて女遊びが盛んだった烈が昔囲っていた愛人たちが、本妻が亡くなったことを聞きつけて後釜に座ろうと相次いで連絡してきたため、それぞれに烈の子供がいることが発覚した。

 烈は静江を愛していたのでもう結婚する気はなかったが、自分の会社が巨大企業に育ちつつあり、ゆくゆくは同族経営のグループ企業にしたいと思っていたので、愛人には高額な手切れ金を渡して示談を成立させ、息子たちは全員引き取って育てることにした。


 引き取られた子供たちは、小学生の頃から徹底的に帝王学と経営学を叩き込まれたのと、烈の血をひいているせいか、全員、頭脳、身体能力ともに非常に優れており、大学卒業後は、それぞれが就職した鳥石井ホールディングスの会社で持てる能力を次々と発揮し、全員が30歳になる前に社長に就任していた。

 ・・・もっとも、「烈の一声」も、ある程度影響していたが。


 ただ、全員が人情味あふれる烈を手本として育ったため、部下の面倒見は非常によく、それぞれの部下たちからは高い信頼を得ていた。



 息子たちの名前は、長男がまこと、次男がじょう、3男がはしる、4男がごう、5男があらたで、愛称は、まこちゃん、ジョーくん、ハッちゃん、ゴウどん、アー坊だった。

 剛の愛称は、彼が鹿児島出身で、昔、鹿児島が部隊のテレビドラマで剛という名前の主人公が、みんなから「剛どん」と呼ばれていたことに由来していた。


 烈は、若いころからコンピュータを会社経営に大々的に取り入れていたので、息子たちもそれぞれが今どきのハイテク企業の経営者となっていて、パソコンをはじめ、最先端のネットワーク、ソフトウェア、電子機器などは見事に使いこなしていた。



「じゃあ、次にどうやって救助活動をするかだが、まずは、起こる可能性のある、事故、災害をすべて想定したうえで、どの場合にも対応できる機材を細かく用意する必要があると考えている」

「そうだね、パパー」

「また、その機材に合わせて、基地内のレイアウトも考える必要がある」

「そうだね、パパー」

「で、その施設と、救助用の機械をどんな風にするかだが・・・それが相談できるような人材は一人しかいないだろ?」

 ニヤリとしながら烈は言った。

「なるほどー」

 5人の息子も、同様にニヤリとした。

「じゃあ、俺がスカウトに行ってくるよ」

 3男の奔が右手を軽く上げながら言った。

「そうだな、お前が一番仲が良かったからな。頼むよ」

「まかせとき~」

「じゃあ、そこから先の話は、彼が来てからにしよう」

「わかったー」

「おっと、その前にお前らの見た目だ。救助するときに信頼してもらえるように全員清潔で真面目そうな雰囲気にしないとな。お前ら全員髪が長いけど、長髪だとみんなに与える印象が良くないから短くしろよ」

「わかったよ、パパー」

「じゃあ、迎えに行ってくるよ」

 奔は、そう言いながら立ち上がると食堂の出口に向かった。

「頼んだよ~」

 他の全員が、歩き去る奔の後ろから声を送った。



 烈がこの屋敷を建てた時から住み込みで働いている八卦院はっけいんという使用人の男に、いつも5人兄弟と一緒に遊んでいた一人息子がいる。3男の奔とは色々と趣味が合って特に仲が良かったが、今は、大学で航空宇宙学の研究をしている。

 本名は八卦院はっけいん晴男はるおだが、名前と真逆に極端な雨男のせいで、鳥石井家の面々からは「レインズ」と呼ばれていた。近視で遠視で斜視で乱視なための分厚いメガネと、無精髭にボサボサの髪のためオッサンに見えるが、実は奔と同い年だった。


「また計測に失敗してる!こんな中途半端な実験機じゃまともなデータもとれやしない!ほんとに航空先進国になりたのか、この国は!」

 今日もレインズは、自分の研究室で当り散らしていた。理論は整っているのに、低予算のため希望通りの実験が行えずイライラの極致に達していた。


「よ、レインズ」

 そのレインズの様子を気にしていないかのような陽気な声が後ろからしたので振り返ると、研究室の入り口のところに鳥石井家の3男、奔が立っていた。

「おおー、ハッちゃーん!久しぶりじゃないのー。元気してた~?」

「体は頑丈だからな。いたって元気だ」

「仕事はうまくいってるみたいで良かったね~・・・って、あんまし良い評判聞かないけど」

「げふんげふん。・・・いや~、確かに少しは悪いこともしたけど、好きでやってたわけじゃないんだよ。それでちょっと家族全員改心してね、社会貢献をする組織を作ることにしたんだ」

「社会貢献?」

「うん、大きな事故や災害なんかの時に救助活動をする組織を立ち上げるんだ」

「お?なんか面白そうな話だね」

「日本海の真ん中に、うちのグループ会社が石油採掘施設を建てた島があるんだけど、その島を基地として救助用の各種機材を用意し、そこから全世界に救助に行くことを考えてるんだよ」

「おおー!そりゃスゴイ!いいよ、実にいいよ!」

「で、レインズにその組織で使うメカの設計を含めて、色々と助けてもらいたいと思って今日はスカウトに来たのさ。開発資金はいくらでも用意するよ」

「マジで~!?」

「もちろん、それなりの給料は出すから、なんとかやってもらえないかな」

「給料なんかどうでもいいよー。予算あるならなんだってできるじゃーん。やるやるー」

 レインズは、二つ返事で引き受けると、すぐに、机のわきに掛けてあったバックパックに机の上に置いてあったものや引き出しの中身を詰め始めた。歯ブラシだの、カップだの、文房具だので、どうやら私物のようだ。

「じゃ、行こう!」と、レインズは奔の腕を引っ張って出て行こうとした。

「え?ここの研究の引継ぎはいいの?」

「どうせ予算なくてろくな研究できないんだから、誰がやったって大して変わらないよ」

 そう言って、奔の腕を引っ張って先に立って出口に向かって行った。


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