酷な現実をイクトは傍観す
「紅雨? 紅雨と言うのはあそこにいる魔物じゃないのか?」
サイラスに紅雨の情報を与えると、アビスを指差した。
大人の人間よりも一回り大きい恰幅をした一見化け物のアビス。
僕は彼を見て、どう考えてもやり過ぎたなとちょっと引いた。
「彼は僕の使い魔だよ、名前はアビス」
「さすがはイクトだ、あんな強そうな魔物をよく使い魔にしたな」
とは言うが、当初の彼はてんで大したことなかったのだよ、ふっふっふ。
「クロエは断固として使い魔は取らない主義でな」
「ん? それはどうして?」
彼の横に佇んでいた彼女は朴訥な表情で口を開いた。
「……痛いのは嫌」
ああ、なるほど。
使い魔の儀式にはどうしても苦痛が伴うからな。
「紅雨のアジトは判ってるんだ。悪いけど付き合って欲しい」
「報酬は?」
「……ない」
「イクト、俺達もタダで動くほど、生活が楽じゃないんだ」
サイラスは無表情のまませめて富の代わりに名声を求むと言う。
彼は生まれながらの戦闘狂だと思ってたけど、意外と功利的なんだな。
「その人は誰ですか?」
「クロエじゃないか、私の書置き見てくれた?」
マリーがグレアを連れ立ってやって来た。
そうか、マリーが二人に書置きを残してくれたのか。
クロエさんを気に入っているマリーは破顔して抱き付いた。
うむ、この二人だったらレズってもよし。二人のレズリングを想像してると、何故か僕とサイラスのボーイズラブにイメージが遷移する。まったく、とことん腐ってるな。
「サイラス、紅雨の被害はこの街にとって甚大なものらしい」
「なら、俺が斃す」
「待ってくれ、実はこのパーティーは――」
そこで僕は素直に経緯を話した。
僕達が紅雨の襲撃に遭い、街のみんながどう誤解しているのか。
「つまり、何をどうしようとも、功績はお前達のものになるのか」
「ごめんな、僕にこの誤解を訂正するような勇気はない」
以下にも陰キャ体質の思想だった。
僕が陰キャなら、マリーは陽キャ。
でもサイラスは陰陽のどちらでもない。
「ならイクト、お前の成長をこの機会に確かめてやる」
サイラスの場合徹底した剛キャ。
成長を確かめるって、要は放置プレイってことだ。
「どうした?」
放置プレイですらない、監視されてるじゃまいか。
◇
だからなのかな、僕はアビスとオリビアの三人だけで紅雨討伐に出向いたのは。
街はサイラスが守ってくれるんだそうだ、頼もしくて涙が出るぅいうてな。
「「「……」」」
このパーティーは意外と相性が悪い。
みんながみんな、負け犬体質で、かつて凄惨な敗北を味わった。
そんな三人が集ったって、文殊の知恵とはいかない。
「チンケ、俺は先に行って敵を牽制して来る」
敵の根城の南東三キロ地点にある密林の出口で僕達は姿を隠している。
ここから先はまっさらな平原があって、敵に気取られやすい。
強大な敵に対し陣地を中央突破では勝機は見いだせない。
「待ってくれアビス、敵勢力を把握してるのか?」
「ああ、敵が俺の妹ならの話だ」
「……ごめんな、君達兄妹は争う必要なんかないのに」
「……もしも俺がやられたら、妹のことはそっとしてやってくれ」
――俺達の闘争は百年前から仕組まれた運命。
「俺が斃すか、妹が勝つか、そのどちらしか残された道はない」
「お前達は訳ありのようだな」
オリビアは二人の兄妹仲をそう見越していた。
アビスは後ろを振り向かないまま、哀愁を負った背中で中空に飛び立つ。
そしたら敵の根城から魔物の群れがやって来てしまった。
「馬鹿が、これでは敵を焚きつけただけではないか」
「仕方ないよ、二人は訳ありなんだから」
まるで黒雲のような魔物の群れに、黒い出で立ちをしたアビスは突撃して行く。
黒雲の中から一際酷い断末魔が上がって、僕は一瞬身を竦める。
血液が沸騰して、緊張と興奮が顕著になった。
マリーと決闘した時も思ったけど、やっぱ。
――現実って、案外残酷なんだな。
会議室=オアシス……かゆうま。
つまり意味などない雑文です、かゆうま。
所で、私はここで一言お詫びと謝罪をしないといけません。
まだまだ荒い拙作ではありますが、お読みになってくださった皆様にお礼申し上げます。
拙作は次の章で終幕しようという意向でいます。
今までお付き合いくださった皆様に感謝の意を示すと共に、ちょっとしたご相談。
実は次で終わろうと考えてはいるのですが、ストックが足りず掲載するには準備が不十分なのです。
なので、次の章――ジ・エンド編の更新は一週間ほどの猶予を下さればと思います。




