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馬鹿げてる救世譚

風邪引いてまず市販薬を飲みました。

昔のとは違って、意外と効くものなんですねぇ。

 姉さん、事件です。


 ひょんなことから魔術師の宝である魔石が生成出来るようになった僕は。

 これからの指針を秘密裏に固めるべく、王都のある城宿に泊まったんだけど。

 そこに白銀の甲冑に覆われた一人の女勇者がやって来て。

 今その人はマリーと壮絶な死闘を繰り広げてるんだ。


 マリーによる怒濤の攻撃を、彼女は不思議な力で相殺しているようだ。


「チィ、その甲冑は対魔術効果があるのか!」

「万の竜の血を吸ったとされる我が国が誇る国宝ジークフリートの真価を篤と知るがいい……ッ!」


 ビリーノエルがマリーに突進して、マリーに矛先を向けようとした時。

 僕はとっさにマリーの周囲に結界魔術『サンクチュアリウォール』を敷いた。


「ありがとうイクト、――――」


 するとマリーはすかさず詠唱をし始める。

 対魔術用の甲冑か。

 マリーに取って彼女は相性が悪いらしい。


「無駄だ、どんな魔術もジークフリートには効かない」

「なら試してみよう。私の秘奥義を喰らっても平気そうにしてるなら、降伏するよ」

「無駄だと言っているのに……だが自分の力量を量りたい気持ちは分からなくもない」


「私はお前が嫌いだ。その理由は二つ」

「殊は好き嫌いの問題ではない」


「理由の一つは、私よりも背が高くて、いかにも美人の雰囲気を放ってる所」

「くだらない」


「もう一つは、私の夫に色目を使ったこと」

 マリーがそう言うと、彼女は僕を一瞥した。

 不意に彼女と目が合い、不覚にも僕は若干緊張してしまう。


「では訊こう、その秘奥義とやらは周囲の人間を巻き込まないものなのか?」

「いいや」

 え? 即答?

 マリーは僕達諸共玉砕する覚悟で秘奥義を放とうとしてるの? 困るぅ。


「心配するなよイクト、こいつは私が必ず殺す」

「僕が心配してることはそうじゃないの知っててやるつもりだろ」

「……ふぅ」

 その時、ビリーノエルは甲冑の手で僕が敷いた結界魔術に触れ。


 僕が初めて使った結界魔術はあっさりと解除される。

「聞け、私は今お前達と争ってる場合じゃないんだ」

「ならなんで攻撃して来たんだよ」


「今私の国は危機に曝されている、状況を打開するためには秘宝アスタリスクが必要不可欠なんだ」


「マリー様、ここはビリーノエル様のお話に耳を貸した方が宜しいかと」

「……はいはい、カガトに言われたら私もそうするしかない」


 僕の言う事はおざなりにして、カガトさんには素直に従うのか。

 僕はこの時ちょっとした嫉妬を覚えた。


「ありがとう、感謝する」

「滅相もありません、今お茶をお持ち致しますので」

「気を付けた方がいいですよ、そいつは女の敵ですから」


 父が女性に甘ければ、娘は男性が大好物。

 ラプラスが父親嫌いなのは同族嫌悪の範疇だった。


 その後、ビリーノエルは鎧兜を脱ぎ、端麗な容貌を曝け出した。

 短くまとめられた髪は白く輝き、

 瞳は深奥のある紺碧色をしていて、

 褐色の肌は怖気が走るほど艶めかしい。


「改めて、私の名はビリーノエル。バルバトス王国の第三王女、ここより遥か西からやって来た」


「それで、ご用件は?」

 マリーは不遜にも、片足を組んで机に頬杖を突きながらそう言った。


「再三に亘って言うが、我が国の秘宝アスタリスクを返して欲しい」

「あのねぇ、アスタリスクは私の祖父がお前の国から献上された私物なの」


 国の秘宝って、ようは国民の財産だろ?

 あろうことかマリーはそれを祖父の私物扱いにしている。


「違う、あれはお前の祖父が強引に奪った」

「違いますぅ、あれは世界を救った対価として祖父に献上されたんです」


 二人が史実問題によくある見解の違いで水掛け論をしている中。

 僕はラプラスに「アスタリスクってどういう代物?」と尋ねていた。


「私も詳細は知りませんが、魔石の一種です。それもこの世に唯一にして、奇跡の御業とも呼ばれる死者の蘇生を可能とするとかなんとか」


 へぇ、そんなのがあれば、僕も前世で死なずに済んだのに。


「御託はいい、アスタリスクは今どこにあるんだ」

「かの魔石でしたら、ブライアン様の手によってこの世から消滅致しました」

「……それは本当か?」


 高揚気味に問い質すビリーノエルに、お茶を持って来たカガトさんが答えた。


「私めもその現場に立ち会っていたので、間違いないかと」

「だとすれば、我が国は滅んでしまう」

「問題ありません、貴方の国はそこにいるイクト様の手によって救われるでしょう」


 何言っちゃってるのYOU。

 僕は魔術適性だってヒーラーだし、魔術と言うか戦闘そのものに疎いのに。


 ……と言うか、彼女の国は今どうなってるんだ?


「救えるかどうかは分からないけど、貴方の国はどう危機に瀕してるので?」

「幽鬼族だ、我が国は幽鬼族の進攻を受けている」

「幽鬼族ってどんな相手なので?」


「幽鬼族は文字通り幽体のみ存在する魔物みたいなものだ、普通に斬り掛かっても霞の如く効果は無い」


「じゃあ幽鬼族は無敵に近い?」


「いや、奴らはある一定の範囲にしか存在しえない。筈だったのだが、近年になってその原因はアスタリスクにあったのではと言う説が濃厚になった」


「ふーん、大変だな。ご愁傷さま」

 僕はマリーに不謹慎を告げるように手の甲で彼女の胸を叩いた。


「……貴殿が我が国を救ってくれると言うのか?」

「あれは、そこにいるカガトさんが説いただけで、確証性はどこにも」


「ライフドレインは幽鬼族に効果覿面(こうかてきめん)であれば、私はそう申し出たまでのことです」

「君はライフドレインの使い手なのか!?」


「どうしてカガトがそのことを知っているのです」

 カガトさんの説明を訝しがったラプラスは言及する。


「私は単に落とし物を拾い、城の安全を考え中身を確かめた所、たまたまイクト様の魔術適性表だったのです」


「……盗みましたね?」

「お客様に対しその様な真似は絶対に致しません」


 するとビリーノエルは白銀の手甲で僕の左手を包むように取った。


「お願いだ、私と一緒にバルバトスに行き、そしてどうか我が祖国を救って欲しい」

「ご用件はそれだけ? いくら払ってくれるんだよ」


 とマリーは藪を突くように言い、僕達は彼女の返答に期待した。


「今ここで君達が動いてくれれば、我が国の爵位と領地を与え、それから……奪われた秘宝アスタリスクの件を不問にしてやる」


 ビリーノエルは具体的な金銭の取引に応じなかった。

 まるで彼女の国は衰退の一途を辿り、なけなしの財を投げ打っている。

 そんな印象だ。


 不安げな眼差しをマリーに向けると、彼女は普段通り不遜な顏をしていた。

 得意気で自信に溢れていて、何より可愛い表情は愛くるしい。


「いいよ、その条件でお前らの国を救ってやる。内の夫がな」

「ありがとう、恩に着る」


 と言うわけで、僕は一国の救世主になる予定だ。

 予定は未定なわけで、かなりの高確率でまた僕は死ぬ羽目になるだろう。

 馬鹿げてる。

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