今度は、愛が足りないなんてことはないように。
「マリーに会うにはどうすればいい」
「この世の悪魔を一掃するしかないね」
「……カガトさんは悪魔の中でも、どのくらい強かったんだ」
「さあ、それは環境や状況、相性にも因りそうだから」
クロエさんは元々博識な人間だった。
彼女は千里眼を持っていて、その気になればこの世のあらゆる事象を見抜くことが出来る。だがこれは、前言したように彼女にその気があれば可能だという仮説であって、低調子な彼女はどうも超然としているから、中々取り合ってくれない。
まだ、サイラスが生きていれば何とかなったかも知れない。
けどサイラスは魂ごと虚無に呑み込まれたらしいから、手立てがなかった。
その後、僕は城宿の中庭を使い、生き残った人たちと墓を作るのに精を出した。
中庭に咲いていたククリという花は、ルヴォギンス家の家紋だと説明される。
「イクトさん、貴方はこれからどうするつもりなんですか」
墓を立てていると、甘いマスクをした青年――ミゲルがこう訊いて来た。
彼は元々この城宿に従事していた青年だ。
「僕は妻であるマリー・ルヴォギンスを助けに行きます」
「……――それは言いかえれば悪魔の勢力を潰しに行く。で合っていますか?」
「合ってる」
クロエさんは間髪入れず僕のこの先の方針を示してくれた。
どうやら僕はラプラス率いる悪魔達と戦争を起こすしかないようだ。
「でしたら、俺も一緒に行きます」
「……駄目だよ」
「行かせてください!」
ミゲルは酷い復讐心を抱え、僕を利用しようとしている風に見えた。
無論、彼の正義感だとて判るけど。
「俺は、悪魔が赦せないんです! それだけは判って欲しい」
「彼らだって赦しを請うつもりはないよ。元々彼らは優しいんだ」
と言えば、ミゲルは昂った感情をぶつけるよう僕を平手打ちした。
「もううんざりなんだよ! 欺瞞で人を殺す連中と同じ空気を吸ってるのに耐えられないんだ!」
「……なら君は何のために殺す」
「俺が、俺であるために」
その台詞を聞いた僕はミゲルに向けていた疑念が晴れ。
彼は僕と同じ決意を持っていると、信じるに至った。
「君はカガトさんに捕えられてたんだろ? 悪魔は全員、彼と同等の強さを保持してる。それでも尚僕について来て、僕の足を引っ張らない自信はある?」
これは彼の決意を固めるために言った台詞だった。
僕はもう彼を信用し、彼と同行するつもりでいる。
「強くなってみせます!」
「……とりあえず、君には絶界陣の魔石をあげるよ」
この先、僕は対悪魔勢力のリーダーで在ろう。
そうすることでしかマリーに会える道はなさそうだ。
僕の居場所はマリーの隣であり。
僕が死ぬ場所は、彼女の隣なのだから。
◇
――あれから数ヶ月が過ぎ去った。
僕が付けていた日記はもうページが足りなくなっていて、今は腹心であるミゲルがくれた生ける書物と対話するように日々を記録している。悪魔と謗られたノヴァの血族は徐々にだが戦火を広げ、今は世界中の誰しもが戦場に立つようになった。
世界はようやく、他人事じゃないと悟るようになったのだ。
誰しもがこの大戦は自分達の戦争だと理解し、己が平和のために動いている。
「いい加減、解放してくれないかイクト・マクスウェル・Jr」
「なら素直に彼女の居場所を教えてくださらないと、こっちも時間を無駄にしたくない」
その最中、僕は自身の勢力が保持する軍事施設でとある国の王に詰問していた。
ジューク王――かつて賢者の庇護を受けていた国の王で。
聞けば彼と僕の間には浅からぬ因縁があったそうだけど、覚えていない。
「私は責任を問われ、とうに隠居した身だぞ。知っているはずがないだろ」
憔悴しきった様子の彼は、自分の命を顧みぬように悪態を吐く。
彼は嘘を吐いている。と囁き始めたのはクロエさんだ。
「ジューク王、貴方の体に仕掛けられていた自爆用の魔術は解除してあるからね」
「……何のことだ、我々はお前達のことなど眼中にないぞ。露ほどもな」
「僕達は知ってるんですよ、貴方が何故背任されたのか」
一際棘のある声音で指摘すると、彼はうつむくのだ。
すると同室していたミゲルが端を発した。
「ジューク王、貴方は元老院の圧力を受け、悪魔との癒着を図ろうとし、そのことでご子息のテリー王子に咎められ元老院から切られた。その後貴方は逃げ隠れるように蒸気国家都市カイザーに亡命し、そこで彼女と出逢ったはずだ」
「ナイアか……あれは卑しい娼婦の一人にしか過ぎない。お前達『バルムンク』が気に掛ける大層な女じゃないと思うが?」
果たしてそうだろうか。
ナイアは記憶欠乏症になった僕によくしてくれた恩人だ。彼女は僕が去った後も、カイザー島で暮らしているようだが……彼女は賢者が見初めた人であり、末恐ろしい力を秘めているらしい。
「用があるのはナイア本人じゃなく、彼女が持っていた指輪です」
「……いつから知った? 【主なる指輪】の存在に」
「いつ頃かは定かじゃありませんが、悪魔に打ち克つのに必要なのは判りました」
【主なる指輪】は賢者とナイアが所持していたものだ。指輪の正体は漠然としているけど、いい噂は聞かない。少なくとも悪魔達との抗争の中浮上したキーアイテムならば、諸刃の剣、または破滅を呼び寄せる代物だろう。
「我々はその情報を入手し、カイザー島に潜伏したが肝心のナイアの姿は見つけられなかった。彼女は何処に行ったのですかジューク王……貴方も元は民に支えられた王族ならば、恩返ししてみては如何か」
ミゲルは捕縛された彼に本件を催促している。
時間がない訳ではないが、事は一刻を争う。
悪魔達が指輪の力を使ってこれ以上勢力を拡大するのは阻止しなければならない。
「……私が、玉座を追われた近因となった奴が指輪の在処を知っていると言っていた」
「その悪魔の名は?」
「貴様らみたいな蛆虫連中が知っていい内容じゃないんだ、悪魔だと? 彼らはそうやってゴミ人間から屈辱的な謗りを受け、酷い憂鬱を抱え、泥水を啜るように生かされて来たんだ。今回の騒動は正当な報いだと判らないのか」
「貴方と口論する気には到底なれません。僕達はもう覚悟したんだ」
「では、早い話俺の所に来るといい。お前達にノヴァの血族の恐ろしさを教えてやる」
薄々気付いていたが、ジューク王には悪魔の血が混じっていた。
だから彼は悪魔との繋がりを持っていたし。
今現在、彼は何者かの悪魔に操られている。
「ならそのお招きに預からせて貰う。出来るだけ軍隊を投入した方がいいだろう」
「決戦の場所はこの男の案内に従えバルムンク――今や俺達の脅威となった忌まわしい連中よ」
そこで悪魔との会談は終わり。
ミゲルにジューク王を再び拘禁するよう指示を出した。
「クロエさん、悪魔にこの場所がバレたね」
「二十四時間体制で結界を張っておけば?」
「それは一時的なその場凌ぎにしかならない。拠点を移そう」
「……イクトくんが思ってる以上に、アルビーダは崩壊してるよ」
陰口混じりに彼女から世界の現状を知らされ、それでも僕は唯一つの希望を抱く。
マリー、君に会える時が、刻一刻と、現実になっていってるんだ。
君に会って、君の不敵な笑顔を見られるのなら、僕は如何なる恐怖と闘うことさえ辞さない。
それは偏に君への愛が深かったことを物語っているみたいだ。
一度は君から逃げてしまったけど、今度はちゃんと向き合うよ。
今度は、愛が足りないなんてことはないように。
どうも皆さま、夏風邪引いてしまったサカイヌツクです。
夏風邪って、何なのでしょうか?
俳句の季語的な謂われなのでしょうか?
と思って調べてみたら、夏風邪とはどうやら夏限定のウイルス感染、だそうです。
思ったよりも重症じゃねぇか!! 私。
と言うことで、私は大人しく拙作を更新します。
ゼヒゼヒ言いながら、拙作を更新した、あへ。
次回の更新は明後日の7月24日になりそうです、あへ。




