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Shape of You.

ぷっはぁぁぁぁぁ、間に、合った。


実は今日の19時辺りまで最後の部分の執筆に悩んでおりました。

しかし何とか完結させることが出来ました。


今までお付き合いくださり、本当にありがとう御座います。




 思えば、【転生】とは一体何を差し、どんな概念、事象のことで。

 僕こと吉岡イクトが辿って来た転生は、どんな願いだっただろうか。


 転生を司る神がいるのだとすれば、今は先ず感謝しよう。


「それで思い出しました。イクトにはこれを受け取って頂かないといけませんね」


 と言ったラプラスはいつの間にか肉薄してて。


「師匠ッ!!」


 リュトや仲間の危機意識に訴えかけさせたようだ。


「リュト、心配ないよ」

「……っ師匠は諦めてしまったのですか?」

「僕は諦めることを許されない」


 リュトを手のひらで制止すると、ラプラスが覗き込むようにしてリュトを見やった。


「何か勘違いしていませんか? 私は単にイクトに指輪を与えただけです。危害を加えるつもりはありません」


 と彼女はまた飄然とした声音で言うんだ。


「どうして僕だけ特別扱いなんだ。他のみんなと同様に始末したらいいだろ」

「別に理由らしい理由などありませんが……まだ貴方とは」


 ラプラスが言わんとしたいことが何となく判った。

 彼女は「まだ貴方とは寝たことないですから」と言いたかったのだろう。

 このビッチめ。


「師匠ッ!!」


 ラプラスが僕の首に手を回した時、リュトが一際大きく叫んだ。


「たぶん、大丈夫だよリュト。ラプラスは色欲に狂ってるだけだ」

「違う、賢者だ!!」


 え?

 リュトが彼の存在を喚起し、気付いた時には尻もちをついていた。

 

 賢者は僕とラプラスを引き裂くように現れたようだ。


「一体何をしてるんだ、イクト」

「……貴方こそ、ここで一体な」

「アルビーダの終わりを告げに来た。もう無駄な争いは止めるんだ」


 彼の姿は、全くもって認識出来なかった。

 黒でもない、白でもない、どの色すらも当てはまらない無色。

 なのに、周囲の人間には賢者の居場所がわかる。


 かつては世界中の人間の信頼を得ていた彼からは痛切さを感じ。

 今はもう……恐怖しか覚えない。


「ありがとう、アルビーダのために死力を尽くした君達に感謝を述べる」

「ならアルビーダを終わらせようとしないで下さいよ!」

「君は、どうやら患っていた世界変貌病をマリーとの絆を代償に治したらしいが」


 何だって?

 僕はクロエさんの魔術であの難病から回復したけど。

 それが、マリーとの絆を代償にしていたなんて聞いてないぞ。


「私は虚無に、一番大切な人を奪われた……だから虚無に復讐したいのだ」

「酷い独善的な言い分ですね。皆を巻き込む覚悟、道理に欠けてますよ、ブライアン様」


 ラプラスが賢者に向けて敵意を表した。

 敵とは言え、彼女の言葉には同意する。


 だからといって、僕達が協調し合うことはもうない。


 何故ならば――


「君は地球に帰りなさい、イクト」

「僕はもうアルビーダの人間だ!」

「……帰れと言っているんだ」

「ッ、何をっ」


 賢者がそう言うと、僕の身体は中空へと浮き上がった。

 そして四肢の先から身体が消えてゆく。


「師匠!! 止めてくださいブライアン様!」


 と言う訳だ。

 僕は志半ばにして、あの凄惨な戦争から追い出されたんだ。


 賢者ブライアンに導かれ、異世界アルビーダに転生したのはいいが結局。

 結局、最後は賢者から見限られたようだ。


 ◇


 数日後、僕は地球の病院で目を覚ました。

 視界に入って来た光景を覗って、現実離れした所だなと思った。


 天井も壁も床も、一面白くて、曇った視力だと部屋の輪郭が見て取れなくて。

 身体に付けられた精密機械はアルビーダじゃ先ずお目に掛からない。


「気付いた?」

「この声はモモ?」

「そう、私。今オリビア達を呼ぶから、そのままじっとしてな」


 僕が横たわっていた白いベッドの脇には、生ける本となった彼女が居た。

 彼女は念話かなにかで誰かと喋っている。


 そのまま待っていると次第に。


「……入るぞ」

 凛々しい声が聴こえた。

 その声の主は病室のスライド式のドアを開けて、ゆっくりと僕に近づく。


 彼女の上背は僕と同じくらいで、年恰好もたぶん同じくらい。


 たずさえた紺碧色の双眸は呆けたように僕を見詰めている。

 白く美しい毛髪の先は病室の照明によって輝いて。

 宝石のような身体の部位は、褐色の肌によって引き立っていた。


「こうしてまた、生きて会えるとは夢にも思ってなかったぞ」

「君のことはモモから聞かされてるけど、今はこういう状況なんだ」

「と言うと?」


 彼女は僕の言葉を聞きながらベッド脇の丸椅子に腰かける。


「初めまして、オリビア」

「……聞いてくれイクト、私はこの星で、今は教師を目指してるのだ。周囲の人間も特に反対はしないし、協力的に接してくれている」


 彼女は僕の戯言に付き合うつもりはないみたいだ。


「ここはどこなんだ?」

「地球だよ、アルビーダはもうない」

「……じゃあ」


 ――マリーは?


「……」

「……どうした、答えてくれよ。例え亡くなっていたとしても僕は受け止めるさ」


 しばらくすると、僕の静かな呼吸音が耳朶に触れた。


 身体に意識を向けると、酷く痺れている感覚が返って来る。


「イクトは、まだマリーを求めているのか?」


 と言ったオリビアの声は震えているようだった。

 彼女は動かなくなった僕の手を掴んでいる。


「僕は永遠に、マリーを愛する」


 だから、教えてくれよ。

 彼女は今どこに?


「マリーは、虚無に捕食されつつあるアルビーダに於いて観測されているらしい」

「……どういうことだ?」


 再度問うと、オリビアはアルビーダの現状を知らせてくれた。

 アルビーダはもうお終いなんだよと、見切ったような声音で言い。


 マリーが、虚無に還ろうとしているアルビーダで独りきりなのを教えてくれた。


「行くのか、その瀕死の体じゃ何もできる訳がないだろ」

「止めないでくれ」


 彼女が独りきりなのを知り、身体に鞭を打って立ち上がる。


 マリーに会える機会はこれが最期のようだから。

 この時を逃したら僕は一生を後悔する。

 僕の人生は、僕の転生は一体何のために有ったのかと。


 痺れる手足を魔術で再生させつつ、病室から抜け出した。


「落ちつけイクト、どうやってマリーに会いに行くつもりだ」

「アルビーダに渡るにはグッタモの所に行くしかない」


 途方に暮れる前に、モモが助言をくれて、僕の心に英気を灯した。


「ありがとうモモ、出来ればグッタモの所へ案内してくれないか」

「お安い御用」

「お安い御用じゃない! いいかイクト、これだけは知っておけ」


「モモ、グッタモの所へ転送してくれ」

「分かった。オリビア、泣き言なら後で付き合ってあげるから」


「待っ……待てと言う暇さえ、くれないのか」


 ――愛しているという言葉さえ、伝えさせて貰えないのか。


「っ」


 心が逸る、全身が希望で満ちている。

 僕はバルムンクの皆を失ったというのに、ずいぶんと身勝手な心情を抱えている。


 それほどに、彼女に会う無上の悦びは、抑えようのないものだった。

 彼女に会ったら何を伝えよう。

 彼女に会ったら、何をしよう。


 グッタモに無理言って、マリーの許へ駆けつけると。


 虚無に包まれた世界で彼女の紅蓮の髪は踊っていた。


 まるで宇宙を漂っているようだ。

 彼女に近づきたいのに、彼女に触れたいのに、上手く出来ない。

 少しでも気を抜くと、意識が失せそうだ。


「っ、マリー!」

「……嘘だろお前、もしかしてイクトなのか?」


 叫ぶように彼女の名を口にすると、紅蓮の髪が振り返り、アケビ色の瞳が見えた気がした。

 暗く眩い矛盾した世界で彼女はひときわ輝いている。


 そのまま虚無の中をもがいて、マリーに近づき――彼女の肌に触れる。


「嘘だろ、本当にイクトなのか……――」


 彼女と目が合うと、どちらからとも言えないキスを交わした。

 彼女は頬に涙を流し、追随するように僕も涙を流して。


 虚無の中で見失いそうな彼女の輪郭を、感じ取っていた。


「馬鹿だなイクト」

「君ほどじゃない」

「反論するなよ、こんな状況で」


 それは僕達が虚無に覆い尽くされる瞬間だった。

 虚無はアスタリスクの力によって抵抗するマリーを押さえつけるよう蠢動している。


 マリーは虚無に対抗する力を秘所で貯めていたんだけど、時間が足りなかったんだ。


 だからいずれ、僕と彼女は虚無に呑み込まれる。

 オリビアやグッタモはそれを止めようとしていた。

 僕はマリーを独りにしたくないから、二人の制止には目もやらなかった。


「イクト……私達の最期は、どんな場所がいい?」

「君の隣ならどこだっていい」

「私はこんな味気ない場所で最期を迎えたくありません」


 彼女は「言えよ、お前の望み通りの光景を」と伝える。

 僕はだったらと、記憶欠乏症に罹ってから初めて会ったと思う場所を挙げた。


「ふむふむ、それはひょっとしてここかな?」

 マリーが軽快に指を鳴らすと、景色はカイザー島の自然公園に切り替わった。


 そこでようやく不自由だった身体に、挙措の猶予が生まれた。


「凄い、君は本当に凄いなマリー」

「おいおい、私を誰だと思ってるんだね?」

「それはもちろん、僕の」


 最愛の人。


 それが伝うと、彼女はまた静かに涙を流すんだ。


「お前はいつもそうだ、馬鹿正直で、恥じらいに欠ける」


 それで、彼女に会ったら何をしようと思ったんだっけ?

 彼女に会ったら何を伝えようと思っていたのだ?


「どうした、急に難しい顔をして」

「君に会ったら、何かしようと思ってたんだけど、ど忘れしちゃったみたいだ」

「天然ですね~、今さらだけどな」


 次第に、僕達の周囲にあった自然公園の形が無くなっていくのを気取った。

 どうやら僕達の最期の時が訪れようとしている。

 にわかにだけど、怖くなった。


 僕はマリーと抱き合いながら、恐怖を紛らわせるようキスをして。

 このまま世界から居なくなろうと思うのだ。


 彼女とのキスで幸せを感じられる幸せを、痛むほどに大事にした。

 彼女の隣で一生を終えられることの安らぎを、何よりも大切に思った。


 すると背中から怖気のような頼りない感覚に襲われ始める。

 虚無が僕達の身体を侵食し始めたようだ。


 背中、足、腰。

 虚無は僕とマリーのキスを避けるように呑み込めば、走馬燈のようなものが見え始めた。


 故郷で麦畑でマリーと出逢った時のことや。

 王宮のパーティーに招待されて、踊り暮れたこと。

 地球で彼女と一緒にアニメを夜通し見ていた情景が見えるんだ。


 虚無は要らなくなった僕の記憶を返してくれたようだ。

 その時にはもう、身体の感覚はほとんど無くて。


 キスを以て、彼女の形を感じ取れていた。


 そして、完全にマリーの形を感じられなくなった時、怖くなって目を見開くと。


「……なんでなんだ」


 僕は何処かにある夜の公園で独り佇んでいた。

 マリーは何処へと思い、周囲を見渡してもいなくて。


 どうして僕は独りでここにいるのか。

 その苦悩から目に大粒の涙が込み上げて来る。


「何で……、何で……ッ――――――――ッッ!!」


 その晩、僕は名も知れぬ夜の公園で一世一代の慟哭を上げた。


 彼女の隣で死にきれなかったことが、僕の心をどれほど切り裂いたことか。


 心根は強い方だと言う自覚はあるけど、あの時のことを想うと悲痛さしか感じない。


 マリーへの愛は他の誰にも負けない自信があったけど。


 一人の人間が偲ばせる愛など、世界にとっては――どうでもいいことだった。


 ◇


 ◇


 ◇


 ――あれから半世紀後。

 アルビーダの存在は伝承によって語り継がれるほど幻の存在となり。

 僕こと吉岡イクト、並びにイクト・マクスウェル・Jrにも、順当にその時が訪れた。


 死期って奴だ。


「祖父さん、ここでいいのか?」

「ありがとう、君はもう帰っていいから」


 僕は付き添いの下、マリーが最期見せてくれた情景によく似た公園にやって来た。両足が動かなくなって以来、どこかに行くのには誰かの介助が必要なぐらい衰弱している。


「……最後に確認したいんだけどさ」

「何?」

「貴方の遺産の30%を、本当に私にゆだねてくれるんだな?」


 嫌だなぁ、自分の最期に当たって遺産の話を持ち出されるのは。

 まぁ、この子は特に将来が心配されている娘だから、気持ちは分かるけどさ。

 それにこの子の不安な心を利用したのは紛れもない僕だ。


 この子はマリーとよく似ている。


「これをオリビアに見せるといい。後は君の説得力次第だと思う」

「あの人を説得することがどれ程根気いるか知ってるだろ」


 本当に祖父さんは賢者と謳われた人なのか疑わしいね。

 なんて具合に、彼女はマリーとそっくりな口調、声音で肩を竦めるんだ。


「……それじゃ、【主なる指輪】は返して貰うぞ」

「嗚呼、持って行くといい。これは元々『貴方』の物なのだろ?」


 と言うと、賢者ブライアンが愛した転生の女神――ナイアは銀色の指輪を薬指に嵌める。


「そうだとも、次はどんな人生に廻りあいたい?」


「……君はもう帰っていい、後は僕を、彼女と二人きりにしてくれ」

「いいですとも。でも、遺産の件は守ってもらうからな」


 うん、しつけーよ、うん。


 さてと、僕はもう間もなく死に至り――転生するらしい。

 次はどんな転生を迎えようか、色々と考えた。


 オリビアと劇的な再会を果たし、また伴侶となるのも一興だし。


 失われた親友サイラスと、今度は仇敵の関係になるのも捨てがたいし。


 心が読めないラプラスとは、あえて友情を育ませてみたいし。


 ジョージには、もう独りぼっちじゃないんだと伝えたいし。


 リュトやモモ、ジーナ師匠やグッタモといった迷惑掛けた人達には恩返ししたい。


 僕のために命を落としたミーシャやカイン達を、今度こそは守り抜きたい。


 儚くも実らなかったアビスとグレアの恋を見届けることだってしたい。


 後は、そう。


「……マリー」


 やはり君の存在だけは切り離せない。


 不意に、身体が羽毛のように軽くなる。


 視界の先では彼女の紅蓮の髪が舞っていた。


 誰もいない、侘しい夜の公園の中で、彼女は遊んでいる。


 これは僕が最期に望んだ彼女の幻想だ。


 幻想だと言うのに、彼女の表情が朧気にしか見えない。


 いや、幻想だからこそ、彼女の存在が希薄なのだろう。


 しかし僕達はある誓いを交わすことによって、互いの存在を確かにするんだ。


 愛する彼女の輪郭を感じ、涙を流してその行為に甘んじた。


 昔取った杵柄のようにそれを交わし、彼女と一緒に過ごした日々がまた過る。


 今度転生したら、また彼女と回り逢って、今みたく興じたい。


 場所はどこだって構わない。


 家の中、車の中、映画館の中、戦場の中だろうと。


 飽きることなくし続けて、(きみ)の形を知るんだ。


 次第に彼女は顔を離し、僕の双眸を覗って柔らかく笑んで。


 彼女の笑顔につられて、僕も強かに笑った。


 そして僕達はまたそれを交わす。


 ――キスを


 これこそが、僕が愛した、君との愛の形だった。




 FIN.

改めまして、今まで拙作にお付き合いくださりありがとう御座います。


うなぎ様より頂いたご感想はその後上手く反映出来ていたでしょうか、心配です(汗)。


ともあれ、『賢者の孫娘とイチャイチャしてたら異世界御用達の魔石工房の主になっていました、原因は不明です』は、これを以て終わりとなります。


思えば何故私がなろう小説を始めたのかと言えば、知人とのある口約束から奮起したからです。

その口約束とは、お互いになろう小説を始めて、競争するように書籍化を狙おう。

というものでした。


ですがその人は多忙のようで、なっかなかなろうに着手出来ずに。

私だけ先に連載してしまった訳です。


当初こそ、肩透かし感がパナかったですが、その人のなろう連載はもうすぐだという報せを受けたので結果的には――

何やねんッ、本末転倒野郎が!! な感じですね、これぞ正しく。


でも、一度きりの人生においてなろうに連載出来た経験を持てたので、結果オーライです。


ですからその本末転倒先生と。

今まで拙作をお読み下さり、私に活力を与えてくれた読者の皆様には大変感謝しております。


誰かは存じあげませんが、一番最初にブクマしてくれた読者の方には特にお礼申し上げます。

それほど嬉しかった思い出があります。


では、末尾になりますが、またどこかでお会いしましょう。

本当にありがとう御座いました。

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