悪魔の嬌声
拝啓読者の皆様へ、どうやら私は風邪から完全に快復したようです。
これで輪転機の如く、小説の更新が滞ることはないようです。
「ではイクト様、私めが幽鬼族相手の立ち回り方をお教えしましょう」
初めて立つ戦場の恐怖から膝が笑っている僕にこう申し出てくれたのはラプラスの父、カガトさんだった。彼がいくら女の敵と言えど、同性に対してもこの紳士的な振る舞いに思わず惚れこみそうだ。
「そうだな、イクトはそのままカガトに訓練付けてもらって、私はその間寝るよ」
「お休みマリー」
「お休みイクト……ちゅ、頑張れ」
「僕は世界一の幸せものだ、彼女とイチャイチャして将来の見通しも明るいぜ、HHAHAHA。ですか」
僕達が就寝前のキスをする光景を見ていたラプラスから皮肉られる。
「……誰もそんなこと思ってないし、羨ましいのか? ならラプラスも結婚すればいいじゃないか」
「私には不特定多数の殿方がおりますので」
ここまで絵に描いた様なビッチはエロゲ以外で見た例がない。
こんな娘を持つ父親の心境を考えると、失望を通り越して無。
「どうぞこちらへ」
「精々カガトにしごかれるといいですよ、イクト」
カガトさんに連れられ、城内の中庭へとやって来た。
中庭には芝生が生い茂り、所々観葉植物が埋められている。
辺りにはもう陽の光はなく、完全に夜になっていた。
「ではこれより貴方に幽鬼族との戦い方をお教えます。少々乱暴になってしまうことをお許しください」
彼はそう言うと、夜闇に紛れて消える。
「どこを向いているのですか、私ならここです」
そして僕を惑わすようにあらぬ方角から声を発するのだ。
どうしよう、カガトさんの気配が掴みとれない。
「……まさか、無我の鏡の真似事でもしているのではありますまい」
――無駄です。
「こちらです」
「っ!?」
カガトさんは一瞬に視界の右端に入ると、また消失する。
僕はこの光景を、古い和製ホラー映画で目にしていた。
「……幽鬼族はほとんど目が見えません、代わりに彼らは異常に発達した聴覚を持っています。そのため、彼らの戦法は死角から敵の動向を観察し、必殺するのです。どう必殺するのかと言いますとこのように」
「っオァ!」
気付いた時には僕の胸にカガトさんの手が当てられ。
尋常じゃない脱力感が僕を襲う。
「これはライフドレイン、幽鬼族の特技です。彼らは他種族の生命力を吸うことで生きる糧を得ているのです」
「ちょっと、もうやめてくだ、さい」
「私に全生命力を吸われる前に、吸い返してみせるのです」
「そんなの、どうすれば」
「身体の内外に境界線を引き、外側から内側へエネルギーが流れるようイメージするのです」
「こう、です、か!」
「――――――っ」
単に僕はカガトさんに言われるが侭、彼の生命力を吸い上げただけだ。
それがどうして……。
「何か遭ったのでしょうか? ジジイが善がる叫喚が聴こえたのですが」
「ラプラス、カガトさんが」
「……イッチャったのですね」
それがどうして、彼が昇天するほどのオーガズムを与えてしまったのだろう。
「父はドMですから、端からこれを狙っていたと思いますよ」
「端から!?」
「計画性のあるドMはお嫌いですか?」
「嫌です、如何にも狡猾そうで」
「では、その父の計画力を引き継いだドSは」
「議論にならないから」
こうして僕はカガトさんからライフドレインの使い方を教わると同時に。
幽鬼族の生態について知り、ほんの少しだけど戦意が高まった。
皆さんにはカガトの嬌声はどんな風に聴こえたのでしょうか。
「んほぉおおおおお!」なのか。
「アッ――――――!」なのか。
アニメ化されれば聴けるんだけどな……あ、涙が。