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僕は貴方を斃す


 あの後、クロエさんから魔石に関する説明を受け、自分にはチート級の能力がある自覚を促すよう試しに魔石を生成してみた。すると掌から拳よりも一回り大きい蒼炎色の魔石がゴトンという鈍い音を上げて出る。


「素晴らしい」

「……いつからそこに居たんですか」


 魔石を生成したらカガトさんが背後に佇んでいて。

 渇いた拍手を室内の石肌に反響させていた。


「私は最初からここに居りましたよ。イクト様の身の安全を考えればこそ、警備の手も緩めません……にしても、貴方は本当に偉大な方だ。まるで私がかつて仕えていた賢者ブライアン様のように」


 偉大で、尊く、そして脅威でもあらせられる――


「厄介極まりないですね、今ここで始末してもいいのですが」

「……」


 どうしよう、逃げたい。

 彼が一瞬見せた混じり気なしの殺意に中てられた僕は膝が笑った。


「無駄ですよイクト様、マリー様ほどの練達でない限り、我々の追跡からは逃れられません」

「イクトくん、試しにこのクソジジイを斃してみせて」


 斃す? 何のために。彼は記憶を失った僕を今まで面倒見てくれた優しい人だ。決して忌むべき存在じゃない。それこそ悪魔との謂れを受けるような人じゃないんだ。


「ありがとう御座います。世界中の人間がイクト様のようであれば、どんなに幸福だったでしょうか。そう、貴方のように」


 ――貴方のように、騙しやすい人間であれば。


 カガトさんはそう言うと、また姿を消す。

 彼が視界から消えると部屋の扉が大きな音を立てて開き。

 奥から悲鳴が聴こえ始める。


 ――イクト様、どうぞこちらへ。


「行こうイクトくん、私を忘れないようにね」


 クロエさんの言葉に従おうと思った。

 恐らくこれから先はもうこの城宿には居られなくなる。

 クロエさんと、僕が付けていた大切な日記を忘れないよう手に持つ。


「その日記は置いて行こう」

「馬鹿言わないでくれ」

「十中八九戦いの邪魔になるよ」


 それでもこれは手離せない。


 ――こちらです。


 彼の声に招かれるがまま、城内を恐る恐る進む。

 先に進むに連れ、悲鳴の形がはっきりとして来た。


 悲鳴には共通点があって、どれもこれも死を怖れている。

 城内から上がる阿鼻叫喚を耳にするだけで、心の腐敗が進行した。


「……カガトさん、止めませんか」


 ――止める? 恐縮ですが私は。


「今一瞬のこの時が、すこぶる愉しくてしょうがありません」


 彼の肉声が鼓膜に触れた瞬間、右側から電線がショートしたかのようなバチッという音が鳴った。


「おや? 防がれてしまいましたか」

 音がした方向を振り向くと、そこには鬼の形相をした彼が居た。


 彼からは生気の香りがする。

 親族が亡くなった時に感じた特有の侘しさだ。


「……イクト様、どうか私に罰をお与えください」

 悲鳴は尚も、城内の至る所から沸き上がっている。


「罰?」


「この城に収容されているのは誰しもが罪人。無論、貴方だとて例外ではない。無論、私だとてその内に一人……ここは先祖の行き過ぎた独裁政治から国民の信頼を失った孤高の王族、ルヴォギンス家の牢獄だった場所です」


「マリーの家名と一緒だね」


 奇遇にも、僕はマリーの家に縁のある場所に滞在していたらしい。


「今、ここにはおよそ五千人の罪人が収容されております。イクト様の御耳を汚しているのは罪人どもの断末魔です故、お気になさらずに」


「これで彼を斃す大義名分は整ったね」

「僕には無理だ」


 僕には。

 誰かを討ち取る技量など持ち合わせていない。

 相手が悪魔ともなれば尚更だ。


「貴方の周囲に張られている結界はなんでしょうか? まあ、どんな魔術相手でもやりようはある」

「来るよ、構えて」


 瞬間、カガトさんは傍にあった石柱を強引にもぎ取り、それを僕目掛けて打ち付けた。僕の周囲に張られている結界は襲い来る石柱からも守ってくれたんだけど。


「そのまま落ちましょう――地獄の底へ」


 彼は凄まじい膂力に任せて結界魔術ごと地面を穿ち、僕は下階に落ちてしまった。


 落下した衝撃はなく、粉塵が舞うなか強く瞑っていた瞼を開けると。

 そこはカガトさんが唱えたような地獄の光景が広がっていた。


 人が、沢山の人が倒れて、うめき声を上げながら苦悶の声を上げている。

「タス……ケテ」

 僕らの下敷きになっていた人がか細い声で助けを求めていた。


 どうにかして瓦礫を退けようと腕に精一杯力を込める。


「イクト様、ここは一つそいつに止めを刺してやるべきかと」

「黙ってくれ!」

 カガトさんは苦しむ彼らを突き放すように酷遇している。


「何故助けるのです」

「そんな押し問答してる場合じゃないんだ!」


「この人達を助けるには結局カガトを斃すしかないよ」

「黙ってくれ! あ、アアッ!」


 クロエさんの冷静な一言ですら癇に障るほど僕は心を荒げているが。

 自分の腕力ではこの瓦礫を退かせられないと悟り、カガトさんへと近づく。


 するとまた青白い火花が瞬き、いつの間にか彼は結界に肉薄している。


「口惜しいですね、この結界さえなければ貴方は三度死んでいた。もしかしてこの結界は昨日渡したマリー様の書記の影響でしょうか……だとしたら、さすがは賢者の孫娘と讃えるべきなのでしょう」


 彼は人々の苦悶をかき消すように大きく拍手する。


「カガトさん、一刻も早くこの状況をどうにかしてくれませんか」

「どうにかとは?」

「この人達が苦しんでるのは貴方が何かしたからなんじゃないんですか」

「然様です」


「なら、彼らを解放しろ! そうでなければ素直に僕に討ち取られるかですよ」


 義憤だったか、それとも良心の呵責が僕を奮い立たせたらしい。

 この時の僕は彼に対する恐怖も、遠慮もなく。

 ただカガトさん達――ノヴァの血族を敵対視していた。


「恐らく、口から出まかせなどではないのでしょう。それは貴方の周囲に張られている強力な結界から汲み取れます……ならイクト様、貴方の真価を私は命を賭して引き出して差し上げます」


 と彼が言えば、地下に収容されていた人達がまた一斉に苦しみ出した。


「聞いた話によると、カガトは元幽鬼族の王をしていた。幽鬼族の糧は生物の生気だったらしい」

「糧だろうと何だろうと、僕が人である以上見過ごせない」


「「じゃあ、人じゃなかったら?」」


「二人して煩わしいことを聞くな!」

「……イクト様、もしかしたら今宵が私と貴方の最期となるのですから」


 三度距離を取った彼がゆっくりと僕に歩み寄る。

 彼はああやって焦りを生もうとしているのかも知れない。

 そう判断した僕はクロエさんに小声で話し掛けた。


「彼を斃す方法を教えてくれ」

「自分で考えて、前言したように貴方にはサイラスも認めた魔石生成能力がある」

「仮に魔石が魔術の基となる代物だったとしても、どう使えばいいんだ」


 クロエさんと作戦を立てようとすれば、彼はもう目の前に接近していた。


「交渉しますか?」


 という彼の言葉に、僕の中で一瞬の迷いが生まれ。

 彼はその隙を突くように、僕を守っている結界の周りに違う結界を敷いた。


「絶界陣、これはイクト様が得意としていた結界術ですが。これで貴方はそこから動けますまい」


「だから何です」

「人間の肺呼吸を利用すればいいのです。ですから、こうするのですよ」

「――止めろ!」


 腹から出した制止の声はカガトさんに全く通用しなかった。

 恐らく魔術なのだろう、彼はどこからともなく大量の水流を起こした。


「さあ、この水の冷たさに触れた何人かはショック死しましたよ。どうなさいます?」


 最早水位は僕の膝まであり、倒れた人達のほとんどが飲み込まれている。

 さきほど助けを求めた女性は瞼を瞑り、生きることを諦めた様子だった。


「ちなみに、その女性の名はミーシャと言います。彼女はイクト様と交友があったようですよ」


 人々の死に触れ行くと、背中に巨大な怖気と脱力感がのしかかる。

 思わず無気力になりそうで、けど。

 この状況を看過するわけにもいかなくて。


「僕は、貴方を斃す」


 状況心理から排他的に沸いた殺意で、目の前の悪魔を睥睨したんだ。



世界中のハッピーを集めたメディア作品にしたいです!

と、ミドルハッピーな私が叫んだところで実現しまい。

ですがこの想い、みんなに届け。


ハー……ピバースデイ、トゥ、ユー……チン、チン、チン。


ハァ゛――――――――――ッ!!

ハァアアアアアアアアアアアア!!

ピ〇チュウ。


ハァ゛――――――――――ッ!!

ハァアアアアアアアアアアアア!!

ピナコサウルス。


ハァ゛――――――――――ッ!!

ハァアアアアアアアアアアアア!!

ピー音。


ハーピバースデイ……トゥ~、ユー……。


狂気ですね、前言すれば、またストックが尽きそうなのです。

できればこのまま完走したいですが……アハ、無理です☆彡

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