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取り間違えたキス


「っくし」

「おう、平気イクト? 馬鹿と何とやらは風邪引かないって言うでしょ」

「大丈夫だよモモ、今のくしゃみは誰かに噂されたんだろ」


「噂ねぇ……あんたとマリーの仲はこの先何が遭っても揺るぎないんだから、胸張ってればいいんだよ」


 モモさんは時折良いことを言うキャラだったか。

 モブの中でも人気を博すキャラ付けじゃないか。


「それじゃ私は寝るね、後のことはよろしく」

「ああ」


 モモやアンリちゃん達は交代交代でジョージの手綱を握っていた。

 地球の利便な暮らしに浸っていたアンリちゃんがどうしてこの旅について来たのか。

 僕は彼女にまだその理由を訊いてなかったな。


「チンケ、風邪を引いてるのなら俺に任せろ」

「チンケじゃないって言ってるだろアビス」

「チンケだから風邪を引いたんだろ? 隣失礼するぞ」

「ああ」


 北へ北へ、一心に北へ進むキャラバン。

 北へ向かうのは隣にいるアビスがこの方角に街があると教えてくれたからだ。


 昨日のことだったか、ジョージが異常に喜んでいた。

 何事だろうと思えば、一帯に雪が降り始めていたんだ。


 だからキャラバンは今雪原を突き進んでいる。

 辺り一面夜闇の中を、ジョージは身体を淡く発光させ照らしながら進んでいる。

 空を見上げれば銀の星が静かに瞬く幻想的な風景が映った。


「……そんなに物珍しい光景か?」

「珍しいというより、何だろうな……でも地球じゃ中々お目に掛かれない」

「地球とは? お前達の故郷か?」


 そう言えばアビスはまだ地球に来たことがなかったかな。

 彼が魔王を自称する限り、地球のことは伏せるべきだろうか。


「そう、地球は僕や他のみんなの故郷だ」

「道理で、お前達の能力は規格外なはずだ」

「……にしても綺麗だよな」

「ああ」


 今の彼の発言は、どういう意味だろう。

 彼は地球を元々知っていたのか? じゃなきゃ――道理で。

 と言った台詞の趣旨が汲めない。


「ジョージ、この先に街の気配はありそうかな?」

「ないない」

「そうか、まだ当分先みたいだな」


 なら僕は音楽でも聴きながら、この佳景にしばし見惚れていよう。


「チンケ、耳に嵌めてるものはなんだ?」

「ただの耳栓だよ」

「……チンケ、その耳栓から音が漏れてるが」

「アビスも聴く?」

「何をだ、チンケの呪詛か?」

「僕の呪い言葉は一度耳にした以上絶対に解けない」


 僕は、アビスにだけは限りなく嘘を吐いていた。

 仲間の中でも彼は反乱分子たり得る危険因子であれば、心中を打ち明けられないから。


「チンケ、今の話を総合すると、お前は半魚人と人間の間に生まれたクォーターで、末は陸王と持て囃されて育った海人と書いてウチナータイムと読む世界でも最高峰のスパイとなるぞ」


 けど、嘘を吐くにしたってどんだけだ。

 これはさすがに嘘だとバレる、バレてまう。


「もっと詳細な話を聞かせてくれないか」

「いや、詳細な話って言われても、所詮嘘だし」


 と言えば、白毛に覆われた彼の顔がマントヒヒのように赤くなった。

 僕の胸倉を掴んで、嘘を吐かれたことに腹を立てている。


「けんかはやめー」

 ジョージは僕達の様子を窺い、健気に仲裁していた。


「嘘を吐いたのは悪かったけどさ、さすがに察しが悪すぎないか」

「自分の非を他人のせいにするのか?」


 もう彼に嘘を吐くのは辞めよう。

 嘘は吐かないが、代わりに極力話さない。

 僕はまだアビスを信用しちゃいなかった。


「悪かった、今度は君の嘘を聞かせてくれよ」

「それは出来ない。俺は嘘を吐けない悪魔なのだ」

「って言う嘘か」

「何故分かった」


 彼や、ラプラスを見ていると心底不思議に思う。

 ――悪魔って一体何なんだろう、と。


 ラプラスはマリーと喧嘩する度、神の慈悲を口にするし。

 アビスは猜疑心を全く持ってない様子の、良心的な悪魔のようだ。


 僕のイメージだと、悪魔はもっと腹黒いし、得体が知れない気味悪さがあるんだ。


「アビスが教えてくれた街、一向に着かないな」

「いずれ着く」

「嘘じゃないよね?」

「……クク」


 彼の苦笑する姿は想像していた悪魔的な反応だったので、ちょっと腑に落ちた。


「心配するな、俺はお前と違って卑怯じゃない」

「賢いって言ってくれよ」


 今にでも降って来そうな銀色の星達が、先の空に行くにつれ暗い色彩をしていた。

 夢にも見なかった絶景を、僕は口惜しく見詰めている。

 この光景は明日には無くなっているものだから。


「チンケ、俺の質問に答えてくれ。嘘はなしだ」

「別にいいけど、答えられないことの方が多いよ?」

「貴様はジャンヌという名の悪魔を知ってるか? 女の悪魔だ」


 ジャンヌ? と訊き返してしまうほど、その悪魔に心当たりはない。

 アビスの質問に今度は嘘を吐かず答えると、彼は視線を落とした。


「……やはり貴様は正真正銘のチンケというこか、役立たずが」

「どうとでも言ってくれよ、君よりは使えるつもりだ」


 反駁すると、彼は畳んでいた漆黒の両翼を広げ、キャラバンの前を行った。

 余りにも唐突な彼との別れを理解したのは、しばらくしてからだった。


 次第に朝日が昇り、マリーが起きて来て僕にキスをする。


「お早うイクト、キャラバン内は暖かいけど、御者席に来ると寒いな」

「お早うマリー」


 と言い、今度は僕から彼女にキスをした。

 僕のキスを素直に受け止めたマリーは、陶然としている様子だ。


「まだ眠いなら寝てていいよ」

「ああ、お休み」


 するとマリーは僕の左肩に身体を預け、再び寝息を立て始める。

 彼女の全幅の信頼を一心に受けた僕は、幸せ者だな。


「ジョージ、少し速度を落としてくれ」

「あい」

「疲れたら素直にそう言いなよ?」

「あいー」


 ジョージに速度を緩めるよう指示して、今はマリーとただ睦んだ。


「……お早うございます」

「あ、お早う。まだマリー寝てるから」


 年季の入った三角帽子がトレードマークのグレアが起きて来たようだ。


「もう少ししたら、きっと街に着きます」

「そうなんだ。その街はどんな所だろう」

「兄さんが言うには、アルビーダでも珍しい惑星型の街だと言ってました」


 惑星型の街? 何それ。


「何でも、ある日アルビーダに巨大隕石が落ちて来た日があったそうです。街はその隕石を地盤にして創られたそうで、四六時中空に浮かんでいるらしいです」


 空に?


「じゃあ上を注意しておく必要があるのかな?」

「ですね」


 言われて空をグレアと一緒に見上げると。

 僕の肩に頭を乗せていたマリーがずり落ちて、一瞬ひやっとしたよ。


「街に着くまで代わりましょうか?」

「頼めるかな」


 とすると、マリーを連れて僕も寝よう。ぐへへ。

 彼女と同衾しても、誰からも怒られない。

 だって僕達は夫婦なんだから。


 ◇


 しばらく寝入った後、目が覚め、隣にマリーがいないのに気付いた。

 起き上がってキャラバン内を見渡すと、誰もいない。


「ジョージ、みんなは?」

「釣りしにいったー」

「……早速か」


 現在の居場所は名も知れぬ街道に沿った川辺だ。

 グレアは川を見つけた瞬間、ジョージを引き留め釣りに向かったらしい。


 僕以外が居ない所を察するに、全員釣りに向かったようだ。


 川のせせらぎと共に、女性達の姦しい黄色い声が聴こえる。

 声のする方へ歩むと、黄色い声が徐々に野太くなって来た。


「ウオオオオオオオ!」

「いいぞモモー、もうちょっとで大物ゲットだな」


 モモが唸り声をあげ、暴れる釣竿とファイティングしている。

 やっぱりモモ先輩はパネェす。


「起きたのか?」

「お、居たのかオリビア」


 オリビアは釣りしているみんなに隠れるようにして、木に背を預けていた。


「もう直、次の街に着くんだそうだ。そこで私は思った訳だが」

「何を?」

「私達はまがいなりにもキャラバンなんだろ? 街に着いたらどうする」


 つまり、僕達はキャラバンとして商売をした方がいいと?

 オリビアは逞しい商魂をちらつかせ、僕を指先で招いた。


「今モモ達が魚を釣ってるのは、少しでも商品を増やす目的があるらしい」

「建前だろ?」

「そうだな。だがいいじゃないか、こんなのどかな時間を過ごすのはいつ以来だ」


「そう言えばそうだ、久しぶりにゆっくりしてる気がするよ」


 今は時間や、人間関係や、国家と言ったしがらみがない。

 原始的ではあるが、それ故に僕らは自由だ。


「おっしゃあ! 巨大魚獲ったどぉおお!!」


 川辺に居た一同はベンチプレスのように魚を掲げるモモさんに拍手する。


「いいぞモモー、早速刺身にして食べようじゃん」

「では職人、お願いします」


 モモから釣果を差し出されたグレアは瞬時に魚を三枚におろしてみせた。

 みんなして感嘆すると、彼女は高速で調理を開始する。


「お株取られたなラプラス」

「厄介事が一つ減って良かった。と言うべきではないでしょうか」


 ラプラスには一切の皮肉が通じないようだ。

 こういう時の彼女は大抵、男のことを考えている。

 次の街に着いたらこのビッチをよく監視しないとな。


「……何ですイクト? その卑しい目は」


 何って、監視してるんだよ。

 悪魔特有の筋肉質により、引き締まったヒップライン。

 胸もないわけではないが、豊満ではなく整ったと言った方が適切だ。


 したら、このビッチはズボンの留め具を外し、僕に下着を露出した。


「変態さんだー」

「私には殿方の劣情を過敏に感じ取る器官があるのですよ。見てみたくありませんか?」


 と言い、ラプラスは暴走列車と化してしまったようだ。

 火照り切った身体と渇望を埋めようと、積極的に僕に言い寄るビィーッチ。


「ラプラス、一つ私と勝負しないか?」

「貴方とですか……別に宜しいですが」


 オリビアは僕を庇うようにラプラスに勝負を申し出る。

 その隙をついて僕はマリー達の許に行き、新鮮な刺身にありつく。


「何であそこは火花散らしてるんだ?」

「詳しい理由は僕も知らないな」


 なんて風に、マリーの疑問に素知らぬふりしてやり過ごす。


「以前からお前に興味があった、カガトの素性を知ってしまった時からな」

「そう言った話は興味ないのですが、私はカガトに無関心ですので」


 オリビアは魔剣ディアブラッドを抜くと、ラプラスに構えた。


「お? オリビアが抜いたぞ」

「何あいつら、もしかしてここでやり合うつもり?」

「そんなはずないよモモ、二人には闘う理由なんてない」


 そうだよな? 確信はないけど。


「……どうしたのです? かかって来るのなら早くして下さい」

「この魔剣は私の感情に左右される難物ともあれば、迂闊な真似は出来ん」

「以前から思ってたのですが、その剣はナマクラ同然なのでは」


「侮辱するな、こいつはイクトから貰った大切な――」

「大切な、不倫免罪符ですか?」

「ッ! 親子そろって人をけなすのがよくよく上手いものだなッ!!」


 勝負は一瞬で決着した。

 オリビアが激昂し、ラプラスに突撃すれば――――!


「「あ」」


 オリビアが初太刀を繰り出す瞬間、ラプラスは先の先を取って、的確にオリビアのみぞおちを拳で穿った。その衝撃は傍目で見ていた僕達の許に一陣のそよ風となって伝わる。


 強い。


 まさかラプラスがここまで強かったなんて、知らなかった。


 ◇


「気付いた?」

「……酷いものだな、私が醜態を曝したのも、これで何度目だ」


 二時間後、僕から治療を受けていたオリビアがキャラバン内で目を覚ます。


「私は、弱い……お前の隣に立つ権利はない」


 彼女は目を見開いたまま涙を流し、現実を受け止め、心根の強さを見せていた。

 その様相は空元気の心理に近かったのかも知れない。


「オリビアはその魔剣の使い方を間違ってるんだよ、だから負けた」

「なら教えてくれイクト、ディアプラッドの使い方を」

「以前も言ったように、その魔剣は生きてるみたいなんだ」


 あれはディアブラッドを仕上げた日のことだった。

 僕は師匠に倣い、連日連夜この魔剣の制作に集中した。

 途中から朦朧とするほど打ち込んで、意識を失うまでやった。


 翌日、目が覚めた僕の手には白いフランベルジュが握られていた。

 その時マリーが様子を見に来て、白かったフランベルジュは紅潮し。

 末恐ろしい力を感じさせてくれた。


 思うに、魔剣ディアブラッドが最大の糧としている感情は――愛情だ。


 だから僕は自信を持って彼女にこの魔剣を贈った。

 それを伝えると、彼女は涙を拭い。


「そういうことは先に言え、クソ野郎」


 笑顔を振りまいて、元気を取り戻しているようだった。


「イクト、次の街に着いたって」


 御者席に居たモモが次の街に辿り着いたことを報せる。


「治療はもういい、ありがとう」

「どういたしまして、でも本当に平気?」

「私を誰だと思ってる」

「その台詞はマリーから死ぬほど聞かされたよ」

「そうか」


 そしたら、僕は自然と彼女にキスをしていた。

 彼女はそのことに目を丸くしている。

 キスした僕自身も、自分が何をしたのか一歩遅れて理解がゆき。


「ごめ、マリーと取り間違えた」


 かもしれない。と頼りなく彼女に謝罪する。

 オリビアは別にいいと闊達に僕を許してくれたけど。

 僕の心境は靄が掛かったかのように、複雑怪奇なものに映った。


 そう言えば、彼女も『賢者の孫娘』だったんだよな。



時代は作詞の時代だ!!


唐突に印税目当ての卑しい心剥きだしてしまってすみません。


しかし、時代は(略。


ここは一つ私も作詞するべきなんでしょうね、では。


作詞作曲:私

 月が泣き、殺戮の太陽が仄かに笑っているように見えた。

 嗚呼、あれこそが神々に愛されしメロス、疾風の如く仲間を憂う。

 Ah、Ah、Yo・Yo、メロスの心得説いてやるYeah。

 奴のすげー所はその足の速さじゃなく、仲間を想うナンバーワンのハート。

 Yeaaaaah。


……黒歴史って奴か。

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