初雪
暗い暗い雲が、呼吸困難になりそうなほど垂れ込んでいたあの日。目の前で人が死ぬのを始めて見た。
若くて利発そうな美しい女性だった。名前も知らない彼女は待合室から、まるで手繰りよせられるかのようにしてふらふらと危なっかしく歩き、駅のホームの淵へ立った。
電車がごとんごとんと重い音を立てて近づいてくる。彼女は二言か三言ほど口元でごにょごにょと言う。電車がきいいいいんと音を立てて止まろうした。しかし、間に合うわけもなく彼女は一直線に飛び込んだ。
気付いてみると彼女は既に轢かれて死んでいた。向かいのホームに、その一部始終をずっと注意深く観察している奇怪な男がいたので、こいつが魔術かなにかで彼女を操って飛び込みをさせたのだなと思った。
その時、雪が降りだした。初雪だ。雪は空から丁寧にいちまいいちまい降っては、彼女の真っ赤なまだ新しい血へと溶けていった。ふと、向かいのホームを見ると男は消えていた。
朝から雪が降りそうな曇天である。
あの日から、彼女の美しい死に姿が目について離れない。今日も今日とて同じホームに立つ。電車の時間はあの日と変わらず七時五十二分。向かいのホームを見るとあの怪しい男がわたしに向かって、おいでおいでと手を振っている。ああ、わたしも今から飛び込んで死ぬのだなと思った。
まあ、雪に祝福されながら、死ぬのも悪くない。