成長する馬車
「はいイクト先生質問」
質問を提起したのは女子高校生とも勘違いしそうな童顔のマリーだ。
彼女の幼く可愛い一面と、賢者の孫娘として凛々しい一面。
その多面性には夫である僕もつい興奮してしまう。
「何だねマリーくん」
「ドワーフを探す旅って、どれくらいを予定してるんだ?」
「一年以内には終わるよ」
恐らくね。
「ただ、予定は未定なわけで、僕はキャラバンで世界各地を回ってみたい」
と言うと、マイエインジェルのマリーは不敵な笑みを浮かべた。
彼女が笑う時は肯定的な意味合いだから、僕の心も高揚する。
「キャラバンって、隊商って意味だよね? そんなのする必要あるの?」
「僕は、異世界アルビーダで人以外の生き物と触れ合うことがほとんどなかった」
モモさんの疑問はもっともな所で、アルビーダでの僕は金満家だ。資産を増やすにしても、魔石工房で繁盛した方がいい。けど、魔石工房をより一層拡大化するために、ドワーフ族を探す必要があるのなら。
「どうせならジョージのような他の魔石生物も拾って行こうかなって」
「先生再度質問、魔石生物って?」
「いい質問だねマリー、この後二人きりになった時に教えるよ」
魔石生物とは、サイラス達が普段相手している魔物の別称で。
ジョージのように絶滅が危惧される個体もいる。
僕が昔やり込んだゲームの知識を引っ張り、魔石生物を仲間にして。
そして異世界アルビーダを幻想郷へと躍進させる手伝いをしたい。
地球の人、今も尚アルビーダで暮らす人の生活が豊かになり。
また人類以外の生命とも共存できるように。
ファンタスティックな世界にさ、してみたいんだ。
「そのためには魔石生物を住まわせる牧場が必要なんじゃない?」
「そうだな。でもそのための資金は持ってるつもりだ」
けど、何で浪川もこの集会に混じってるんだ?
言っておくけど、君は連れて行かないぞ。
「まぁ、せいぜい母さんを危険な目に遭わせないでよ?」
◇
と言うことで、翌日。
出社した僕は一応『退職届』をロキ部長に提出しに行った。
「これは私の方で預かっておきますよ」
「受理しないんですか?」
「貴方に抜けられるのは異世界部にとって大きな痛手となりますから」
有難い処置なのか何なのか判らん。
「……余計なことかも知れませんが、この会社のCEOってどんな人なんです?」
「私をこんな風に育てた、と言えば大体想像つきませんか?」
ふむなるほど、わからん。
僕は異世界部のみんなに事情を濁して、しばらく会社を空けると伝えて回った。
僕はいいが、秘書課に在席しているオリビアは急には辞められないらしく。
彼女は秘書課のお局と相談中とのことだった。
オリビアの話がまとまるまでに僕はキャラバンの用意をしておく。
そのために王都ナビアを仕切る元老院に一通のビデオレターを送った。
元老院の返事はいつ来るか判らないけど。
次に、僕はジョージ達を連れて魔石生物が住みやすそうな土地を探す。
「カインさん、アルフヘイムの世界樹あるじゃないですか」
「ああ、あれが何でしょうか?」
「あれの中を牧場仕立てにしたいんですけど、駄目ですかね」
「……はは、はっはっはっは、はぁ、可笑しいな」
そうだろうそうだろう、発想的にとんでもないからな。
「イクトさん、僕と面識を持ってどれくらい経ちました? えぇそうです凡そ千年ですね。貴方は前世の時から僕を悪戯に驚かせて内心物凄く苛々してたんですよ。前世での僕は貴方の存在は害悪だと認めるようになるまで随分と迂遠とした人生を送ったけど、今生ではそうはいかないそうは。僕は徹底的に貴方と闘うって我が主アカシア様の前で誓いを立てたんだ。けどアカシア様は僕をこき使うことしか頭にないようで、これじゃなんのために」
先程の大胆な発言はカインさんの闇をえぐったようだ。
聴こえるか聴こえないかのギリギリの声量でまたぶつぶつ言っている。
「「ピゴー」」
「心配するなジョージにヘンリー、君達の住処は絶対に見つけ出すよ」
「ありー」
……こちらこそありがとうジョージ。
僕は君のおかげで、生きる目標を見失うことはなさそうだ。
今のジョージに言っても理解出来ないだろうけど。
カインさんが設立した事務所の一角で、ジョージ達とのほほんとしている。
カインさんは暗黒呪文のようにひたすら独り言に耽溺しているがスルーで。
「そうだ、お腹減りませんかイクトさん」
「微妙に」
「お腹ー」
ジョージもお腹を空かせたそうなので、魔石を与えた。
するとジョージはヘンリーと一緒に同じ魔石を舐め始める。
イチャイチャしやがって。
「はてな村で貰ったおすそ分けを使って、何か料理しましょう」
「ご馳走になります」
エルフの手料理か、アンチエイジングの予感がする。
エルフが長寿なのは食物に由来するんじゃなかろうか。
しかし、カインさんが差し出したのは普通の根菜料理。
僕は彼とその料理を交互に覗い、口にしてみたが予想通りの味わいだ。
「美味しいですか?」
「普通に美味しいです」
「それはよかった」
今頃マリーは家でお昼寝している最中だろうか。
「さて、帰ろうかジョージとヘンリー」
「そかー」
「もう行かれるのですか? 結局、ここに来た理由は?」
「ドワーフ族を探す旅に使える有力な情報を聞きたかったんですが」
「ああ、それなら、その旅には僕もついて行きますから」
ついて来るのはいいのだが、彼は露骨に足を引っ張りそうだ。
「……はは、可笑しいなぁ」
「さ、ジョージにヘンリー、帰るぞ」
「そかー」
カインさんがまた闇を剥き出しにしそうだから、僕達は一路家を目指した。
ジョージとヘンリーを腕一杯に抱え、移動魔術で瞬っと移動。
「イクト? お帰り、今日は偉く早いな」
「「マリー」」
「ジョージにヘンリーもお帰り」
甲斐甲斐しく出迎えてくれたマリーにキスをして、ジョージ達を下ろした。
「今日から会社は休業することにしたから、キャラバンの方を本格的に始動させるために」
「ふーん、今度はキャラバンで快適な旅か。素敵だな」
「その言い振りってことは、君は行きたくないのか?」
「誰がそう言いましたかね? もちろんついて行くさ」
そして僕達は再びキスをした。
いい雰囲気だ……このまま彼女を押し倒しても、別に何の問題もなさそう。
「今頃イクトの両親はどこで何をやってるんだろうな、元気にしてるといいんだけど」
「父さん達だったら」
僕には地球の両親と、アルビーダの両親。
二組の親がいるけど、地球の方は年金暮らしで平凡に過ごしている。
しかしアルビーダの方の両親は、旅に出た切り音沙汰ない。
二人と別れて何年経ったのかと思うと、さすがに心配になる。
「それを言ったらマリーのご両親もそうだろ?」
「家は典型的な放蕩貴族ですから、心配するだけ損で御座いますよ」
今回のキャラバンの旅で、出来れば父さん達の行方が判ればいいんだけど。
そうご都合的にはいかないのが、人生なんだろうな。
「おっと、爺さんのお出ましだな」
何? 今からマリーを押し倒す予定だったのに。
「唐突に押しかけて申し訳ない」
賢者ブライアンはそのことを慮ってか、先ずは謝った。
それで思い出したのだ、両親はこの人にお世話になったことを。
「いつぞやは、家の両親が世話になりました」
「君達がキャラバンを始めると知り、是非とも渡したい物があって来た」
「お? 爺さん今回は何をくれるんだ」
「私がその昔使っていた、成長する馬車だ」
キ…………キタ――――――ッ!!!
サブカル造詣に深い僕が求めていた代物が、遂に遂に舞い込んだ。
ご都合主義と嗤いたくば嗤え、僕はこの天恵に涙してるんだぞ。
人が泣いてるんだから嗤うな! というお約束。
「外に停めてある、好きに使ってくれて構わない」
「爺さん、寄越すならもっと使えそうなもの寄越せよな」
何と!?
とりあえず見に行こう。
玄関から出ると、何と言うことだろうか。
賢者ブライアンは馬車と言っていたのに、繋がれているのは巨大なスライムだ。
「「ピゴー」」
ジョージ達は巨大なスライムに慄くかのように震える。
「爺さん、この巨大なスライムは何だ?」
「成長する馬車の心臓だよ、名前は自由につけていい」
「じゃあモモさんにお願いするか」
何でも、この巨大なスライムは魔石や魔物を取り込むことによって成長するらしい。
僕の能力はスライムと抜群の相性なようだ。
「イクト、この前身につけた合成能力を使い、ジョージと合体させてみるといい」
「……ジョージ、賢者はこう言ってるけど、どうする?」
「おっけー」
軽いなぁ。
「どうしてジョージと合体させる必要があるんです?」
「このスライムは私に深く忠誠している。私以外の人間の言葉に耳を貸さないのだよ」
そこで、ジョージと合体させ、僕らの言うことを聞くように仕向けると言う訳で。
僕は再度ジョージに判断を委ねた。
「ジョージ、本当にいいのか?」
「いいよー」
どうでもいいけど、軽いなぁ。
ジョージの呑気な性格に僕の心は緩む。
賢者から成長する馬車を託された後。
僕は初めて生物に対し合成能力を使ってみた。
「気分はどうだジョージ?」
「おっけー」
巨大なスライムにジョージの自我が乗っ取られることはなく、ほっとする。
僕とマリーはグッタモの工房まで、試乗してみることにした。
「じゃあ、グッタモの工房まで行ってくれジョージ」
「あいー」
「お? 中々に快適な乗り心地、いいぞジョージ」
マリーは腕にヘンリーを抱えて僕の隣で馬車に揺られている。
揺られると言っても、ジョージが引く馬車に車輪はなく。
馬車は魔石の効能によって宙に浮遊している。
「ジョージ、もう少し速度上げられるか」
慣れて来た頃合いに、ジョージに速度を上げるよう頼んだ。
最高時速四〇キロは出てるんじゃないかな、速度計ないからあれだけど。
「はっはっは! 速い速い!」
マリーはスピード狂のように喜んでいた。
僕は頼もしくなったジョージの成長振りに、陶然としている。
「この馬車であれば、海の上も渡れるよ」
「爺さん居たのか」
「もう消えるが、イクト殿に一つだけな」
「何でしょうか?」
賢者は改まって僕に何か言いたいようだ。
「グッタモの工房を訪れた後、バルバトス三世を尋ねなさい」
「……」
賢者はそれだけ伝えると、今度こそ消え去った。
ヒャッハー! さっすがー!
そこに痺れるあ――べし!
時は世紀末、中世期ロンドン。
世紀末なのに中世期とは何であろうかしかしロンドン。
そこに、一匹の覇王が甦るのだった。
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もしも次作を掲載するようでしたら、世紀末中世期を題材にしたいと思います。
地球のifストーリーで、中世期ロンドンを踏襲した舞台装置と。
何かしらのサムシングで世紀末ぅな世界観を融合させた何かです。
これはマイマニフェストで言う所の、
『※この宣言は予告なしに変更される場合があります、予めご了承ください』
です!




