――って伝えたいんだ
「二人は今までどこで何をしてたんだ」
何年振りに会った両親は当然ながら老衰していた。
父さんの顔にはほうれい線がはっきりと浮かんで。
母さんの頭髪は白髪が目立つようになっている。
「俺達は当てもなく旅をしていただけさ」
「私達二人の夢だったの、世界のいろいろな所を見て回るのは」
「……初耳だけど」
両親の夢を聞いたのは初めてのことだけど。
僕は現在、記憶欠乏症であれば、今のはなかったことにして欲しい。
「そうだったか? お前には話していたつもりだったが」
「忘れちゃったのよね、私達がこうして顔を合わすのも数年ぶりだし」
ほらやっぱり。
僕は予め二人の夢について聞いていたようじゃないか。
「仕方ないよ、イクトは記憶欠乏症に罹ってるみたいだから」
戸惑う僕の事情を、ナイアが簡潔に説明してくれた。
「記憶欠乏症? イクトはそんな奇病に罹ってたのか」
「イクト……」
両親の心配を買ってしまった僕はばつが悪くなり。
「二人とも、僕なら心配ないから」
と強がって見せるのだが、二人には虚勢としか映ってなかったのかな。
◇
両親と再会した後、マリーの顔を見ることはなくて。
僕は母さんの付き添いのもと日記を付けている。
日記を読むたび、記憶欠乏症の恐ろしさを再認識したり。
仲間と親しんでいたみんなの心を裏切るような言動を取っていたことを思い知るんだ。
「ごめん母さん」
「ん? どうしたの?」
「病気とは言え、母さん達に面倒掛けちゃってるから」
「いいのよ、私達は家族でしょ」
家族か……それで言えば僕とマリーの関係は何だったのだろう。
永遠の恋人? それとも母さんと同じく――家族。
マリーのもとから逃げ出したのは、彼女に迷惑を掛けたくなかったから。
こうなってしまった僕に失望する彼女を見たくなかったからだ。
その点で言えば、母さんには迷惑掛けてもいいのか?
僕は最低な男だ。という自己憐憫を抱えながら日記を読み返している。
そんな折、僕は一人で外に繰り出してしまった。
今の状態で外出する危険性は自覚していたが、彼女が僕を揺り動かした。
「……今晩は」
「今晩は、貴方はもしかして……マリーさん?」
紅蓮の髪に、アケビ色の瞳。家の窓から彼女の類稀な姿を見た僕は、居ても立っても居られず彼女の後を追い、カイザー島に唯一ある自然公園へと赴いた。夜のここは静かに冷え切って、蒸気灯が照らし出す公園のベンチも寒そうにしている。
「違うよ、私はマリーじゃなーい」
人違い……?
「貴方は本当にマリーさんじゃないんですか?」
「本当だよ、私はマリーじゃない……にしてもイクト、記憶欠乏症がより進行してるな」
彼女はマリーであることを否定するが、僕の名を呼び寄せる。
その仕草は日記に書いてあった無邪気な彼女の在り方そのものだった。
「もしも君が賢者の孫娘、マリー・ルヴォギンス本人だとしたら」
「だから違うって言ってるだろ」
じゃあ。
「じゃあ、君がマリー・ルヴォギンスを知ってるのなら伝えて欲しいことがある」
「いいよ、何でもご自由にどうぞ。何を伝えたいんだ」
彼女は公園の中を自由に駆け回っていた。
ベンチに腰を掛けたり、蒸気灯につかまってぐるぐる回ったりして落ち着きがない。
「どうした、マリー・ルヴォギンスに何を伝えたいんだ」
「……今までありがとうって、僕は君を、忘れたとしても」
――愛してるって伝えたいんだ。
「分かったよ、彼女にはちゃんと伝えておく……マリー・ルヴォギンスは今忙しいんだ」
「どう忙しいんだ」
「お前は知らなくていいことだ、両親を連れて地球に帰ればいい」
と言うと、彼女は姿を消した。
僕も使えるらしいが、これが魔術って奴なのか。
「……」
兎に角、伝えたいことは伝えた。
ここから先は今後の生き方を模索すべきだろう。
記憶欠乏症の特徴を考えるに、死に方は選べないけど。
生き方ぐらいは選べる……そう思うと目から涙がこぼれ始めた。
日記に書いてあった僕は、マリーの隣で生涯を終えたかった。
彼女の隣で死に、彼女の隣で生きて、彼女の隣こそが僕の居場所だと――
「……泣くなよ、イクト」
鬱屈とした心情を抱えていると、涙ながらに彼女からキスを受けていた。
賢者の孫娘、マリー・ルヴォギンスとのキスは僕の一番大切なものだ。
僕の一番大切な、愛だった。
恥ずかしい……逝きたい。
と言いますのも、一昨日辺り公開した最新話に私のメモ書きが残っていて。
恥ずかしかったぁ……(プルプルプル)。
と言うことで皆さま、小説家のキャラクターを皆様の作品に出してもらってですね。そのキャラクターは作品に対しては赤裸々だが、こういうポカの時は超絶恥ずかしがるという萌を(略。




