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悪魔の嬌声・終編


「結構、私を斃せるものならやってみせて下さい。それでも貴方は賢者ブライアンのような英雄扱いはされませんよ」


「さあ、カガトを斃してここから出よう」


 クロエさんから催促を受けた僕は、我武者羅に魔石を生成し始めた。

 蒼炎色の魔石、灰色の魔石、杏子色の魔石の三つを掌から排出し。


「この魔石の中で使えそうなのは?」


 クロエさんに現状打開出来そうなものを選んでもらおうとしたが。


「ごめん、判らない」

「ライフドレインの魔石に、絶界陣の魔石、それからフレアの魔石ですか」


 ライフドレイン、つまりは吸生の魔術。

 絶界陣は彼が僕に使っている結界魔術。

 フレアは恐らく核熱を用いた魔術のことだろう。


「カガトは元幽鬼族だっただけに、通常の攻撃は効かないみたい」


 ならと、選んだのは灰色した絶界陣の魔石だった。


「絶界陣!!」

「ほう、私を結界で囲った? それでどうするのです」


 依然、カガトさんが仕掛けた水の魔術は夥しい音と共に止まない。

 水位もどんどん上がって来て、今はもう僕の腰まで浸かっている。


「先に言っておきます、今までお世話になりました」


「……貴方と出逢って以来、私は憑き物が落ちたかのような日々を過ごせました。これで思い残すことなく死ねそうです」


 彼の過去に何が遭ったのかは知らない。

 日記には彼に関する事柄はほぼ記載されてなかった。

 もしかしたら僕は、ある種彼を頼りにしていたのかも。


 けどそれも今日で終わりだ。

 今まで不即不離の関係性だった彼との最期を決意するように、僕は――


「そのまま絶界陣を使って、カガトの肉体を断って見せて。絶界陣は使い方一つで凶悪な刃に変わる。私達の故郷ではその技を――」


「カガトさん、さようなら」


 カガトさんに別れの言葉を残し、秘技『断界』を以てして彼の肉体を裂いた。


「ほう、絶界陣にはこのような使い方があるのですね」

 しかし彼は肉体を細切れにされようとも、平気で語り掛けて来る。


「無駄ですよ。私は幽鬼族ですから、実体がなくても活動出来ます」

「ライフドレイン!」

 を以てして、細切れになった彼の幽体エネルギーを僕の中に取り込む。


「……ライフドレイン」

 すると彼も僕に同じ魔術を仕掛け、生命力を引っ張り合い始めた。


「ライフドレインで対抗し合うのは分が悪いから、他の方法で攻めた方がいい」

「そんな、冷静に言われても……!」

「どうなさいますかイクト様、私を斃せねば貴方は到底マリー様を救えませんよ」


「僕が貴方を斃すのは、マリーを救うためじゃない!」

 マリーの名前を出され、彼に想いの丈を吐き出すと。


「では、何のために」

 彼は試すような声色で僕の核心に触れようとしていた。


「僕が、僕であるために」


 僕には強烈な自我はない。

 僕はイクト・マクスウェル・Jrの一部だ。


 二十数年に及ぶ僕が取って来た言動が、僕を僕たらしめているのなら。

 罪人とけなされ、水面に沈んで行った人達のために動こうとするはずなんだ。

 それが僕が思う、僕らしい行動である。


「僕はイクト・マクスウェル・Jrの一部だ。ですか、貴方の考え方は時に私を驚かせますよ。実に面白いと思います」


 依然、彼との生命力の綱引きは続いている。

 クロエさんが言っていたように、ライフドレインではやはり彼が優勢だ。

 このまま生命力を吸われ続けていても、彼は斃せない。


「顔色がいささか悪くなってきましたね」

「っ」

「では、私も本気と言う奴を出してみましょう」


 と言うと、カガトさんを覆っていた絶界陣が血の色に染まり始める。

 同時に彼の吸生力が爆発的に上がり、一瞬気を失いかけた。


 ――王義『アニマ喰い』。

「と言いまして、これは幽鬼族の中でも私にしか使えなかった代物です」

 すると心臓が嫌な動悸をし始めた。


「アっ! ハっ、ハっ、はぁ、ぐッ……!」

「顔色が優れませんね」


 反論しようものなら、反動で集中力を失くしそのまま全生命力を持って行かれる確信が過る。


「……このまま死ねば、マリーに会えなくなるよ?」


 クロエさんに言われずとも……そんなことぐらい判るんだ。

 言われずとも。

 僕が教えて欲しいのは、どうしたらこの世が平和になるかで。


 段々とだが、意識が遠のいて行く。


 その時、瓦礫の下敷きになった彼女と目が合った。

 彼女は水の中から僕に慈悲深い眼差しを向けて――ありがとう。

 遺言のように、ありがとうって、口にしたんだ。


「ぎ……ッ!」


 涙を堪えることが出来なかった。

 カガトさんが呼び起こした水はもうじき僕を完全に飲み込む。


「っ……! っ……! ごめっ、んよ」


「イクト様、泣き通しても、救われるのは貴方だけですよ。貴方はもっと世界を知るべきだ。世界は存外、薄汚いものなのです。男が女に幻想を抱くのと同じですね」


 それでも僕が今生きている場所はその薄汚い世界だ。

 確かに彼の言う通り僕は幻想を抱いていた。


 混沌に陥った世界を、僕のこの手で救えるかも知れない。

 その英雄譚が仄かにイメージされ、僕は酷い自惚れを。

 僕が救世主になる幻想を捨てきれなかった。


 勘違いしていた自分を嗜めるように、涙を止めようとするが。

 それでも――


「例えそうだとしても! 僕は!」


 この世界が好きだから。

 自分が生きている今を、嫌いになれないから。

 ――異世界アルビーダが、好きだから。


 生まれて初めて自分を認めることが出来て、涙が止まらなかった。


「ではどうするのです」


 問われた瞬間、彼に仕掛けていた絶界陣を解き。

 捨て身の覚悟で巨大な灼熱玉――フレアを彼にぶつける。


「フレア――――――ッッ!!」

「……喰らえ、穢れた切った私の魂よ。アレは禁断なる極上の果実」

 ――アニマ喰い。


 出来ればこの攻撃で彼を仕留めたかった。

 けど彼はアニマ喰いで、燦然たる光の玉をも貪り始めていた。


「結構強いね」

「彼を斃すにはどうすればいいんだ」

「イクトくんにはまだ一つ、隠されたチート能力がある」

「教えてくれ、それは何だ」


 クロエさんから自身の能力について聞かされている最中。

 カガトさんに向けられた灼熱玉は線香花火のように縮小して、散る。


「……嗚呼、やはり、イクト様は並みのお方ではない。自信が持てず、自分を卑下するようにお道化ていた貴方の姿は実に不愉快だったのです。私は貴方様と初めてお会いした時からこう思っておりましたよ……――所で、大量に生成されたその魔石は何に使うおつもりでしょうか」


 カガトさんがフレアを貪っている間、僕は全身全霊で体内から魔石を生成していた。彼が僕に掛けている絶界陣の輪郭に沿うようにして色取り取りの魔石は積み上げられている。


「なんにしろこれで終わりです、僕の最後の賭けに付き合ってくれますかカガトさん」

「……ふふ、宜しいでしょう」


 彼の承諾を得た後、僕は瞬きを数度繰り返し、目を閉じた。鼓膜は水が盛り上がる音で占められ、どうやら僕達は水中に閉じ込められたらしい。最早カガトさんの声も届くことはなく、揺らぐ魔石の煌めきだけが感じられた。


 ◇


「ラプラス」

「……何か用ですかカガト」

「私はイクト殿に敗れてしまった、後は頼んだぞ」

「敗れた? なら今私の目の前にいる貴方は一体何だというのです」

「最期の最期になって、お前の、いや、貴方の御姿を見ずには成仏出来ませんでした」

「……それで?」


 その後、カガトさんとの死闘を辛くも制した僕は彼が上げた断末魔に呆然とした。やっと終わったのか、という達成感が強烈で、後先のことなど全く考えられなかった。今は灰燼と化した彼と、亡くなった人たちのためにお墓を作っている。


「今ここにいる私は怨念です。直に霧散するでしょう」

「まさか労いの言葉でも期待してるのですか」

「いいえ決して、その様な訳ではありません」

「なら、向こうで母によろしく言っておいて下さい」

「……私は間違っていたのだろうか」

「そうなのでしょうね、怨念として現れたのが何よりの証拠です」

「ノヴァの血族の復権などという大望はもう残されてはいないが、せめて」


 ――貴方にこれを託す。


「またいつか何処かでお目に掛かりましょうラプラス様」

「カガト……この期に及んで、要りませんよ、指輪なんて」



M……とは、私なりの読者の皆様へのせめてもの気持ちです。

M、とは、私の両足の形です……ハ!?


これじゃ単なるM字開脚やん!


真に取るべき姿勢は、ド・ゲ・ザ☆彡

誠申し訳ないのですが、ストックが、あ……りjじょldkfじこ。

また更新する日を空けさせて頂きます。


次回の更新日は7月の22日などどうでしょう、どうでしょう!

くそう、このまま完走したかった、ぐぞぅ。

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