愛弟子からの必死な贈り物
僕の好きな偉人の一人に、ナイチンゲールがいる。
彼女は人間の心理現象にも名前をあてがわれるほどの存在だ。
ナイチンゲール症候群――患者が看病してくれた人に恋愛感情を覚える。
今回はどうやら僕が最愛の彼女にその現象を起こされる話だった。
「マリー、ただいま」
「……帰って来ちゃったのか。おかえり、意外と早かったな」
酷い頭痛の中、彼女達が待っているキャラバンに帰る。
すると僕の奥さんは飄然としながら無粋な台詞で出迎えた。
もしかして、倦怠期?
「どうしたイクト? 声がガラガラだな」
「ちょっと、アビスとの儀式で風邪っぽくなったみたい」
そこで僕はわざと咳をした。
「平気か?」
いつもは気鋭に満ちている彼女のアケビ色の瞳が、今はおぼつかない。
マリーは僕の容態を気遣うように、傍に近寄った。
「移っちゃうぞ」
「移らないって。それよりもゆっくり休んだ方がいいよイクト」
最早、彼女の声音には先程までの無粋さはなくなっていて。
僕はやっぱりマリーのことが好きなんだと、再認識させられた。
◇
僕の代わりにモモがジョージの手綱を握り、キャラバンは更に北を目指した。
みんなには悪いが、今はゆっくり休ませて貰おう。
「イクト? 雑炊つくったよ、食べてくれるか」
「……ありがとうマリー、君が料理するなんて珍事だな」
「珍事って言う程でもないだろ、いいから食べろよ。そんでもって」
と言い、彼女はヘンリーを僕に寄越した。
ほどよく冷えたヘンリーの体温が、僕の身体に溜まった熱を冷ましてくれて気持ちE~。
そうか、スライムにはこんな使い方があったのか。
その昔スライムがまだ人類に愛護されていた頃を想起してしまう。
「ピゴー」
「ほら、ヘンリーもジョージも心配してるぞ」
「ありがとうヘンリー、そしてありがとうマリー」
拙くお礼を言うと、彼女は複雑な表情を浮かべるのだが、何故だ。
彼女が作ってくれた雑炊は思いの外ちゃんとしていて、美味しい。
雑炊の肝は何と言っても出汁だ。
マリーが作ってくれた雑炊は魚介系の味がする。
美味なる雑炊に舌鼓していると、彼女が一心に僕を見詰めているのに気付いた。
何だろう? と若干にやけ面で見詰め返す。
「……惚れ直してくれた?」
「惚れ直す? 僕はマリー以外の異性を好きになったことはないよ」
「嘘吐け」
「ですよねー」
ですよね。
上っ面を全開にした台詞に、彼女は少し笑い、また僕を見詰め始めた。
心苦しいことに、風邪を引いている今では気軽にキス出来ない。
咳は出るし、頭は痛いし、痰もある。
雑炊を食べている間もゲホゲホと鳴りやまず咳していた。
「ご馳走様、本当に美味しかったよ」
「ああ、じゃあ後はゆっくりと寝てろよ」
「そうさせて貰うよ」
この時、熱に魘されていた僕は予想だにしてなかった。
まさか、まさかまさか。
まさか……キャラバンのみんながナース服姿になるなんて。
◇
一睡から目が覚めると、キャラバン内の光景が変貌していた。
僕はそのことに驚き、半ば唖然としている。
「師匠、僕、頑張りましたよ」
「リュト? まさかこの光景はリュトが?」
「エーデル達に言われて、僕は師匠の未来を守り抜きました」
僕の未来……? 僕達が知らない所でリュトは孤軍奮闘していたというのか。
「ん? 起きたのか。どうだイクト、似合ってるか?」
マリーは身体に吸い付くほどピッチリとしたナース服を着ていた。
桃色のナース服は色めかしいことに、際どいスリットが入っているのだ。
「どうしてその服着てるんだ」
「地球のナースさんを真似てみた、私はイクトを看病する使命があるしな」
看病って……エッチいのもありですか? ぐへへ。
僕の中にいるエロゲ中毒の患者は、しきりにナースコールしている。
「イクト、とりあえずここは賢者の孫娘である私にお任せあれ」
「どうする気だ?」
「どうもしない、ただ看病させて欲しい」
……はは、と僕は渇いた笑いを出したのとは裏腹に。
内心では、ナース服に着替えた女性陣に魅了され、動悸を起こしていた。
水色のナース服に着替えたアンリちゃんは退屈そうに読書しているし。
白いナース服姿のオリビアは僕に気付き、こちらにやって来た。
「この格好は父上には決して見せられないな」
「恐縮です、げほ」
彼女の白いナース服は煽情的な赤いラインが入っていた。
裾も短くて、シェイプアップされほっそりとした長い両足が際立っている。
「……私も、出来れば使い魔が欲しい所だ」
「そしたらオリビアにはとっておきの悪魔を紹介してやるよ」
思わずオリビアのナース服姿に悩殺されていると。
マリーが彼女に知り合いの悪魔を遣わそうと申し出た。
「それは願ってもない所だな、どんな悪魔だ」
「カガトのことだな」
「喧嘩売るな、病人の前だぞ」
確かに今の僕は病床に伏しているが、気分は上々だよ。
それもこれも、みんなのおかげだ。
ちょっと意表を突く形だったけど、みんなが着替えてくれたナース服は一種のロマンだから。
そう思うと、恐らくみんなにナース服を用意したリュトに感謝しないとな。
リュト、ありがとう。
けど、キャラバンの雰囲気が妙に俗気を増したみたいで。
僕はたゆまない感謝を贈るのとは背反して、なんか違うなぁと首をもたげたのは内緒だ。
さて、話は変わりますが私は最近セブンのポテト(ここ重要)ポタージュにはまっています。
あのまろやかな味わいに、つい白昼夢を見てしまいますzzz
失敬、今は仕事中じゃないので寝ながら更新するのをお許しください( ˘ω˘ )
明日の朝陽はもう拝めねぇぜ……ウハハハ、英雄たちが帰って来たぁ!
失敬、寝言です。




