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三つ巴なる世界


「今世界の構図は三分化されてるのは知ってる?」

「いいや、覚えてないよ」


 今王都一帯は暗澹とした夜闇に包まれていた。

 王都の中にある城宿も溶け込むよう夜に浸かっている。


 暗闇を星の輝きで緩和するでもなく、僕がいるスイートルームは侘しい誘蛾灯によって仄暗く浮かんでいる。その中、僕はカガトさんから渡されたマリー・ルヴォギンスの手記とやらを抱きしめ寝ていた。


「マリーを筆頭とする魔術師と、賢者を筆頭とする虚無教、それから悪魔の三つに別たれてる」


 マリーの手記から語り掛けられ、ふーんと相槌する。


 僕は何をやっているのだろ。

 傍から見れば緊迫した状況に苛まれ、精神崩壊を起こしたかのようだ。


 けど違うのだ。


 マリーの手記と思わしき黒革の手帳の正体は、僕が親友と謳うサイラスの相方のクロエさんであれば、僕の呟きは会話として成立する。彼女は取り残された僕にある理由からアプローチした。


「貴方はその三つの勢力の中でも一目置かれてる」

「なぜ?」

「理由は色々、感情的なものだったり、機械的なものだったり」


 今、世界は三者による凌ぎの削り合いの最中にあって。

 僕はその一翼を担う悪魔の勢力から寵愛を受けている。


「三つ巴なのは判ったけど、問題はどうすれば現状を打開出来るかなんだ」

「貴方はどうしたいの」


 僕は……マリーの隣にいたい。

 そう言うと彼女は抑揚のない声音で詠唱して、僕の記憶欠乏症を治癒してくれた。


「よかったね、治って」

「ありがとう」


 さすがは稀代の魔術師を自称することはあるのか。

 前言すれば、クロエさんは手帳に化けている訳じゃない。

 彼女は元の身体を捨て去り、黒革の手帳に転生したらしいのだ。

 彼女は自嘲気味に自分のことを生ける魔導書と言い張っていた。


 そして――


「サイラスの墓とかってあるの?」

「サイラスは魂ごと虚無に呑み込まれたみたい」


 サイラスは文字通り、もうこの世にはいない。

 彼女の話によると、サイラスは賢者との一騎打ちに敗れていた。


 その話を聞いた僕は背中に走った怖気を跳ね返すように鼓舞し。

 今は賢者への酷い敵愾心を、持て余すのだった。


 ◇


 翌朝、ふと気づくとクロエさんの姿がない。

 昨夜は彼女を胸に抱きながら寝たはずなのに。

 まだ覚醒し切れてない頭で不思議がっていると。


「お早う御座います」


 カガトさんが起こしにやって来た。


 昨夜は少しばかり夜更かしが過ぎた様ですね。

 などと言い、彼はベッドの傍に落ちていた彼女を拾い上げた。


「大事なものを粗雑に扱ってはいけませんよ」

「あ、すみません」

「……先んじて言いますと――」


 すると彼は毎朝のように報告していたマリー達の安否を口にする。


 その後はいつもと同じ。


 拵えた朝食を僕に堪能させ、舌を肥えさせて部屋を立ち去る。


 彼が辞去したのを見計らって、クロエさんに話し掛けた。


「彼は貴方の記憶欠乏症が治ったことに気付いてた」

「え、それってマズイんじゃ」

「かも知れない。けど不安がることはない」


 何で? と訊くのも野暮なほど、現状は最悪だ。僕の友人達が軒並み亡くなっている今さら、自分の命を案じても恰好が悪い。現状はそれほどに極限化している。


「……逃げるか、そろそろ」

「どうやって?」

「クロエさんの魔術で、とはいかないのか?」

「逃げるにしても行先は?」

「マリーはどこに?」

「それを今教えるわけにはいかないの」


 どうして?


「彼ら、ノヴァの血族には読心術がある。貴方に教えた情報が漏れたら世界は終わる」


 ……言葉を失うしかなかった。

 じゃあ、もしかして僕は二度とマリーに会えないのか?

 例えこの大戦が終結しても、二度と。


 ……――マリー。

 彼女の名前を念じ、心の中に浮かべた幻想を振り払うよう頭を振る。


「所でイクトくん、貴方はどれくらい強いの」

「僕に強さを求めるな、僕にあるのは恵まれた境遇だけだ」

「クソみたいだね」

「そう言われても、苦笑しかできない」


「でも、マリーや世界を救える可能性を持っているのは貴方だけ。そうだとしたら?」


 マリーや世界を救える可能性が、僕に?

 自分のことだからよく分かるけど、僕にはそんな器はない。


「賢者に対抗できるのはマリーだけ、けど、悪魔達はマリーを狙ってるから賢者に集中出来てないのが現状」 

「趣味が悪いよ、賢者も、ノヴァの血族も」


「私はそう思わない、各々に強い意志があるのを知ってるから」

「それで、僕はどうすればいい?」


 いや、その前に。


「僕に何が出来る? 言葉を変えれば僕の強みって?」

「日記に書いてなかったの?」

「何を?」


 と言うと、彼女は嘆息を吐いた。


「そうなんだ、誰が仕組んだのか知らないけど、面倒なことするね」

「よく分からないけど、君が教えてくれればよくないか?」


「貴方にはサイラスも認めた魔石生成能力があるの」


「……魔石って何?」

 頓狂な調子で尋ねると、彼女はほらと、言う。

 その様子は無感動な彼女が生まれて初めて見せた一面に思えるほど。


「面倒だね」

 得意気だったんだ。

もうありません…………もう。


後書きで書くことありません。

それでも書きまぁすけどねぇ。


そしたら、私の黒歴史でも覗いてみましょう。

あれは私が中学校に進学し、独りで世を怨んでいた頃のこと。


私「死んだらどうせみんな地獄行きだよ」


そっ閉じ……、何が遭ったのか詳しくは言えませんが。

私は元気です(キキ風)。

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