運命と討伐
紅雨に襲撃され、負傷者を出した晩、僕はマリーと肌を重ねた。
急に不安になったからだ。
マリーを失う怖さはロキ王子の一件で体感したから。
いずれ死が二人を別つまでの間、僕は彼女を愛そう。
何億年も過ごしている宇宙から見たら刹那的な愛だ。
だから、僕と彼女の愛が世界を変えることはない。
マリーと睦み合っている間、使い魔についてのレクチャーを受けた。
試しにキャラバンの近くで使い魔の召喚をしてみたら。
「チンケ、俺は物凄く疲れた」
アビスはへとへとの状態で、帰って来るなり前のめりに倒れる。
「へいきー?」
倒れたアビスをジョージが心配そうにしている。
そう言えば、ジョージにも感謝しないと。
マリーから聞いた話だと、ジョージは今回の襲撃事件で活躍したらしい。
僕は全長三メートルはあるジョージに抱き付くようにして、お礼を言った。
ありがとうジョージ。
「ピゴー」
なんだよ、照れてるのか?
「チンケ、とりあえず腹ごなしとして何かくれ」
「それなら今朝釣って来た魚をあげます」
空腹を訴えるアビスに、すっかり快復したグレアが魚を分け与える。
「昨日は、ありがとう御座いました。貴方のおかげでまた生きて釣りが出来ます」
「……クク、世の中酔狂な奴がいる。だから面白い」
「鬼釣り、今回の釣果は今まででいっちばん獲れたね」
「ですね」
釣りにはモモも付き合ったらしい。
モモは戦力的には頼りないけど、心のより所としては頼もしかった。
「お早うお前ら、今朝もさっぶいなー」
「って言う割にはあんた薄着だね」
「昨日はイクトが暖めてくださいました」
マリーの惚気に、キャラバン内の空気は微妙はものになる。
ラプラスは「私は駄目で、自分はいいとはどういった不条理ですかね」と怒っていた。
それはひとえに愛の有無だ、とは表立って言えない。
その言葉に欺瞞的な感じがしたのと、羞恥心もあった。
「今朝はバーベキューにしました。何やら予感がしましたので」
「おぉー、いいじゃんバーベキュー」
冬国でのBBQも趣があっていい。
ラプラスはBBQの会場はこちらですといい、僕達をフリマへと連れ立った。
「おぉ兄ちゃんたち無事だったか、紅雨に襲われたって聞いて心配したわ」
会場には僕達キャラバンの最初の客だった壮年の男性――ダフマンがいた。
「その節はご心配掛けたみたいで、申し訳ありません」
「謝ることじゃねぇよ、な? バーベキューの材料は適当に置いておけ」
こうして、僕達は街の皆さんとバーベキューをして、交友を深めた。
街のみんなは何故か僕らに口々にお礼を言っていた。
「イクト、どうやら民草は大変な誤解をしているぞ」
「ああ、彼らは僕達が紅雨を斃したと思ってるみたいだな」
オリビアも街の人にお礼を言われ、不思議に思ったらしい。
キャラバンが紅雨を退けたことには変わりないけど。
紅雨の被害はこの先出ない。と言うのは間違いだ。
「……思い出した、アビス」
「ん? 俺は腹が減って話してる場合ではないのだ」
「紅雨が君のこと兄さんって呼んでたけど、あれは?」
「……単なる人違いだろう、俺の妹の名はジャンヌ。紅雨とかいう輩は知らん」
「そんなのちょっと考えれば判ることじゃないか」
紅雨と言うのはラピュタ街のみんなが畏怖から名付けた通称で。
彼女の本当の名はジャンヌというのだろう。
「君の妹さんは、怖気めいてるな」
「貴様に姉妹はいないのか? 仮に居たとして」
「違う、君の妹さんは怖気めいてるほど、綺麗だって言いたかったんだ」
「……」
するとアビスは頭をかゆそうにしていた。
それが僕には動物の野生と、知性が入り混じった仕草に見えた。
「それよりもチンケ、俺はもっともっと強くなる必要がある」
だからもっともっと、魔物を寄越せと彼は強い口調で言う。
「強欲だなぁ、君を今の姿にするのにいくら掛かったか知って言ってるのか?」
「クク、どうせ大した額じゃないだろう。チンケの小遣いなど高が知れてる」
……彼には、魔石工房を営んでいた時の年収の五〇%はつぎ込んだと思う。
どうして魔物って高いんだろう。
魔物の素性は魔石生物で、生け捕りするのは難しいからかな。
「魔物を取り込みたいのなら、君の手で捕獲して来いよ」
と言えば、アビスは足元に居たヘンリーを鷲掴んで。
「ほら」
「ほら、じゃねーし」
やめろよ、ヘンリーはキャラバンの弄られキャラじゃないんだから。
「また、彼女が襲って来ることはないのでしょうか?」
「紅雨に何か用でもあるのかラプラス」
「いえ、私ではなく、アンリが最期に一目会いたいと」
アンリちゃんが? 殺されかけてそう言うのは凄いな。
「アンリはナルシストなのですよ、ああ見えて」
「へぇ、そうなんだ」
「恋に恋してると言いましょうか」
「所でアンリちゃんの具合はどうだ?」
「怪我はもう完治してる筈ですが、心はどうでしょう」
今回の事件ではグレアの負傷が一番酷く。
アンリちゃんは右腕骨折をし、背中に切創を負ったと聞いている。
二人が心配だ。
僕はアフターケアの一環で先ずはグレアの様子を見に行った。
「グレア、今回は傍にいてやれなくて悪かった」
「……一つ訊かせてください」
「なんでも」
「私の村を旅立つ時、兄さんから何て言われたんですか」
「もう覚えてないけど、君を心配してたし、確か」
確か、グレアの兄トールは妹の夢を応援していた。
そう伝えるとグレアは負傷した右腹部に手をやる。
「……もう一つ訊きたいです」
「どうぞ」
「アビスは、敵なんですか?」
彼女の質問に、僕は間髪容れずに否定した。
彼女は安堵したような顔をしている。
「でしたら、彼を強くしてやって下さい」
そう来るか。
グレア×アビスのカップリングは想像してなかったけど、萌える。
重要なのはグレアが毒舌攻めで、アビスがヘタレ受けであることだ、キリリ。
次に、僕はアンリちゃんを探した。
彼女はどこにいるのだろうと周囲を見渡すと、オリビアと一緒に居た。
しかし……二人の雰囲気、いや、仕草が妙だ。
遠巻きに二人を眺めているが、アンリちゃんの頬にオリビアが手を添えている。
そして二人は肉薄して……キスしたな。
後でオリビアにどういうことなのか訊きたいが、僕はその思い出をそっ閉じした。
「イクト」
複雑な心情でいると、背後からサイラスの声がした。
「サイラスか、よかった」
「……どうした? やけに表情が綻んでいるが」
「ふぇ?」
僕は、オリビア×アンリちゃんのカップリングに悦んでいた?
重要なのは制服姿のアンリちゃんにオリビアが「アンリ、タイが曲がっていてよ」ってな!
とにかくサイラスが来たからにはもう大丈夫。
僕達は紅雨を討伐する運命にあったようだ。
お笑い界も、おもむろに世代交代が起きてますね……大草原です。
芸人の中でどのコンビが好きかと問われれば、誰だっていいです。
面白くて、クリーンな印象を受ける人なら誰だって。
私は笑いの沸点が異様に高くて、笑う所は笑いますが中々厳しい感覚の持ち主です。
そんな私が目指してるのはお笑い界との互恵関係ですね、キリリ。
一発芸はありません、無茶振りしないで下さいキリ。




