三つの理由
『12月5日 僕は真実を話そう』
日付の横にいつも書いてあるタイトルは、それまでの物と大分主旨が違う。
『先ず前言すれば、マリーの故郷である王都ナビアは崩壊したらしい。僕達が去った後、王都では酷い内乱が起こったようだ。何でも国王であるジューク王が乱心したと専らの噂だ』
マリーの故郷、つまり賢者ブライアンの庇護を受けていた国が亡くなったのか。
それは一大事だ。
途端に僕は日記に書いてる内容に意識が釘付けになった。
『プレンザ地方にあった僕達の家も内乱の影響を受けて瓦解している。だから逃げるにしてもプレンザ地方に行っちゃ駄目だ。今世界各地でこういった現象が起きている。これからは慎重に動いた方がいいだろう……それで、本題に入る。今すぐカイザー島から離れ、マリーを見つけて地球に帰るんだ』
冒頭から過酷な現実を叩きつけるメッセージを伝えた後、日記の内容は加速した。
『そう打診する理由は三つ、僕が両親だと思い接して来た二人は本当の両親じゃない。別人、赤の他人だ。本当の両親は虚無教の信者達に火あぶりにされている』
っ……父さんと母さんが火あぶりに?
『両親は虚無教の元信者だった。虚無教を辞めた二人はプレンザ地方へ逃げ延び、僕を身籠って一家で団結して麦畑をつくった。この日記に書いてあることが本当だとすれば二人は生来からの友人だったんだろう。今は二人に苦しい思いをさせた虚無教が赦せない』
……もう一つの理由は何だろうか。
僕は薄ら寒い胸中を押し殺して、次のページを捲った。
『二つ目の理由は、虚無教の教皇が賢者ブライアンその人であるということ』
賢者ブライアン、彼のことは記憶欠乏症に罹っても忘れてない。
彼から感じる酷い矛盾感と不安は身体が覚えているようだ。
『賢者ブライアンは虚無教を信心する家系に産まれた千年に一人の逸材だったらしい。元々の彼は虚無教にを酷く憎んでいたようだ。家から逃げ出し、世界中を旅して仲間をつくり、彼は虚無教と闘った』
だとしたら、何故賢者が虚無教のトップになったんだ。
『その後世界は平和になったけど、虚無の脅威は無くなっていなかったんだ。そこで賢者ブライアンは異世界アルビーダを一度完全に虚無に還すよう転じ始めた。世界を虚無に還し、内包される虚無すらも無に滅そうとしている』
虚無を世界ごと葬り去る?
そんなこと可能なのか、甚だ疑問だ。
『三つ目の理由は、僕の死に場所はマリーの隣と決めている。彼女の隣で生きて、彼女の隣で死んで、彼女の隣こそが僕の居場所だという確固たる決心がある。なら、今や虚無教の隠れ家となっているそこを今すぐに立ち去るんだ』
……今日の僕は昨日の僕が羨ましくさえ思える。
昨日の僕には覚悟があった。
それは今日の僕にはなかったもの。
記憶欠乏症という病躯は、本当に悩ましい。
『追伸、ヘンリーさんのことは恨まないでやって欲しい。彼はこのことを僕に教えてくれた、言わば大恩人だ。彼は僕の決心同様に、賢者の一番弟子であることを生涯貫き通すつもりでいる。内心では賢者を否定する気持ちもあるらしいが、今はそうする他がないと言っていた……今の僕にはもう時間が残されてないようだ。段々とだけど、記憶がすげ変わっていく感覚に襲われ始めた。凄く空しいよ』
「……同感だよ、僕も今凄く空しい」
まるで白昼夢でも見ているようだ。
日記を読み終えた後は再びお腹に隠して、しばらく呆然とした。
「……もし、そこの殿方」
「?」
「どうでしょう、私と一緒に駆け落ちしてくださいませんか」
「……駆け落ちですか」
「えぇ、さぁ行きましょうか」
と言われ、彼女は怖気がするほど白い腕をさしだす。
彼女の肌の白さは衆目が放っておかないほどのように感じるが。
「もしかしてラプラス?」
「詰まらないですね、貴方はどうやって私の正体を見抜くのですか」
いや、君が差し出した腕に噛まれた跡があったから。
などとは言えない。
ああああああ! 夏休み……。
欲しい、特に理由もなく、ああああああ! 夏休み欲しいです。
夏があれば当然、ああああああ! 冬休みも欲しいです。
ああああああ! 夏休み。
ああああああ! 夏休み。
あああああああああああああああああああああああああ!




