表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/97

stay with you


 彼女の瞳は、僕と同じで黒かった。

 彼女の髪は、僕と同じで黒かった。

 彼女の血は、僕と同じで赤かった。


 僕と彼女は誰に指摘されるわけでもなく、当然の如く認識していたのかもしれない。


 ――僕達は似ている。


 生まれも育ちも違う彼女にシンパシーを送ると同時に。

 僕はもたげていた敵意から彼女を突き放した。


「どの口がそんな冗談言うんだッ!」

「心外ですね、私はイクトのことが――」


 日記によると、ラプラスはこれまで幾人もの男と契っている。

 僕の目の前で、マリーの目の前で、仲間の目の前で。


 そのような軽薄な人が語る好意など、到底信じられるものじゃない。


「師匠! 離れて!」


 ラプラスへの不信感を思弁していると、局面が動き始めた。


 僕とラプラス、双方の大将が対峙し合ってるのに後援は堪えられなかったようだ。


 ラプラスの後ろから物凄い数の悪魔の軍勢が躍り出て。

 僕の後方からバルムンクの皆が姿を出してしまった。


「……君は、一蹴出来るような並大抵の悪魔じゃないのは判った」

「私は路傍の石とは違うのです、ですから私は自分の器量が不釣り合いだと思っていますよ」


 ――イクトだってそう思ってるのでしょ?


 彼女のこの情けなくも、不遜な発言が戦争の口火を切った。


 先制を取ったのはラプラス。

 ラプラスは視界から消えると、後方に居た仲間を打破し始める。


 轟雷に匹敵する音が大気に震撼するや否や、後方の廃墟が倒壊して。

 振りむくと、仲間の隊列が瓦解している。


 これが、悪魔と畏れられたノヴァの血族の怒りだと言うのか。


「師匠! 呆けっとしてないで早く聖石をッ!」

「……魔石合成」


 リュトに促された僕は、生成された魔石の――合成をし始めた。


 これはクロエさんから教えられた僕の第二のチート能力。

 僕はあらゆる物体を合成出来る。

 その(ちから)は魔石すらも例外じゃなかった。


 カガトさんとの決闘の最終局面時にも、僕は生成した魔石を合成し。

 極光色に輝く光子を生み出し、光は辺り一面を貫くように瞬いた。


 光に貫かれた僕のお腹――丹田から生気が満ちて行くような感覚がして。

 逆に、全身にその光を浴びたカガトさんは灰燼と化してしまった。


 悪魔の力は強大だ。

 彼らの力は甚大な被害性を秘めた一種の天災のようで。

 長年虐げられていた彼らは凶悪な力を持て余すように解放する。


「クロエさん、なりふり構わずここら一帯に結界を、仲間を守ってくれッ!」

「面倒だね」


「リュト! 僕が生成した聖石をみんなに渡すんだ! ラプラスには通用しないから気を付けろ!」

「了解です師匠! 師匠は聖石を作り続けてください!」


 生成した魔石を合成し、極光を放つ代物を僕らは『聖石』と呼んでいる。

 聖石は悪魔を滅却する、謂わば悪魔の脅威だった。


 しかし聖石には持続性がないという欠点がある。

 聖石は合成されてから僅か五分余りで効力を失い、灰と化す。


 だから、ラプラスの手合いは同等の身体能力を誇示する人物がいい。


「失礼、貴方の名は?」

「ノートンと言う」

「ああ、魔殺しの双拳の」


 どうやら彼自身も気付いたようだ。

 ここでラプラスに対抗出来るのは自分ぐらいしかいないだろうと。


「バルムンク各位に告ぐ!! ノートンの周りに他の悪魔を寄せ付けるな!」


「……とイクトは言っていますが、余程信頼されてるのですね」

「思えば彼には随分と世話になった。この大恩を返すとしたら」


 ――今しかないだろう。


 するとノートンとラプラスの死闘が始まった。

 二人の闘いに想定外の事態が起こらないよう悪魔の軍勢を全力で退ける。


「ビリーノエル! 君が頼りだ!」

「……聖石を」


 白銀の甲冑に身を包んだ彼は冷徹な声音を発して、聖なる石を求めている。

 バルムンクの絶対的なエースに求められるがまま、僕は聖石を生成した。


「これで足りるか」

「……――イクト、恐らくこれが私達の最期の闘いになると思う」


 唐突に、何だよ。

 ビリーノエルはこれまで正体を隠していた謎の存在だった。

 仲間内でも怖がる人はいるけど、僕は違って。


 僕達はかつて親しい仲だったんじゃないか?

 そう疑問に感じる。


「イクトは私を酷い孤独から、助けてくれた」


 そして彼は今さらになって、拙い礼をつらねるのだ。


 イクトは私を酷い孤独から助けてくれたと。

 イクトは私に生きる糧と、安らぎを与えてくれたと。


 その上で彼は正体を隠した侭、最期の言葉を告げる。


「どうかマリーを、助けてやってくれ」

「……もちろんだよ」

「ピゴー」


 彼は一際異質な声を上げると、閃光のように悪魔の間隙を走り。

 体内に取り込んだ聖石を落として、戦場を極光色に染める。


「……総員に告ぐ」


 時に僕は。

 僕は、よく現実逃避をするどうしようもない役立たずな駄目人間だった。

 今頭の中には状況に似つかわしくないポップソングが流れている。


 その上で。


「僕は、君達とずっと一緒にいたい」


 その上で、流れる歌の詩になぞらえて、バルムンクのみんなに伝言を残す。


「出来れば、ノヴァの血族達ともそうでありたかった。しかし、そんなの最早見え透いた幻想だ。この戦争は僕らの闘いだ。この戦争に勝って、みんな愛する人の許へ帰るんだろ?」


 無論。


「僕もマリーの、愛する賢者の孫娘の許へ何としてでも帰るつもりだ」


 それは勝敗の如何、生死の如何にしろ。


「今も死に行く君達に、心臓が張り裂けそうだ。けど安心して欲しい」


 きっと、君達の許にいずれ僕も行くから。


「君達の死は無駄にしない。僕は、バルムンクはやり切ってみせるよ」


 僕達はこの戦争を乗り切ってみせる、けどさ。


「けど、どうしても、どうしても」


 どうしても、君達と別れなきゃいけないのだろうか。


 皆を鼓舞するために発した言葉は、いつしか未練がましい物になっていた。


 詳細な戦況を知ることは出来ない。

 戦場の中央に立っている僕がそう見做すのだから、他もきっとそうなのだろう。

 自分達は今優勢なのか劣勢なのか、迷っている間にも死線に立たされる。


 一瞬も気を許すことが出来ない局面で、僕は半ば達成感に浸っていた。

 辛かった戦争も、これで終わる。


 僕達の勝利は目前だ――


『コマンダー、どうやらノートンが殺られた。次の指示を頼む』

「……そこまで、だったのか」


 ラプラス、君の実力は人間には到底太刀打ちできない領域なのか。


「サイラスさえ居ればね……」


 クロエさんは彼を偲ぶように嘆息を吐く。


 ノートンを打ち破ったラプラスは特だった疲労感を見せず、腐心なまでにバルムンクを屠っていった。


「クロエさん、ラプラスの許へ僕を移動させてくれ」

「どうする気なの?」

「どうするつもりないよ、彼女の本心を聞くだけだ」

「呆れた」


 クロエさんは唖然とするでもなく、嫌味を口にするんだけど。

 彼女は天邪鬼だから、口振りとは逆に指示通り僕をラプラスの所へ移動させる。


「その手を離せラプラス!」

「……どうしてですか」


 ラプラスはバルムンクの一兵の喉を鷲掴みにして、ゆっくりと絞め殺していた。

 最初は気付かなかったけど、彼女の右手人差し指には指輪が嵌められていた。


 僕の視線が気に掛かったのか、ラプラスは手に力を籠めて――嫌な音を立てる。

 僕はすかさず回復魔術を放ってバルムンクの兵を治癒した。


「少しは出来るようになったのですねイクト」

「当然だろ、僕はバルムンクのリーダーだから」


 この返答を受けて、ラプラスはようやく疲労の色を見せた。

 一息吐き、乱れた髪を手櫛で直している。


 しかしラプラスの手は殺めた兵達の血で汚れているから。

 血に塗れた手で髪に触れ、更に不快感が高まったのだろう。


「シャワーを浴びたいですね、そう思いませんか」

「好きにしなよ、ただしその時は今までの罪を清算して貰う」


「冷たいですね、以前は激しく愛し合った仲だと言うのに」

「お前の虚言に今さら付き合うつもりはないんだ」


 彼女からは主だった気迫が感じられない。

 普段からそうなんだろうな、という彼女の日常が垣間見えるだけで。

 そのお道化ようから、彼女は何のために、とつい思慮するほどだ。


 だからこそ、僕は彼女に問いたい。

 彼女の戦争目的って奴を。


「ラプラスは何故、大罪を犯してまでこの闘争に身を投じる」

「……そんなの、決まっているじゃないですか」


 このあと、彼女の回答を耳にした僕は片頬笑んでしまったんだけど。

 同時に、なら何でこんな真似したんだろうという疑問に苛まれた。


「いつか遠い未来においても、イクト達と一緒に居たいからですよ」


色々とやるせないことばかりですが、そんな時、私が周囲のみんなに出来るのは空笑いだけです。

あっははははー……ですよね、あっははははー、からの、あっははははー……。


読者の皆様こんばんは、干物系作家です。


最近になって知人から指摘されたのですが、どうやら私は恋をしているらしいです。

恋? これが……? 恋? なのか? あっははははー。


素晴らしいですね、恋って。

私の中の枯山水に、鹿威しの澄んだ音が齎されました……恋?


単なる劣情じゃ!! と、私の中のエロゲイナーはズバッと答えてくれました。

おあとが宜しいようで、では。


次回の更新は明後日(7月28日)、もしくは明々後日(7月29日)となります。

現段階でも執筆中ですが、恐らく、次節で終わりとなりそうです。

今までお付き合いくださった読者様にお礼申し上げます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ