方法は一つだけに残された
ある日。
街の中。
ラプラスさんに出逢った。
しかし。
ラプラスさんは。
あろうことか。
最中だった。
「ねぇ、あの人どうして男をえり好みしないの?」
「ラプラスはTPOの概念を知るべきだな」
アンリちゃんが馬車の外で読書しているから何事かと思ったら。
馬車の中では悪魔が盛っているから、なるほどと合点がいった。
「TPOもそうだけど、好きな人としてなんぼじゃない?」
「同感だけど」
ラプラスの気持ちも判らなくもないんだ。
淫蕩な人って、どこにでもいるだろうし。
「……試しに私と寝てみる? それでラプラスの気持ちが分かるようになるかも。なんてね」
いかんな。
このままでは一人の純情な女子高校生の心根が腐ってしまう。
彼女は父親であるロキ部長から預かった大切な子だ。
「グレアは?」
「この前のフリマで味を占めたみたいで、釣りしに行ってる」
マリーはオリビアと内密の話があると言って出かけてるし(怖い)。
モモ先輩は知り合いと飲んで来ると言って席を外しているし(嘘やん)。
リュトは三つ子とイチャツイてるようで見掛けないし(ガンバ)。
「アビスくんはグレアの護衛として付き添ってる」
最早原形を留めてないネ申は釣りに付き合ってるらしい。
空を見上げれば雲が近くて濃淡がはっきりとしている。
ここって、景観はいいけど、天空に近すぎて怖いよな。
「天気予報だと、夜から雷をともなった大雨だって」
アルビーダの天気予報はその地域に専属の占い師がいて、一〇〇%的中させる。
この魔術は地球にも取り入れた方がいいだろうと部長には提案してあるが。
ドワーフ族を探す旅を終えて、地球に帰った時が楽しみでしょうがないよ。
「で、ここからが大切な話なんだけど」
「大切な話って?」
「雷雨の日には、出るんだって」
怪談口調で語り始めたアンリちゃんに、恐る恐る何がって訊くじゃん?
「シリアルキラー、通称ラピュタ街の紅雨……被害者は少なくとも十人はいるとか」
そしたらマジもんの、通り魔の情報が語られた。
僕達が設けたキャラバンの規則に――
滞在した街で何かしらの貢献をしてから次の街を目指す。
というのがあって、まだ果たせてない感じだ。
なら、そのシリアルキラーを捕まえることぐらいは出来ればしたいが。
危険かなぁ? それに極力戦闘は避けるって方針に反するし。
「……とりあえずラプラス、もういい加減にしてくれよ」
僕は勇気を振り絞って彼女の情事を中断させ、相手の男にも文句を連ねた。
ラプラスは相手に対して恭しい礼を残し、好印象を掴んだようだ。
このビッチ、実は清楚系ビィーッチだったか。
いやラプラスのことだから色んな仮面ビィーッチを演じて来たのだろう。
「TPOを考えるべきはイクトの方かと思いますよ」
アンリちゃんとの会話が聴こえてたのか。
それにおいたってラプラスからTPOで注意されたくないわッ。
「ラプラスは結婚願望とかないのか」
「私には不特定多数の殿方がおりますので、以前も申し上げました」
駄目だこいつ早くなんとかしないと。
「はあ、早く運命の相手に巡り合いたい」
ラプラスの尻軽とは真逆の思想のアンリちゃん。
「にしても、シリアルキラーか。二人とも夜道には気を付けてくれよ」
「ご心配の御言葉だけでヌレッヌレです、ありがとう御座います」
このビッチのせいで十八禁待ったなしだな。
止めてくれよ、下手に十八禁だと、容赦なくグロイ展開になるんだから。
例えば僕の最愛のマリーが、〇〇を〇〇〇〇れて喰われて……。
想像しただけでも全身に鳥肌が立つ。
キャラバン内で貴重な午前を無碍に過ごしていると、マリー達が帰って来た。
マリーは不機嫌そうにしていて、オリビアは元気をなくしている。
「お帰り二人とも」
と言うのにも、かなりの勇気を要した。
「「……ただいま」」
二人とも今は誰かに話し掛けられたくないらしい、語調が詰まり気味だ。
彼女達にも一応シリアルキラーの話を聞かせたいんだけどなあ。
「……マリーさんはイクトくんのどんな所が好きなの?」
「んー……? 知らね」
「じゃあオリビア様は?」
「悪いなアンリ、今はイクトの話はしないでくれるか」
酷い、本人を目の前にして。
傷ついた、実家に帰らさせて頂きます。
そして僕はキャラバン内にある装置で一旦地球のはてな村に帰ったんだけど。
「あらイクト、帰ってたのね」
家では妖艶なエロフのミーシャが休息を取っている。
「カインが怒ってた、どうしてイクトさんは僕を蔑ろにするんだって」
「そう言われても、怒らせたつもりはないんだけど」
彼は忙しそうにしていたので、僕としては気を遣ったつもりでしかない。
「それで、ドワーフ族は見つかった?」
「いいや、まだだよ。まだ旅は始まったばっかだし、特に進展はないかな」
「お土産の一つもなく、お土産話の一つもないのね。失望した」
ミーシャの失望を他所に、僕は家の中を一通り見渡した。
「こっちも特に進展はなさそうだな」
「……ふふん、そうかもね」
僕は偶の憩いだと思い、そのままバルバトル三世が営む風呂屋へ向かった。
風呂屋の番台には相も変わらずバルバトス三世が鎮座している。
「おうイクトか、旅はどうした?」
「ちょっと大きなお風呂に入りたくて、一時的に戻りました」
「ゆっくりして行くといい」
そうさせて貰います。
◇
「ピゴー」
「ん? ヘンリーじゃないか」
お風呂から上がり、水分補給しているとヘンリーがやって来た。
どうやら僕に用があるみたいだけど、ヘンリーはまだ上手く喋れないからな。
「ヘンリーはもう少し頑張ろうな」
「ピゴー」
ヘンリーを抱え上げると、程よい冷たさが伝播して気持ちいい。
嗚呼、いいね……いいよこれは。
僕はすっかりスライム中毒になっている。
その時だった。
「イクト! 今すぐキャラバンに戻って!」
「っ、何か遭ったのか」
「キャラバンが何かに襲撃されてるから!」
血相を変えたミーシャが僕を呼び戻しに来たのだ。
彼女の伝言を聞いた僕の心臓は動悸を激しくし。
移動魔術を使って家へ帰り、またアルビーダへと戻った。
「っ!?」
戻った瞬間、僕の眼下に地面は存在しなかった。
僕は大きく体勢を崩し、落下する。
「何をやっているチンケ」
するとアビスが両翼を広げて僕を抱え上げ、墜落を阻止してくれた。
「何が遭ったんだ、キャラバンが襲撃されたって聞いたんだけど」
「紅雨だ、シリアルキラーの」
ふと気付けば、空は黒い雷雨で埋め尽くされている。
僕とアビスは強い雨雫に打たれながら、前方へ移動していた。
「キャラバンに戻ろう、下ろしてくれ」
「駄目だ、今俺達は件の紅雨を追跡している最中だ」
「何だって?」
進行方向を見やると、拙いことが判った。アルビーダのシリアルキラー紅雨が、グッタモが用意してくれた地球との移送装置を手にして僕らの追尾を巻こうとしているのだ。
一見にして紅雨の姿は魔物だ。
人間の姿をしているが、紅雨は四足で蹴って中空を疾駆している。
「マリーや他のみんなはどうなった?」
「他の連中であれば心配ない、賢者の孫娘が敵を一掃していた」
だけど、奇襲を受けたためか、あの装置は奪われてしまったようだ。
僕は即座に解決策を思索したけど、今は敵を追うしかないようだ。
もしも、紅雨が地球に逃げ込んだらどうなる?
地球とアルビーダの国交に亀裂が入ってしまう。
その事態だけは避けないと、だから今は装置を奪取するしかない。
次第に空を疾駆していた敵は深い密林地帯へと入って行った。
ここで僕達の視界から隠れ、追っ手を撒く算段なのだろう。
察するに、相手には知能があり、常習性の高さも覗える。
「アビス、僕を放り投げて、君は紅雨を今は追ってくれ」
「それでどうするつもりだチンケ」
「二手に別れて紅雨を追うんだ、それで挟撃しよう」
「お前にそれが出来るとは思えないが、好きにするといい」
アビスの腕から離れた僕は、敵の行き先を予測して魔術で移動し。
出来るはずだ、と自分の力に驕ることなく鼓舞をして。
「……絶界陣っ!!」
埋め尽くされた密林地帯の半径一キロほどを、結界魔術で閉じた。
頼む、掛かっていてくれよ。
そう思い、結界の中に対して解析魔術を発現させる。
すると、先程の四足を生やした黒い影が障壁に対し――ッ!
「チンケ、今のはお前がやったのか?」
「逃げられた……」
紅雨は、口を大きく開け、攻撃し、結界魔術を解いて逃走した。
こうなると残された方法は一つだけだ。
実は私、猫が好きでして。
猫、猫、猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫
ねっこねこにしてやんよ。




