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魔王は勝利の凱旋に安堵するよう笑んでいた


「イクト、デスフレアは使えないか? あの戦術級魔術を放てば」

「無理だ、あれはクロエさんの魔術のおかげで撃てた代物だ」

「今さらになって思うんだが、お前はどうして自分を鍛えない」


 アビスが孤軍奮闘している中、オリビアの説教が始まってしまう。


「自堕落に生きたいから?」

「なら今その堕落人生終わらせてやろうか」

「今話すことじゃないんだよ、アビスを死なせる訳にはいかないし」

「……どうする」


 僕らは何もできず、大局を見守っている。

 するとオリビアは木陰から抜け出し、平原から空を見やった。


「危ないぞオリビア」

「敵はあそこに集中してるから平気だ」

「君はいつもそうだな」

「貴様に私の何が判る」

「……そう言えば、昨日のバーベキューの時、アンリちゃんとキスしてたな」

「あれはアンリが憂鬱そうにしてたから、言うことを聞いてやったんだ」

「他にも思惑があったんじゃないか?」

「……あのなイクト」


 僕らはしばらくの間、戦闘中にも関わらず無駄な会話を積み上げた。

 彼女は僕に好意を寄せているし、僕も嫌いではないから。

 互いに意識し合うように、好意的な会話をしていたのだ。


 そしたら、オリビアは僕に何か言いたそうに振り向き、背後に出現したサンドワーム型の魔物に喰われた。


「オリビアぁああ!!」

 咆哮をあげると、周囲に敵の気配がしたので堪らず絶界陣で守る。


 ――――ッ、ッッ!!

 どこから現れたのか、オークが結界にぶち当たり血を流す。


「はぁ、はぁ……オリビア?」

 サンドワームに喰われて行った彼女は、どうなった?


 ――邪魔するなこの巨大クソペ〇ス!

 彼女はまだ生きているようだ、汚い罵り声が聴こえる。


 問題は、圧倒的に戦力で劣っている僕達が分断して戦っていることだ。

 一旦アビスを呼び戻そう。


「何だチンケ」

「オリビアがサンドワームに喰われた、助けてやってくれ」

「誰だそれは?」

「さっきまで一緒にいた白髪の彼女だよ!」

「……チンケ、この程度の魔物も退けられないのか? 何しにここにやって来た」


 足手まといになりに来たのか?

 とか何とか、彼は僕を挑発してくれる。


「分かった、ならアビス、僕を魔物の群れに連れてってくれ」

 無論、オリビアを助けてから。


 そう言うとアビスは周囲のオークを薙ぎ払い、僕を結界ごと持ち上げて――!

 サンドワームの方へぶん投げた。


「何するんだバカぁ!」

 で、僕も例のサンドワームに喰われる。

 魔物の腹の中ではオリビアが窮屈そうにしていた。


「イクトか?」

「絶界陣、これでしばらくは持つよ」

「いや……お前とここまで接近すると、してるみたいだな」


 確かに、オリビアとここまで身体を寄せ合ったのは初めてだ。

 魔物の血生臭さに混じって仄かに彼女の匂いが薫って来る。

 彼女のお椀型の胸が、僕の胸郭に押し付けられ、多幸感を覚えてしまう。


「……イクト、この戦が終わったら、私と」

「それ以上先は言うな」

「……私にも、お前の寵愛をくれないか」


 僕は、賢者ブライアンからたった一つだけ要求されていたことがあって。

 彼は僕に子供を作って欲しいと願った。

 マリーは体質的に子供を宿せないようだし、もしも。


 もしも、賢者の願いを聞き届けるのなら相手はオリビアしかいない。

 当然だろ、僕は選り好みできるような器じゃない。


 サンドワームの腹の中は真夜中の部屋のように暗い。

 暗視も利かないこの状況では、彼女のキスは避けられなかった。

 そしたら――彼女が手にしていた魔剣ディアブラッドが夥しい熱量を発し始めた。


「ありがとうイクト。今ならこのクソペ〇スぐらい、――わけない」

 すると暗かった視界に光が射し込み、オリビアの凛として表情が見えた。


 剣だ。

 彼女が手にしている魔剣が光を放っているのだ。


 その光によってサンドワームの肉体は滅び。

 僕達は自重(じじゅう)に従って地面に落下する。


「痛」

 僕は尻もちを搗いたが、彼女は無事に着地している。

 下から見上げると、彼女は目を瞑り全身に滾る恋愛感情を噛みしめているようだ。


「……さあ、クソども、私が相手をしてやる」

 彼女の手によって魔剣が振られると、残光が傍に居た魔物へ放たれる。


 不思議なことに光に触れた魔物は白い砂と化し、致命傷を負うのだ。


「チンケ、今の内に俺と斃した魔物を合体させろ」

「……ああ、この戦いに勝とう。そのためには君の力が必要だ」


 ――アビス。


 僕の想定だと、君は世界中のどの魔物よりも強くなるよ。

 そして世界中が君の強さを認めたら、その時は魔王を名乗るといい。

 それこそが、僕がこのキャラバンを始めたもう一つの夢。


 僕は僕の手で魔王を生み出したくなったんだ。

 例の合成能力というチートを手に入れた時からね。


 にしても、オリビアはまるで人が変わったように無双しているな。

 オリビアの体捌きはサイラスのお墨付きなのは知ってるが。


「怯むな憶するな! 貴様らそれでも魔物か! 掛かってこい! ここに居るのは一人のか弱い婦女子だぞ!」


 彼女は次々と襲い来る魔手を払っては薙ぎ倒す。

 魔剣だけの能力じゃなく、時にはサブミッションで敵を屈服させていた。


 オリビアの後を追い、僕はアビスと倒れた魔物を次々と合体させている。


「……チンケ、もっとだ。もっと贄を俺に差し出せ」

「怖いこと言うなよ」


 目を閉じ、アビスの灯火と、他の魔物の灯火を一つにする。

 目を明けると彼の容貌は見るからに変化していた。

 不思議なことに彼の容貌は合体するにつれ人間に近づいているのだ。


「どうしたクソ豚ども、貴様らご自慢の怪力で私を捕まえて見せろ!」


 オリビアって、きっと尻上がりの性質なんだろうな。

 そこから僕達の快進撃は続き、僕達は平原を突き進む戦車にでもなった。


「ほら鳥人間、その翼もいでやる! 地に落ちて泥を啜って生き地獄を味わえ!」

「チンケ、もっとだ」


 殲滅戦を繰り広げている中で、一番平常心に近かったのは僕だ。

 凄惨な光景によく正気を失ってないなと思う。


 戦場では魔物の血が飛び、オリビアの狂騒が刺さり。

 倒れた魔物は全てアビスが取り込んでいる。


 すると、一望できる魔物の群れの半分を消化した時。


「大将のお出ましのようだな」


 アビスの妹で、魔物に指示を出していた紅雨が向こうから近づいて来る。

 彼女を斃せば魔物は指示系統を失い、自然に帰るんじゃないか?


「驚いた、兄さんが昔の姿に戻ってるから」

「……ジャンヌ、久しぶりだな」

「驚いたよ、兄さんまだ生きてたんだね」


「シリアルキラーの紅雨だな? 無辜(むこ)な人達を殺害した理由を先ずは訊かせて貰おうか」


 オリビアは魔剣ディアブラッドの剣尖を向けながら問い質していた。


「ジャンヌが人を殺めるのは、操られているからだ」

「誰にだ」

「兄さん、余計なことべらべら喋っちゃ駄目だよ」

「素直に教えろ、さもなくば」


「……さもなくば? どうするの?」

 彼女が殺気をのせて話すと、魔物たちが僕らを取り囲んだ。


 僕は周囲を幾らか見回した後、瞬時に目を閉じた。

 すると僕らの周りに沢山の灯火が映り、生命の輝きに触れて少し感動する。


 こんな窮地なのに、感動するなんて僕もどうかしてる。


「チンケ、こいつら全員、俺と合体させることは可能か?」

「合体? 兄さんは何を言っているの?」


「……いいんだな?」

 アビスの覚悟を問うと、彼はおもむろに空を仰いだ。

 空は、血まみれの戦場とは無縁のように青々としている。


「やるんだチンケ、そしたらお前ら二人はもう帰っていいぞ」

「帰っていいって、そんな訳にもいかないだろ」

「一生に一度のお願いだ、見返りに俺は生涯お前に尽くそう」


 思うに、アビスは僕やオリビア以上に目的意識が強い。


 その彼が全てを投げ打つような契約を示唆するほど、相手を斃したいらしい。


「待てアビス」

「何だアバズレ」

「……アバズレ?」


「オリビア、アビスは本気のようだし、ここは彼の言う通りにしよう。それとアビスの悪口に付き合ってたら疲れるだけだから」


 だから、そう殺気立てないでくれ。

 僕は再び目を瞑り、周囲に絶界陣を張ると。


「殺れ」


 紅雨の凄惨な一言と共に、魔物の群れはアビスを呑み込んだ。


「イクト! 本当にあいつ一人に任せていいのか!? お前らは一体何を考えて――!」


 魔物の阿鼻叫喚に負けぬようオリビアが何か言っているけど。

 僕はアビスに言われたままに、彼と魔物達を融合させ。

 異世界アルビーダの人間の誰しもが一目置く存在に昇華させるよう努めた。


 異世界アルビーダで最強にして絶対的な存在。


 魔王へと。


 ◇


 キャラバンに帰るとグレアが涙目になっている。

 どうしてと訊くと、彼女はアビスが死んだと思ったらしい。


「大丈夫だよ、アビスは生きてるから」

「……はい」


「お疲れお前ら、少しはレベルアップしたかね?」

「マリー、この後でちょっと話がある」

「は?」


 オリビアはマリーと密談するつもりらしい。

 きっと、またマリーの機嫌が悪くなるだろうな、どうしよう。


「そう言えばラプラス、リュトは帰って来てる?」

「あの子でしたら、何でも引き出物を今は探してるとか」


 引き出物ぉ?

 もしかして、リュトはとうとう結婚にこぎつけたのか。


「お相手は三つ子全員らしいですよ」

「チーレム!?」


 アビスを一人置いて来たが、僕は仲間と談笑するほど自信があった。


 彼は絶対に勝つ。

 そうでなければ魔王を謳う資格はないだろうし。

 そうでなければ、僕は彼を独り置いてきたりしない。


 紅雨とアビスの決闘は七日間続いたようだ。


 ある日のこと、夜を迎えた僕は彼の様子が気になって西の空を遠望した。

 すると、夜空に淡い光が立ち昇っている。


「……やったのか、アビス」


 それともやられのか。

 どちらにしろ、二人の決闘に僕らが介入する余地はなかった。


 ――もしも俺がやられたら、妹のことはそっとしてやってくれ。


 彼のこの一言を反故にするのは酷薄だから。

 他にも理由はあったさ。

 彼と交わした会話から汲み取れる二人の因縁を、僕なりに感じたわけだ。


 翌朝、彼の勝敗の如何にしろ、僕達は次の街へ旅立つ。

 いつまでもこの街に止まっていてもドワーフ族には会えないだろうし。


「寝るか、頑張れよアビス」

「寝言は寝てから言えよチンケ、使い魔とは言え、度が過ぎた放任主義に俺も眠たくなる」

「……やっぱり」


 君は必ず生きて帰って来ると信じていて良かった。


 この再開の時、僕は気を抜いていたから反動的に喜びも大きく。


 彼は彼で、勝利の凱旋から安堵するよう、――笑んでいた。


どうも皆さん今晩は。

キャラバンストーリー編も今回で最後となります。

昨夜前以て言いましたように――もうストックがありません!


勝手ながら、次の章で今作も終わりとなるよう動いている所存です。


これまで皆さんのご愛顧を承れて、本当に嬉しかったです。

慣れたものですが、やっぱり作品の最後を迎えるのは哀愁が込み上げて来ます。


それでは、今から一週間、ぐらい、の猶予を頂き。

最終章『ジ・エンド編』を全身全霊で盛り上げていきたいと思います。


次回の更新は2019年6月17日の月曜日を予定しています。

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